放射冷却の理論的な要約

(放射冷却の大きさを決める条件)


これは、「2.放射冷却と盆地冷却」の章で説明した内容の要約である。

夕方の地表面温度を基準とし、それからの温度下降量を夜間冷却量 (放射冷却量)とすれば、次の式で表現できる。

夜間冷却量=放射最大冷却量× 時間変化の関数

(1)放射最大冷却量は大気の条件によって決ま る。

放射最大冷却量≒夕方の正味放射量÷ (4σT04

ただし、T0は夕方の地表面温度(夕方の気温にほぼ等しい: 絶対温度)、σ(=5.67×10―8Wm―2)は ステファン・ボルツマン定数である。

夕方の正味放射量が大きくなるのは、地表面温度に比べて大気全体の 温度が低く、かつ大気全体に含まれる水蒸気量(=可降水量) が少ないときである(晩秋から早春)。

一方、都市の場合は建築物の密集化・高層化が進むと、地表面から見える 天空率が小さくなり、建物からの赤外放射量が付加され、そのぶん正味放射量 が小さくなる。

夕方の地面付近の気温が低いとき、上式の分母(4σT0 4)は小さいので、放射最大冷却量が大きくなる。 放射冷却量は放射最大冷却量に比例する。

(2)時間変化の関数は冷却速度を表すもので ある。地表面近くの土壌層(雪が積もった時は積雪)の熱的パラメータ (熱容量と熱伝導係数の積)が小さいときほど、冷却は時間とともに急激に すすむ。

つまり、新雪が積もったときや、晴天が続いて土壌の表層が乾燥したとき、 放射冷却は急速に進み、夜間の放射冷却が大きくなる。

都市構造物が増え、さらに道路が舗装されると地表面の熱的パラメータが 大きくなり、冷却速度がにぶくなる。結果として朝方の冷却量は小さくなる。

微風夜でも空気は流れているので、地上気温は、観測点のごく近傍の 地面と建築物だけでなく、平坦地であれば、数100mから数km 範囲により影響される。つまり、広範囲に住宅・建築物があり舗装されて いるような場合、夜間の地上気温は影響を受ける。

地形と冷却量の関係
地形的には盆地や谷地形では、(1)上空の一般風を遮蔽しやすいことと、 (2)斜面でつくられた冷気が盆地内に堆積し下向きの大気放射量が 少なくなることによって、放射冷却が大きくなる。

盆地や谷地形における夜間の冷却量は、形状が V 字状か U 字状か、 その他の地形を表すパラメータや大気条件などに依存する。以下では 概略的な目安について述べておこう。

日本の平均的な気候条件とし深さ200mの盆地を想定すれば、夕方から翌朝 までの気温下降量、つまり冷却量は盆地の底で10℃程度、山頂部で2℃程度 となる。盆地底から斜面に上るにしたがって最低気温は100mにつき4℃程度 の割合で高くなる。ここで盆地の深さとは、盆地周辺の分水嶺の平均標高 と盆地の底との標高差である。
こんどは深さ1000mの盆地を想定すれば、冷却量は盆地の底で12℃程度、山頂 部で2℃程度となる。盆地底から斜面に上るにしたがって冷却量は標高と ともに、100mにつき1℃程度の割合で減少する。平均気温の高度減率 (0.6℃/100m)を考慮すれば、朝の最低気温は高度100mにつき0.5℃程度の 割合で高くなる。


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