120. 花菜ガーデン

著者=近藤 純正
平塚市には県立の「花菜ガーデン」があり、四季折々の草花が楽しめる。季節ごとに テーマが設けられており、「春告げの小道」「バラの歴史園」などがある。北方に大山、 西方に富士山が一望できる。(完成:2013年7月14日)

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私の住む平塚には、2010年3月1日に開園した「花菜ガーデン」がある。 面積は約9ヘクタール、かなり広い植物園である。

この数年間の私の活動を知った内藤玄一さんから「花菜ガーデン」を利用させて もらって試験観測ができるのではないか、と提案されたことから知ったしだいである。

気象観測所の環境が変化し、周辺に樹木が生えて狭くなると、「日だまり」となり 気温が高めに観測される。これは観測の誤差となる、私はこの問題に取り組んでいる。

「花菜ガーデン」は拙宅の北西約3.5kmにある。正式名称は「神奈川県立花と 緑のふれあいセンター」、「花菜ガーデン」は一般に公募して付けられた愛称。 神奈川県の「かな」をもじったものだと思う。

ここは農業や園芸を楽しみながら学べる施設、3千余品種の花々が植栽された 「フラワーゾーン」と、田植えや野菜の収穫など体験できる「アグリゾーン」、 さらに展示室や図書室、食堂などがある「研究棟ゾーン」の3つに分かれている。

花菜ガーデンは、株式会社かながわ GA パートナーズが神奈川県 から受託して管理運営をしている。園長の佐久間浩さん、ほかの皆さんのご協力を いただいている。

気象観測所の環境が良好な模範場所として、広い芝地のセンターフイールドの中央で 測った気温を基準とする。この広場には、写生する人々もいる(写真120.1)。

センターフィールド
写真120.1 センターフィールドで写生する人たち、遠方は大山。

北の方向には標高1252mの大山がそびえている。写真には写っていないが、 右手の展望台「みはらしデッキ」は「関東の富士見百景」として選ばれており、 西方に富士山が一望できるポイントである。

園内の「キッズファーム」を環境が変わった観測所にみたてる。ここは生垣で囲まれ、 狭い空間。気温観測装置を設置して、広いセンターフィールドの気温との差を調べる (写真120.1)。

キッズファーム
写真120.2 キッズファーム、中央に写っているのは気温観測装置。

乾電池式のファンモーターで空気を通風筒に吸引し、20秒間隔で3時間の平均気温 を記録する。気象観測露場の広さと気温上昇量の関係を調べるのが目的である (「研究の指針」の「K75. 日だまりの気温ー各地の 観測結果」を参照。)

職員の塩原香澄さんが通りかかった。自然をよく理解しているベテランのように見受け られる。私が「この狭いキッズファームの気温は広いセンターフィールドの気温に 比べて何度ほど違うと思いますか?」と尋ねてみると、「キッズファームのほうが 1~2℃ほど高温でしょうか?」という。私はたいへん驚いた。日常の経験を積んだ ひとは学者以上の知識を持っている。

4月10日と11日の日中3時間平均値の観測ではそれぞれ1.49℃と1.55℃の 高温であった。

私は彼女のことを知りたくなり、探して話を聞くと、造園関係でもう15年ほど仕事 をしているという。

樹木などによって風通しが悪くなると、日中の気温は上昇する。東京の皇居外苑・北の 丸公園に新設された観測所では、大手町のビル街にある現在の大手町観測所に比べて、 晴天日中の最高気温の差は平均0.5℃、大きいときは1℃~1.5℃ほども高温となる (「研究の指針」の「K60. 森林の開放空間 ”日だまり”の気温」の図60.7を参照)。

北の丸公園が特殊でないことを確かめるために、目黒駅の東にある自然教育園内の 開けた空間で晴天日に測ってみると、正午前後の気温は大手町に比べて 0.7~0.9℃ほども高温であった(「研究の指針」の 「K60. 森林の開放空間”日だまり”の気温」の表60.2と60.3を参照)。

多くの人々は、森林は涼しいと言うが、正しくは日陰が涼しいのであって、森林内でも 日が当たる場所は高温の「日だまり」となる。

温度1℃の違いは小さいようだが、東北地方の大冷害は夏3か月平均気温が平年より 1℃低い年に起きている。

昭和63年から平成元年にかけて私が心臓手術で東北共済病院に140日間入院して いたときのこと。ベッドに寝ていて暑く感じて毛布を外す時と、寒くて毛布を掛けた 時の室温の違いを測ってみると、その限界は23.8℃、殆んど一定、私は1℃の 違いを感じて毛布の掛け外しをしていた。当時の病室は古い病棟、現在は新築され ている。

話しを「花菜ガーデン」にもどそう。バラの歴史園「薔薇の轍(わだち)」には、 野生種から最新のバラまで約1100品種1600株が植えられている。バラの品種 改良の歴史、つまり、バラと育種家が辿った今日までの道のりを、車の通った両輪の 跡=轍(わだち)に例えて「薔薇の轍」と名づけたと説明されている。

バラ園は小区画ごとに工夫を凝らしたバラ園がつながり散歩しながら楽しめる (写真120.3)。隣には、池に浮かべた花を展示する一角もあった(写真120.4)。

バラ園
写真120.3 バラ園の一角、バラと像。

池に浮く花
写真120.4 池に浮く花

開園してからまだ3年目であり、整備中のコーナーもある。アグリゾーンに大きな 棚があるので近づいてみると、「キウイ」が植えられてあった。成長すると、 やがて美味しい味が楽しめるだろう(写真120.5)。

キウイの棚
写真120.5 キウイの棚

研究棟ゾーンには東西に長い2棟の建物が南側と北側に並んでおり、その間は通路 である。天井は梁構造がむき出し、私はちょっと風変わりな設計だと思っていた。 通り過ぎて振り返ると、芸術風景! 天井の梁の日陰が通路に映り、見事な幾何模様 を作っているではないか! 建築家が太陽の位置と建物の向きを計算に入れて設計した のであろうか(写真120.6)。

日陰の芸術
写真120.6 研究棟の中庭にできた日陰の芸術

「花菜ガーデン」の周辺は田園地帯、新しい住宅地もある。近くには、農協の大型 農産物直売所「ジェー・エイ湘南あさつゆ広場」がある。採れたての新鮮野菜、 地産地消の取り組みをしている。普通のスーパーとは少し印象が違っていた。

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