M72.室戸海岸の朝・冬は暖か、昼・夏は涼しい(市民講座)

著者:近藤純正
室戸岬漁港「とろむ」と国立室戸青少年自然の家の駐車場において気温観測を 行なった。室戸海岸の気温について、内陸の江川崎や中村、高知、安芸などと 比較し、その特徴を示した。室戸は黒潮の影響を受けて、気温の季節変化・日変化の 幅が小さい。(完成:2014年9月24日)

本報告は2014年10月31日、室戸市健康福祉センター「やすらぎ」において行なう市民 講座の内容である。

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(結果や方法、アイデアなど)の参考・利用に際し ては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。


トップページへ 身近な気象の目次

更新記録
2014年9月20日: 概要の作成



室戸海岸の朝・冬は暖か、昼・夏は涼しい
ー最近の観測を基にしてー


近藤純正(東北大学名誉教授)



1.はじめに
   室戸岬観測所、今回の気温観測の目的

2.観測の結果
   「とろむ」、「室戸青少年自然の家」の気温

3.各地アメダス、江川崎ほかとの比較
   海岸からの距離と気温の関係

室戸特別地域気象観測所 (旧室戸岬測候所)
・・・・・ 略称:岬観測所

位置と標高: 北緯33度15.1分、東経134度10.6分、標高185m

沿革(主なことのみ)
大正9年(1920年)7月10日 中央気象台室戸測候所設立、観測開始
昭和11年(1936年)7月5日 室戸岬測候所と改称
昭和35年(1960年)8月25日 気象レーダー1号機設置
昭和36年(1961年)9月の第2室戸台風の全体像をレーダ観測
昭和45年(1970年)4月1日 スカイライン完成
平成18年(2006年)11月28日 風向風速計を海上保安庁無線方位 信号所敷地内に移設
平成19年(2007年)5月31日 旧測風塔(40m)を解体
平成20年(2008年)10月1日 無人化、室戸岬特別地域気象観測所
平成23年(2011年)3月    同上 観測所局舎完成

<旧測候所測風塔> 左:旧測候所の40m測風塔、 右:測風塔から見下ろした露場と庁舎(2005年11月19日撮影)
<今回の 気温観測の目的>




高知県東部・室戸の気温は、テレビで室戸岬特別地域気象観測所 (標高=185m:旧測候所)の最高気温で報道されることが多く、 「室戸は高知より寒い」という印象がある。

しかし、地元で暮す人々は「室戸は暖かい」と感じている。

これを確かめるために海岸の代表地点・室戸岬漁港「とろむ」に おいて2014年1月23日から気温の連続観測を行なうことにした。
<室戸は高知より暖かい -昔も今も- >

             室戸岬  高知  気温差
1921~1950年 16.1℃ 15.6℃   0.5℃ 室戸岬が高温
1980~2009年 16.6   16.9  -0.3℃ 室戸岬が低温 
気温上昇量   0.5    1.3        高知は都市化 
○室戸岬観測所の標高=185m
  海岸近くの年平均気温は観測所より1.3℃高温

○室戸の市街地は、都市化影響により 0.5℃ほど高温
(全国中都市の都市化による気温上昇の平均=0.5℃)
室戸市街地(年平均気温推定値=16.6+1.8=18.4℃)

<今も>
18.4℃(室戸市街)-16.9℃(高知)=1.5℃(高知より高温)



その他の特徴も調べてみよう!
⑥<気温の観測>
試験観測
 *岬観測所、旧室戸岬小学校、防災公園、岬海岸展望台
  2013年10月29日~11月1日

 *国立室戸青少年自然の家の駐車場
  2014年1月23日~28日

連続観測
 *室戸岬漁港「とろむ」のドルフィンセンターの駐車場
  2014年1月23日~8月8日
 (8月9日~10日、台風の波しぶきでモータ停止)

*国立室戸青少年自然の家の駐車場
  2014年5月13日~9月4日

四万十川流域観測 海岸から内陸までの気温変化を知る
  2014年4月2日~9月6日
<室戸岬の地図>(国土地理院地図から引用)
自然の家(標高=270m),岬観測所(185m),とろむ(3m)
<四国西南部の地図>(国土地理院地図から引用)



海岸から内陸へ、日中の気温分布は?
四万十川の河口から江川崎、さらに上流へと気温計を配置


<西土佐大橋から北方を望む>( 2014年9月7日撮影)

