松島 大の研究内容

これまでの研究

1.地表面の放射温度を用いた顕熱フラックスの推定
植生地における熱赤外の放射温度は、植生密度と測定角によって大きく 異なる場合がある。水田における実測により、バルク式を用いた顕熱 フラックス推定のために用いる地表面温度を放射温度により与える場合、 最適測定角は天底角70度付近だった。ただし、測定角が重要になるのは 葉面積指数が0.2~2程度の場合だった。気象衛星ではほとんど最適測定角 における測定はないため、衛星輝度温度では顕熱が過大評価になる。 これを補正する式も作成した。さらに、熱粗度などのパラメータと測定角 との関係も明らかにした。

2.熱収支モデルによるバルク係数とフラックスの推定
バルク係数や地表面の湿潤度など地表面熱収支に関するパラメータが 未知の場合でも、日射量・地上気象・地表面温度が既知の場合、熱収支モデル を用いてパラメータとフラックスを推定する方法を開発した。

研究の現状と将来の方向性

1.乾燥・半乾燥域での地表面水分条件の把握
数年前から、モンゴルの草原を対象にしてフラックスの時空間分布の推定 を試みている。これは、地表面パラメータの最適化において、蒸発効率と ともに、表層土壌の熱慣性(熱容量と熱伝導率の積)が、土壌水分との相関 が高い形で推定されることが分かったためである。

これは、モンゴルの草原では、表層土壌の体積含水率が、降雨直後を除外 すれば、たいてい15%以下であり乾燥していることと、乾燥時には熱伝導率の 含水率依存性が大きいことに因るからだと考えられる。それゆえ、 衛星データを利用すれば表層土壌の水分条件の広域分布図の作成が可能になる と予想される。

衛星データが数十年ぶん貯まってきた現在では、これを利用したクリマト ロジーの研究が盛んになってきており、多くは 植生指数 NDVI の年々変動が 明らかになり、植生期間がだんだん長くなる傾向が示されている。 特に、都市周辺における温暖化シグナルが顕著である、という論文もで てきている。

今後の研究によって、NDVIのような直接的なプロダクトだけでなく、 熱慣性のような二次的なプロダクトを精度よく提供できれば、衛星データの 利用価値がさらに上がるものと考えられる。

土壌水分に関しては、近赤外域における波長による水分吸収の差を利用した 研究が最近報告されている。これは、直接的には葉の水分量を推定して、 土壌水分にもつなげようとするやり方である。

まだ、どの論文も確定的な結果とは言えないが、マイクロ波による土壌 水分計測の空間分解能があまり上がっていない現状に対抗する形で、 このような研究が盛んになっているという印象を受ける。いずれにせよ、 砂漠化や水資源の問題が近い将来厳しくなるだろうと考えられる状況の中 で、今後の研究は、土壌水や地下水に関係する問題に集約されていくと 思われる。

2.陸域環境研究と地域計画
モンゴルのような、半乾燥域では気象・水文現象と人間活動も含めた 生命活動の相互作用が短期的にも顕著な形で見出されやすい。 日本のような温暖湿潤な地域でも、人間活動による微気候や生態系の改変が 見出され、社会問題となることもある。陸域環境研究の目的の一つに は、さまざまな空間スケールに応じた暮らしやすい環境の実現があるはずで、 所属が変わったこともあり、このような考察も深めていきたい。


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