近藤純正の講演要旨

これまでの境界層研究ー私の研究を中心にして、そして温暖化問題ー

要旨
気象学の基礎は100年ほど前にできており、Rayleigh散乱(1871)、Plankの 黒体放射(1900)、表層海洋内のEkmanスパイラル(1902)、Prandtleの境界層 理論(1904)、Mie散乱(1908)などがある。大気境界層の研究は1915年の G.I.Taylor による大西洋上の高度1000mまでの温度拡散係数の算定がはじ まりだろう。

太平洋戦争の戦後復興にともない水資源・電力不足という社会情勢の中で、 筆者が始めたのは十和田湖蒸発の研究である。大気安定度の影響を考慮する 必要からKEYPS式が生れ、野外観測によって特に安定なときKEYPS式は成り 立たないことが分かり、プロファイル関数の実験式を使うことになる。

1959年の伊勢湾台風による高潮災害、1960年代の冬期東シナ海低気圧の 発達による首都圏の交通麻痺や海難事件から数値天気予報の精度向上という 社会的要請から国際協力研究「気団変質実験研究AMTEX」が計画される。

「バルク法」の精度向上のために、数々の基礎研究を行いバルク法が完成し、 東シナ海の日々の広域海面熱収支分布を知ることができた。さらに、 AMTEX 終了後も、多くの追加研究から、このバルク法は十分な精度をもつ ことを確認した。

1980年代に起きた戦後最大の大冷害と、1983年の東北地方多地点山林火災 一斉発生事件により、各種地表面のパラメータ化と、盆地冷却、複雑地形 の研究を行なうこととなる。

裸地面パラメータ化によれば、乾燥砂漠の蒸発量は風速にほとんど無関係 であること、気候学的な水収支関係は土壌種類と雨の降り方で決まること、 新しいポテンシャル蒸発量の導入によって水収支データがよくまとまる ことが分かった。

地球温暖化による気温上昇は、これまで言われているほど大きくないことが 田舎観測所データからわかってきた。近年、気象観測所の周辺環境は悪化し、 都市化や陽だまり効果の影響を受けて、広域における自然状態を知ることが 困難になってきている。観測露場の周辺環境の変化によって気温や風速が どのようになるか、今後は数値シミュレーションによっても明らかにする 必要がある。


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