講演内容（2009年11月14日に予定したもの）
題名：気象と歴史―過去500年に学び未来へ生かそう
講師：近藤 純正（東北大学名誉教授）
会場：深浦町役場 文化ホール
日時：平成21年11月14日（土）午後1時３０分から2時間
講演内容
江戸時代に記録された古文書の解読から、次々に生じる疑問を解いていくと、
気候変動と社会現象が深く関わりあっていることがわかった。また、災害
克服の歴史から日本が先進国にいたる道のりを知ることができた。さらに、
地球温暖化監視の観点から、深浦測候所は貴重な観測所であることを紹介
する。
１．天保大飢饉時代の天候の再現
天保時代の14年間にわたり、毎日の天候を克明に記録した日記が宮城県
涌谷町に残されていた。その著者・花井安列にちなみ、これを花井日記と
よぶ。
日記では、気温は「冷気」「大暑」「暑甚敷」など、雨は「雨少々」
「大雨」など階級的な表現で書かれている。当時の天候を再現してみると、
天保７（１８３６）年の夏3ヵ月平均気温は平均値より２．８℃も低温で
あり、明治以降の気象観測時代に起きた大冷害年をしのぐ未曾有の冷夏で
あった。コメ収量は平年の10％にも満たず、餓死する者も多く、社会的混乱
が生じた。
２．大規模火山噴火と異常気象
花井日記には、その前年の天保６（１８３５）年４月１日付に（新暦換算）、
「此節毎朝、日出赤く」とある。他の記録によれば、2ヵ月前の１月20日に
中米ニカラグアで火山大噴火があり、その噴煙が天保６、７年の大冷夏を
もたらしたのではあるまいか。
過去を調べてみると、「天明大飢饉」は浅間山とアイスランドのラキ火山
噴火後に、「明治１７年の大凶作」はインドネシアのクラカトア火山噴火後
に発生している。そのほか、大噴火の直後に日本では大冷夏が発生している。
例外として、昭和初期に頻発した大冷害は、大噴火はなく発生している。
調べてみると、昭和初期は海水の異常な低温時代であった。過去500年間の
世界の漁獲量には数十年のサイクルがあり、ソーラン節など民謡の発祥、
社会の混乱など、栄枯盛衰も気候変動と深く関わっている。
３．災害克服の歴史
江戸幕府が開かれる以前には、飢饉・大凶作の大部分は干ばつによるもので
あった。幕藩体制下において、各藩は自国を豊かにすべく教育、地方自治、
森林保護、灌漑施設の普及により、３００年の歳月をかけて干ばつによる
大規模災害は克服されてきた。それには、平和と教育が大きな役割を果した。
いま、地球温暖化や環境汚染により、人類は危機に向かうことが危ぶまれて
いる。私たちは、どのような世界・社会、どのような暮らし方を選ぶべきか
が問われている。
４．深浦観測所の沿革
近代的な気象観測は、1854年11月14日、英仏連合軍対ロシアの「クリミヤ
半島の海戦」でフランス軍艦が沈没し、暴風雨の予測の必要性が生じたこと
に始まる。日本では1872（明治５）年に函館に気象観測所が開設された。
深浦では1926（大正15）年9月1日に県水産試験場深浦分場にて気象観測が
開始され、1940（昭和15）年1月1日に岡町210の３に移設、中央気象台深浦
観測所となり、1950（昭和25）年6月1日に深浦測候所と改称された。
1972（昭和47）年3月22日に庁舎改築、深浦検潮所が新設落成し、2004
（平成16）年10月1日から無人化されて、深浦特別地域気象観測所と改称
された。
５．地球温暖化の実態
気候変化は気温、風速、降水量、日照時間など様々な要素が互いに関連して
生じる。ここでは比較的変動が少なく、観測精度が高い気温を中心にみて
いく。
気温は単調に上昇しているのではなく、数十年サイクルの変動も混ざって
いる。気温は100年間当り0.67℃の割で上昇しているが、最近30年間の
上昇がとくに大きい。今後の監視が重要である。太陽黒点周期と同期する
気温変動と、急激に上昇する"ジャンプ"の変動幅は北海道や東北地方で
大きい。
６．重要な気候監視―深浦観測所
近年、多くの観測所（青森など）の周辺は都市化するなど環境が悪化して
おり、温暖化などの気候監視ができなくなってきている。
深浦では測候所開設の1940（昭和15）年以来、70年間にわたり貴重な
観測資料が蓄積されてきた。周りには住宅などは無く、環境整備によって
風通しをよくすれば、日本海沿岸では日本一の環境に恵まれた観測所となる。
深浦は世界自然遺産"白神山地"を有し、気候監視を行うにふさわしく、
観測所を世界に誇れる名所にしよう。
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