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L13  感想文 「新バケツモデルに興味」(YT)2006年5月06日

私は土木技術者として、これまで、水力発電所の計画、設計を、さらに、 河川計画関連の水流の問題に係わって参りました。しかし、そこで扱われて いる工学手法は、すでに、確立された手法を適用することがほとんどであり、 また、そのようにすることで、信頼を得る安全なインフラを作ってきたと 思っております。

しかしながら、構造物は、自然の驚異と過酷な運用にさらされたとき、 想定外の挙動を示すものであることや、日々の環境に与える影響が問われ、 さらに、資源の貴重性が認識される時代になってきたように思っております。 すなわち、このような、新しい問題に対応するには、物事の本質と成り立ち を知り、原点に返って考える態度・能力が次の計画・設計へ反映されるものと 思っております。

先日、流出解析について、問い合わせがあり、1時間程度で話せる概論を 記述しました。作成後、先生の新バケツモデルのことが気になり、先生の著書 「水環境の気象学」を見ますと、これまでの小生は残念ながら、物事の本質 と成り立ちの原点である物理的気象学思考や地球・太陽との関係、地球規 模での蒸発散量分布、流出率、降雨量の概念が、まだまだ不足しているのを 痛感した次第です。先生の、著書の副題―地表面の水収支・熱収支―こそが、 流出解析の究極であるように思った次第です。

その手始めの論文として、先生の下記の論文を入手したいと考えております。 また、先生のHPで流出解析の課題も掲載・ご教示いただけますれば幸いです。

○(196) 近藤純正:表層土壌水分予測用の簡単な新バケツモデル. 水資源学会誌, 6(4), 344-349、1993
○(202) 近藤純正:面白かったモデル生い立ちの話-菅原先生へのお礼 の手紙から.水文・水資源学会誌,6(3),274-275.1993
○(226) 近藤純正・本谷研・松島大:新バケツモデルを用いた流域の 土壌水分量、流出量、積雪水当量、及び河川水温の研究.天気、42(12), 821-831、1995

[編者のメモ]
これまで、読者からご請求があればは論文の別刷りはゼロックスコピー をして送ってあげていましたが、これを契機に、今後は pdf ファイルに作成 しておいて、それをお送りするようにしたいと思います。

災害等を伴う洪水予報を行う目的で「タンクモデル」が菅原正巳博士によって考案 され、広く利用されていますね。洪水による水位は10分~1時間程度の短時間 に大きく変動するために、それを予報するのには数多くのパラメータが 必要なことは当然です。一方、地球規模の広域の蒸発散量評価の目的で 「バケツモデル」がManabe(1969)によって考案されています。この場合には、 土壌水分が概略1日単位で分かればよいので、パラメータは少数でよいことに なります。

一般に気象学分野では洪水予報が目的でなく、表層の土壌水分が関係する 蒸発散量や地温、あるいは河川水温を知りたいのです。それには「タンクモデル」 のようにパラメータが多くなくてよいが、そうかといって「バケツモデル」 よりは詳細な土壌水分の変動を予報したい。

1990年のことでした。「全地球エネルギー・水循環実験観測計画」(GEWEX: Global Energy and Water Cycle Experiment)という研究プロジェクト の実行案を作るための連絡がおこなわれていました。その中で、編者は 次のことを宣言してありました。すなわち、 「バケツモデルやタンクモデルに代わるモデルを開発して・・・・・・」と。 しかし、当時は、その開発のめどはなく、希望的な宣言・目標に過ぎなかった のです。このような宣言をしておいてよいのかな? と気掛かりになっていまいた。

この気掛かりが頭の奥に刻印されていたでしょう。その宣言から間もなく、 「新バケツモデル」が生れることになるのです。

ホームページ上でも、そのうちに、新バケツモデルについて解説したいと 思っています。




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