<山村ヘルスセンターから西を望む>( 2014年4月3日撮影)
赤四角印:江川崎アメダス


<気温の観測は難しい>

* 地域の代表気温を観測

  日当たりと風通しのよい開けた場所で観測

  風通しが悪い狭い場所では、
      日中の気温は1~2℃高く観測される

* 気温計は放射の影響
  (日中の太陽光、夜間の低温天空放射)
  により、日中は2~3℃高め、夜間は0.5℃程度
  低めに観測されることがある。

* 放射の影響を0.02℃以下にするために、
  4重の通風装置にPtセンサーを入れる。

<室戸岬漁港「とろむ」に設置した気温計>
(2014年1月23日撮影)

<室戸青少年自然の家の駐車場に設置した気温計>
(2014年1月23日撮影)
5月から9月までの連続観測時は「とむろ」に設置した気温計と 同型に取り換えて観測
⑭<気温日変化、とろむと岬観測所と自然の家の比較> 2014年5月-7月の65日間の平均

<気温観測のまとめ>

<室戸海岸「とろむ」の気温の推定式>

平均気温=岬観測所の平均気温+1.3℃

最高気温=岬観測所の最高気温+1.0℃

最低気温=岬観測所の最低気温+1.0℃



「問題1」

〇 2013年8月12日、江川崎で最高気温41.0℃を記録。
  とろむ はそれより何度低かったか?(4℃、7℃、10℃)

〇 2014年1月の24日(晴天)の最低気温は江川崎で-3.6℃。
とろむ はそれより何度高かったか? (5℃、8℃、11℃)





<室戸海岸の気温の特徴を調べてみよう>





他の観測所のと違いに注目

江川崎、中村、須崎、高知、ごめん、安芸


日変化・・・・・・朝と昼の気温


季節変化・・・・・季節による違い




<真冬の気温の日変化>
上図:14日間の平均気温、下図:晴天の4日間の平均気温
下図によれば、江川崎の晴天日の朝は、「とろむ」より約8℃ 寒いが日中は3℃高い。

<盛夏の気温の日変化>
上図:22日間の平均気温、下図:晴天の6日間の平均気温
下図によれば、内陸の江川崎の晴天日中の 気温は「とろむ」に比べて約4℃高温である。次の図 (四万十川沿いの気温観測)を参照。

<夏の晴天日の昼過ぎの気温は、海岸からの距離によって どのように変わるか?>

四万十川沿いの気温分布の観測結果、(例)2014年7月25日

日中の気温は内陸ほど上昇し、江川崎 では河口より約5℃高温になっている。

(21)
<平均気温の季節変化>「とろむ」と6アメダスの比較

「とろむ」はとくに冬の12月~1月に暖かく、江川崎に比べて4.8℃(12月)、 4.2℃(1月)も暖かい

(22)
<最高気温と最低気温の月平均値>
上図:1月、下図:8月
(23)
<「とろむ」を基準のゼロとしたときの気温差> 赤印:8月の最高気温、青印:1月の最低気温
「とろむ」では8月平均の最高気温は江川崎より2.7℃低く、
1月平均の最低気温は江川崎より5.6℃高い。

(24)
<2013年5月~8月の最高気温と最低気温の差>
赤丸印:晴天日の平均、灰丸印:5~8月毎日の平均
晴天日の「とむろ」における気温変化幅は6.7℃で、 高知(11.0℃)の61%、江川崎(17.0℃)の39%である。
(25)
<室戸沖の水温と室戸岬の気温の季節変化>
室戸海岸の特徴は「黒潮」の影響が大きい

(26)
<風速の違いによる海水温度の日変化(晴天日)>
左図:Kondo, et al(1979)、
右図:近藤「地表面に近い大気の科学」(2000)による

変化幅が小さい海水温度の影響を受けて、 室戸では気温変化が小さい

「問題2」海水温度の日変化幅は、なぜ小さいか?




まとめ

室戸海岸は黒潮の影響を受けて気温の変化が小さい。朝・冬は暖か、昼・夏は涼しい。
晴天日の気温変化幅は室戸で6.7℃、高知で11.0℃、江川崎で17.0℃である。

室戸海岸の気温の推定式
 平均気温=岬観測所の平均気温+1.3℃
 最高気温=岬観測所の最高気温+1.0℃
 最低気温=岬観測所の最低気温+1.0℃


平 均 気 温    室戸海岸は岬観測所より1.3℃高温(高度減率=0.74℃/100m)
                 自然の家は岬観測所より0.4℃低温
                 自然の家は室戸海岸より1.7℃低温(高度減率=0.64℃/100m)

8月の最高気温  室戸海岸は高知より2.2℃涼しい
          室戸海岸は江川崎より2.7℃涼しい(7℃低いことも)

1月の最低気温  室戸海岸は高知より4.2℃高温
         室戸海岸は江川崎より5.6℃高温(11℃高いことも)



トップページへ 身近な気象の目次