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6.温暖化問題の難しさ =近藤純正=

以下の約1,400字の文章は、高知新聞社
から掲載の許諾を受けたものである

私たちの生活が便利になるとともに、石油・石炭な どの消費が増え、二酸化炭素(炭酸ガス)が大量に排 出されるようになった。その結果、地球の気候が温暖 化し、異常気象と災害の頻発が心配されている。これ が地球温暖化問題であるが、これには2つの面で難し さがある。一つは政治・社会、もう一つは観測による 温暖化の現状把握にある。

地球温暖化防止のための京都議定書が本日2月16 日から発効する。各国は二酸化炭素などの排出量を削 減する義務を負う。そのため日本の環境省は環境税の 導入などを考えているが、経済界にはそれに反対する 動きもあり、問題解決が難しくなっている。

一方、観測資料から温暖化の実態を知ることと、将 来の気温上昇を予測することはきわめて難しい。現在、 公表されている資料によれば、地上気温の世界平均値 は過去百年間に0.6~1℃の割合で上昇しており、 今後は加速されて世紀末の上昇量は数℃にも達するだ ろうと予想されている。

しかし、この数値の基となったデータの多くは都市 にある気象台や測候所で観測されたものであり、いわ ゆる都市化の影響を受けて、平均気温はいなかに比べ て上昇の割合が大きい。

例として、高知と室戸岬を比較してみよう。高知地 方気象台の前身・高知測候所は1882(明治15)年に 現在の高知市若松町に設立、1888(明治21)年~1939 (昭和14)年の期間は高知城の二の丸にあったが、 1940年から南比島町に移転した。その後、庁舎は本町 に移ったが、観測場はそのまま比島に置かれた。

以前の比島は周辺に田畑もあったが、周辺環境は変 化し、観測場の周りには住宅が密集。さらに最近では 再開発によって新しい住宅地として整備された。

こうして建築物・舗装道路・排熱量の増加・緑地の 減少など都市化が進んだ。その結果、昔の高知の年平 均気温は室戸岬より低かったが、最近では逆転し、高 知がわずかながら高温となった。

都市化による気温上昇は都市域だけの現象であるの に対し、二酸化炭素の増加による温暖化は地球全域に 及ぶ現象である。

都市の年平均気温はいなかに比べて高くなってきて いるので、地球温暖化の実態を知るにはいなかの観測 所のデータを調べなければならないが、いなかの観測 所では村役場、あるいは民間人に委託するなど、また 時代によって観測所の廃止・再編が頻繁にあり、デー タの適切さ、継続性に問題がある。

こうしたデータの不備を補い、なんとか整理をして みると、過去百年間の気温上昇量はこれまでの算定値 より小さいことがわかってきた。

ここで、「地球温暖化はそんなに大きくないのか!」 「二酸化炭素の排出量抑制はしなくてもよいのか!」 と早合点してはならない。気温の上昇は小さくても、 雨の降り方が変わり、干ばつや洪水の頻発、その他の 現象が顕著になる可能性があるからだ。

これらの現象は気温の変動に比べて、その実態把握 が難しい。私たちが異常に気づいたときは手遅れにな っているかもしれない。

二酸化炭素の増加割合が年々大きくなっていること は疑いのない事実である。地球を守ることは人類を守 ること、その対策は人間の知恵と行動にあるのだ。
(高知県吾川郡いの町出身・神奈川県平塚市中里49の6)

―2005年2月16日付高知新聞朝刊『所感・雑感』に掲載―

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