備考
(湖面の年蒸発量の緯度分布)
年蒸発量は、年平均気温が高い南日本では700~1,000mm、
年平均気温が低い北海道では500mm前後である。
多くの人々は、「南日本で蒸発量が多いのは日射量が多いからだ!」と
理由を述べる。だが、正しくはそうではないのだ!
実際に年平均日射量を調べてみると、南日本と北日本では、その量の比は
150/130=1.15程度である。また、目に見えない赤外放射量の
正味吸収量(正味赤外放射量)の違いはほとんど見られない。
蒸発量に南北差を生むのはなぜか?
蒸発を生じるエネルギーの源は、もともと太陽エネルギーであるのだが、
湖面に入った放射量(日射量と大気放射量)が蒸発の潜熱に
使われるぶん(潜熱輸送量)と水温を暖め大気へ直接輸送されるぶん
(顕熱輸送量)の割合が気温によって変わるからである。
顕熱輸送量の潜熱輸送量に対する比(ボーエン比)は気温に依存し、
気温の高い南日本では放射量の大部分が
蒸発の潜熱として使われる。この関係を示したのが右図である。
ボーエン比が北日本で0.7~1ということは、水面に入った正味の放射量
の約40~50%が顕熱に、残りが蒸発の潜熱に変換されていることになる。
南日本でボーエン比が0.3前後ということは、正味放射量の30%が顕熱に、
残りの70%が蒸発に使われている。こうした法則(これを「ボーエン比の気温
依存性」という)によって、南日本で蒸発量が多くなっているわけだ。
ボーエン比と気温の関係は、エネルギー配分則の基本である。
熱帯海洋が受け取った放射量は、その大部分が海面蒸発に使われている。
注意!
上に示した左図では、蒸発量は気温だけの関数のように見える。
このことからわかるように、昔、気象資料の乏しい1948年にソーンスウエイト
は蒸発量あるいは可能蒸発量(ポテンシャル蒸発量)を気温の関数で表わした。
その方式は最近まで長く利用されてきた。
近年、蒸発量などの熱収支量をより正確に知りたいという要望がでてきて、
従来方式に変わって物理則・熱収支に基づく方法が出てきた。
現代では、アメダス等により気温のほか風速や日射量(日照時間から
推定が可能)など、きめ細かく観測されるようになり、データ入手も容易
であり、観測地点以外でも気象要素の推定が可能となった。
左図のプロットの傾向について平均曲線が引ける。その平均曲線より上
に分布するのは、入力放射量が大きく、あるいは風速も強い湖である。
反対に、平均曲線より下に分布するのは、入力放射量が小さく、あるいは
風速も弱い湖である。