動物園のお墓

動物園は楽しい所、いつでも愛らしい動物の赤ちゃんに出会える場所。
とそのように、みなさんから考えられもし、動物園側もたくさんの人に来ていただくために楽しい施設だと宣伝もします。
しかし中堅どころの動物園となると千頭を超える動物を飼育しており、多くの動物は人の寿命より短いものばかりです。当然「生あれば死あり」で、毎年、飼育頭数の2割くらいの数が生まれ、そして死んでいきます。動物園はユートピアや極楽ではなく、人間社会と同じ生も死もある場所なのです。

動物園によっては死んでいった動物を供養するお墓や慰霊碑があります。動物園が死に去った動物を慰霊しようとは一体どんな気持ちからなのでしょうか。日本では仏教の強い影響があったとか、古来万物に生命を感じるアニミズムがまだ私たちの心に根付いているからとか、きっと理由はあるのでしょうが、とても不思議です。
最近では、人工授精や受精卵移植、クローン技術などの生命の核心にせまった報道が相次ぎます。その生命の誕生も、細胞が融合して発生するといった仕組みが分かると、生命の神秘性も感じにくくなってきます。死についても命を形作っていた分子どもが働きを終えて、また別の構成物になっていくだけといった、科学的な事象でそれ以上のことはないと考えてしまいます。

覚めた目で生命を見てしまう現代の私たちに、野生動物たちが絶滅している現状をくい止めることができるでしょうか。動物を科学的に管理する手法だけでは不十分です。動物に対するやさしい気持ちを抱くことが大切だともいわれます。動物を供養するのは古い世代の慣習でしかないのかもしれませんが、動物を絶滅から守るヒントがあるかもしれません。このような習わしを見つめなおしてみるのもよいかもしれません。

みなさんは各動物園の動物のお墓を見ながら何を感じるでしょうか。

参考資料
成島悦雄、文化を通して動物を見る、どうぶつと動物園1988年月号