M32.氷山を日本に運ぶプロジェクト
	著者:近藤純正

		要旨
		備考(山ある国は豊か、融雪杭の色と融雪速度)
		参考書
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2008年3~4月開催の市民講座「緑の家学校」連続講座の第4回 後半の要旨と質問・回答である。

1987年夏に仙台港で開かれた「未来の東北博覧会」に北極海から1万5千トン の氷山を運んでくることが提案された。氷山をアラスカ湾から 仙台港まで運ぶことになり、途中で融けないようにする方法も考案された。 最終的にはスポンサーの問題となった。運搬には危険もあり一種の冒険であり、 失敗するとイメージダウンを心配する会社が多かった。紆余曲折があり、 結果としてグリーンランドから30トンのミニ氷山を運び展示し、人々を楽し ませた。 (要旨の完成:2007年12月26日)


要旨

1970年前後のことであった。南極大陸周辺から氷山を曳船で引いてきて、 砂漠地帯の水資源に利用できないか? ということが話題になった。 氷山が途中で半分融けるとし、曳船のチャーター料を差し引いても莫大な 儲けになる、というものであった。

氷山は極域の冷たい海水中ではほとんど融けることなく漂流しているが、 暖かい赤道海域を通るときは、200mの厚さの何億トンという氷山でも 数日間に融けてしまう。このことは、学生の演習問題として出しておいた (「身近な気象の科学」のp.159)。

1986年11月末のことであった。仙台市民の有志・小野恒夫さんがやってきて、 「1987年の7月18日~9月28日に仙台港で開かれる”未来の東北博覧会”会場 に北極海から1万5千トンの氷山を運び、入場者に乗ってもらい真夏の仙台港 で北極を体験してもらう」という。その可能性について相談を受けた。

私はすでに、外国で計画された氷山運搬について、融解の計算をしてあった ので、「それは不可能です」とお断りした。 しかし、小野さんは何度もやってきて、私はその話を聞いて いるうちに、氷山を直接海水に触れさせなければ氷山の運搬は可能かもしれ ないと考えるようになった。少年たちが氷山の実物を見て、科学する心が 芽生えると同時に、ものごとの実現には科学の知識や高度な技術のほかに、 情熱をもって推進する人たちと支援者が必要であることを知ることになる、 と思った。そして、私のそれまでの研究が氷山運搬という応用にも耐える かどうか、試されることになる。このプロジェクトを支援することにした。

紆余曲折があり、資金集めが困難となり、当初の1万5千トンの氷山は あきらめた。その代わり、30トンのミニ氷山を運び、「氷山の館」に展示 することができた。

備考

(1)山ある国は豊か
一般に、高い山では雨や雪の量、つまり降水量が多い。いっぽう、蒸発量は気温が低いほど少なく なるという気象学上の法則があり、高い山ほど寒いので蒸発(蒸発散)による 水の損失が小さくなる。そのため、高い山があれば水資源が豊かだといえる。

水資源量=(降水量)-(蒸発量)
の関係により、標高が高くなるほど水資源量は大きくなる。山が高く気温が 氷点下になれば、雪が積り流出しにくいので、高地ではますます貯水効果が 大きくなる。

大規模な氷雪地や氷河が存在する場所は、南極とグリーンランドのほか、 スカンジナビア半島、南米パタゴニア、アラスカ南部の太平洋沿岸の山脈、 などにある。アラスカ南部には4000~6000m級の山脈があり、 冬に多量の雪が積るからである。

高地に積った雪は圧縮され、重くなって重力にしたがってゆっくりと流れ 下る。これが氷河である。氷河が海に流れ出たり、崩れ落ちて氷山が生れる。

(2)融雪杭の色と融雪速度
雪国では春になると、樹木の周りから雪が融け始める。木の根元を中心と して、すり鉢状の穴ができ、融けたところから地面が露出してくる。 この現象がなぜ生じるか?

植物は、春が近づき日差しが増してくることを感知し、新しい活動を始め、 その生命力が熱を出し、雪を融かすのか? そうではない。よく観察すると、 植物の根元ばかりでなく、無生物であるはずの電柱や枯れ木の杭の周りも 同じように融けている。杭が太陽熱で温まり、融雪を促進するのか?

注意深く観察すると、日の当たらない北側でも、林の中でも木の周りが 融けている。枝葉からの目に見えない長波放射の影響もある。杭の色、 積雪面の汚れによる日射の反射と吸収の度合い、そのほか風速や さまざまな条件の組み合わせにより融け方は違ってくる。 黒色の杭の周りが早く融けるのは、おもに微風のとき、白色の杭の周りが 早く融けるのは、風が強いときである。

参考書

近藤純正、1987:身近な気象の科学(東京大学出版会)、16章「融雪」

近藤純正、1987:夢氷山-氷山を日本に運ぶプロジェクト-、東北大学 生活共同組合、pp.146.

近藤純正ホームページ:「身近な気象」の 「6.氷山運搬計画『夢氷山』」

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