安良里のいるか碑３基￤安良里港

安良里のいるか碑３基　　安良里港：静岡県西伊豆町阿安良里浦上

慰霊の対象：イルカ／創設業種：漁業

海豚供養塔
念のため確認したのは地蔵尊で、いるか供養碑はそのすぐ上にあった。あやうく見逃すところだった。見通しのよい崖の中腹に位置しおまけに雨模様。人目をはばからずアクロバットで計測というわけにはいかないので、大きさは測定していない。
安良里の３基の供養塔はどれもイルカを捕獲した頭数などが記載されている。史実を正確に知ることができるし、当時の人々が何を考えたのか類推させてくれる。この碑は２番目に建てられたもの。昭和七年の大漁に報いるもの。
安良里港は奥深い入り江でイルカを追い込むに絶好の地形だが、1472頭ものイルカの群というのもすごい数である。2月ごろイルカたちはいったいどんな魚の群を追いかけていたのだろうか。イルカは哺乳類とはいえ、一本二本と数えているから大きな魚という感覚で捕獲していたに違いない。碑文
正面：海豚供養塔
右側面：大海豚壹千四百七拾貮本／総貫(九）拾七萬貫／賣上金壹萬壱千五百参拾九圓／追込昭和七壬申歳一月二十八日／捕（終）同□二月二十一日

海豚供養之碑
いるか供養碑と並んでいるが、こちらは菌類がはびこり字がよく読めない。雨につき、ベビーパウダー技も不可。写真をとって後で解読してみた。左側面や裏面は雨天でもあり写真を撮り損ねた(忘れた）。ありがたいことに碑文はそっくり解説板に記載されていた。現代文にしてあるのでこの方が読みやすい。

碑文
正面：海豚供養之碑／□住（岡）覺　　克久書
右側面：明治十五年壬午之春余應請□豆□那賀郡安良里村龍泉寺修授菩薩會
／尾輻輳于海門外於是一村漁人相集□馳小舟
者長ニ丈小者不下九尺自本日至二月十日ニ十間
壹萬餘圓大賑村民云先開會一日有網組當番□□介龍
来相見説某實便□願為海豚建供養塔開□□□曰□開

海豚供養塔碑文（解説板の内容）

明治十五年壬午の春、余請いに応じて、豆州群那賀郡安良里村龍泉寺に赴きて、菩薩
戒会を修授す。
これに先立つ一月十九日、この村に大漁有り。その実際を聞くに、イルカの大小六百
余尾。海門の外に輻湊す。これにおいて一村の漁人相集い、たちまちにして小舟十数
隻を馳せて、それを海門の内に駆り、港口に竹網を張り、ことごとくこれを捕う。大な
るものは二丈、小なる者も九尺を下らず。本日より二月十日に至る二十三日の間、港
内にこれを養い、魚商の来たるを待ちてこれを売り、代価およそ一万余円を収得して、
おおいに村民を賑わすと言えり。
開会に先立つ一日、綱組当番のなにがし有りて、龍泉の長老を介し来りて相見し、そ
の事実を説き、更に乞う。イルカの為に供養塔を建て、甘露門を開かんことを願う。
余賛成して曰く、明日勝会を開くに、汝、漁人隊において人を選び、イルカの為に戒
徒となり、懺悔礼拝を行ずれば、即ち最上の追善なり。漁人もまた必ず滅罪の益あ
らん。なにがし謹みて趣を諾し去り、余の命に従いて浜方五人組の内にて人を撰し、
戒徒と作して、毎日出頭し懺悔礼拝す。遂に塔下に戒脈を埋納して、今、井山一会
の浄侶を宰して焼香、無遮会を修す。
ちなみに、漫に小伽陀一首をねんじて、すなわちイルカの供養に充つる者なり。
伽陀に曰く、善なるかな大イルカ　安良里に輻湊し　解脱門に結縁す　六百有余尾
時に明治十五年壬午の春四月二十七日
円覚寺管長　権大教正　今北洪川　謹誌
＊一丈（いちじょう）・・・三・○三メートル。一尺の十倍(一尺は焼く30センチメートル)
＊輻輳（ふくそう）・・・多くの物事が一カ所に寄り集まること。
＊迦陀（かだ）・・・詩。仏や仏の教えをほめたたえる韻文体の経文。一首が四区からなるものが多い。
＊甘露（かんろ）門を開く・・・浜施餓鬼を修行すること。
＊解脱（げだつ）・・・私利私欲から離れ、何事にもとらわれない境地に入ること。
＊結縁（けちえん）・・・仏道修業をし、成仏の因縁を結びこと。
＊無遮会（むしゃえ）・・・賢愚、貴賎、上下の階級によって差別する事なく、何人にも平等に財と法との施しをする仏教の大きな法事。
平成十六年七月十六日　安良里自治会

いるか供養之碑
この碑は字がよく読めると思ったら、中日新聞によれば石碑を磨く活動を続けている人たちがいるそうだ。さまざまな碑は思いを伝えるために作られたのであるから、苔などは掃除するのが正しいと思う。風情というか味わいはなくなるかもしれないが。

正面：いるか供養之碑／特住岡覺別峰書□

裏面：いるか漁獲高

昭和九年	一九六頭	三、五ニ八メ
仝十一年	一、○ニ七〃	一八、四八六メ
仝十七年	ニ○、一三一〃	四七一、六八七メ余
仝十八年	七、七六一〃	一九一、六六四メ余
仝十九年	六、五七九〃	二一八、一九七メ余
仝ニ十年	四、四七三〃	一○一、八九一メ余
仝廿一年	五、四七○〃	一五一、九六ニメ余
仝廿ニ年	三九五〃	一五、四六五メ余
仝廿三年	五八一〃	一五、ニニ○メ
仝廿四年	六、八一ニ〃	一八○、九五六メ余
計	五三、四ニ五〃	一三六九、○五九メ余

茲ニ海豚組合ノ發願ニ因／リ上記昭和九年ヨリ仝ニ／十余年十月ニ至ル十年間／ノ漁獲五萬三千四百二十／五頭ノ供養碑ヲ建立ス就/中昭和十七年ヨリ仝二十／一年ニ至ル大東亞戦時漁／船ノ徴用空襲下ノ不況並／ニ終戦後ノ食糧事情等ニ／於イテ外食糧資源に貢献／シ内村氏ヲ賑濟シタルノ／功大ナルモノアリ今ヤ田／子、宇久須二村ノ尊宿ヲ悃／請シ無遮會ヲ修スルニ當／リ一偈ヲ打シ以テ海豚ノ／供養ヲ伸ブ偈ニ曰ク　魚／躍寶樓閣　鳥飛廿露門　打開無礙水　這裡絶群冤　干時昭和二十余年十一／月十七日　幻住龍泉二十八世　□道敬誌

碑銘	場所	大きさ（cm)	位置
海豚供養碑	東防波扉横	本体：未計測（角柱神塔型）	位置Ｎ３４　４９　２３　８Ｅ１３８　４６　０８　４　精度+-5ｍ
海豚供養之碑	港最奥部	本体：３０.５Ｗ×１３２Ｈ×２８Ｄ（角柱神塔型）	位置Ｎ３４　４９　１７　７Ｅ１３８　４６　０２　２　精度+-６ｍ
いるか供養之碑	港最奥部	本体：１１０Ｗ×１３７Ｈ×２５Ｄ	位置Ｎ３４　４９　１７　７Ｅ１３８　４６　０２　２　精度+-６ｍ

撮影日：2010/7/7