結氷時の水温と熱収支の条件
(1) 準定常性の仮定が成り立つか?
容器に入れた水の厚さ 30 mm(=30 kg m-3)の水面から正味放射量が失われているとき、
水温が1℃だけ下降するのに必要な時間 δt はいくらになるか。この δt が対象としている氷結現象の時間
に比べて十分小さければ、準定常現象として取り扱える。一方、δt が大きければ、温度変化の
方程式を扱うことになる。
水の比熱をc=4.21×103 J kg-1K-1、単位面積当たりの
水の質量を m=30 kg m-2、水温下降量を DTw=1℃、水面が失う正味放射量
を Rn=96 W m-2(表47.2参照)、また、[W=J s-1]を
考慮すれば、
δt=熱容量/熱放出量=cmDT / Rn
=( 4.21×103[J kg-1K-1]×30
[kg m-2]×1[℃] )/ 96[W m-2]
=1316s=22分・・・・・・・・・・厚さ 30mm の水のレスポンス(目安)
22分は対象としている氷結現象の時間(数時間~一晩の長さ)に比べて十分に小さい。
したがって、以下では準定常現象として水温の時間遅れを考慮せずに熱収支量(顕熱・潜熱輸送量)
を計算する。
(2) 氷面と氷板直下の水との温度差はいくらか?
結氷時に氷板の下面と上面間の温度差を ΔTw,下面から上面への伝導熱を Q、氷の熱伝導率を λ、
氷の厚さを M とする。氷面から大気へ失う正味放射量を Rn とし、微風時を想定すると、
Rn は近似的に Q と釣り合っているので、次の関係が成り立つ。
ΔTw=QM / λ≒RnM / λ
表47.1を参照すると、氷の厚さの一晩の平均値は 14.7/2=7mm=0.007mである。
さらに表47.2 を参照して、Rn(=316-220)=96 W m-2、
λ=2.24 W m-1K-1を上式に代入すると、
ΔTw=Tw-Ts≒96×0.007/2.24=0.3 ℃・・・・氷の下面・上面間の温度差
下面では氷が生成中なので、その温度は0℃である。したがって、微風夜の氷面の平均温度は
近似的に Ts≒-0.3℃ である。
(3)容器の交換速度の目安は?
水面と大気の間で交換される顕熱・潜熱輸送量に対する交換速度は測定していないので、
ここでは目安を見積もる。
微風晴天夜の容器(直径=2r=240 mm)の置かれた場所(容器の上、約0.2~1mの高度)
の風速を U=0.3 m/s とし、円形容器の水面上の長さを X(=水面の面積÷直径=πr2/2r
=0.19 m)、空気の動粘度をν(=1.4×10-5m2s-1)
とすれば、
レイノルズ数:Re=XU/ν=4100
「水環境の気象学」の式(7.37)より、D を水蒸気の分子拡散係数として、
バルク係数:Ce=0.664(ν/D)-2/3Re-0.5=0.0145
したがって U=0.3 m/s のときの交換速度は、
CeU=0.0145×0.3=0.004m/s・・・・・・・・交換速度の目安
顕熱輸送の交換速度 ChU もほとんど CeU に等しいとしてよい。
(4) 結氷前の水温・気温差は?
水の熱容量が無視できる準定常性が成り立つことがわかったので、水温 Tw と気温 T の差は
近似的に次式で表される。微風夜を想定し、蒸発効率 β=1 の水面として(「地表面に近い
大気の科学」、式5.17~5.22を参照)、
Tw-T≒{(有効入力放射量)-(大気の可能潜熱要求量)}/大気地表面間の熱交換率
有効入力放射量=L-σT4
大気の可能潜熱要求量=lρChU [qSAT(1-rh)]
大気地表面間の熱交換率=4σT3+CpρChU+lρChU⊿
0℃付近を対象としているので、「水環境の気象学」、表6.2より、
qSAT=3.76×10-3(温度 T に対する飽和比湿)
σT4=316 W m-2
4σT3=4.63 W m-2K-1
⊿=2.74×10-4K-1(⊿=dqSAT/dT)
Cpρ=1.3×103J K-1m-3(空気の体積熱容量)
ρ=1.3 kg m-3(空気の密度)
夜間の相対湿度 rh=0.8として、これらを代入すると、
Tw-T≒(-96-9.8)/13.3=-7.8 ℃・・・・・・結氷前の水温・気温差の目安
参考: 夜間の物体温度が気温よりいくら低温になるか、計算結果の例が「地表面に近い
大気の科学」、図5.7に示されている。その図では、相対湿度 rh をパラメータとし交換速度 ChU との
関数で表されている。横座標 ChU は風速とみなしてもよい。
表47.2を参照すると、日没前の気温は 7.3 ℃であり、これより水面は 7.8 ℃低い
-0.5 ℃と推定できる。つまり、微風晴天夜を示す表47.2の条件では、日没のころから
水温 Tw は近似的に0℃になることがわかる。
以上の見積もりは、容器の底と側壁が断熱されていて、底と側壁からの熱伝導が無視できる
場合であることに注意のこと。
以上をまとめると、結氷の進行中は(2)で示したように、氷結にともなう潜熱が発生し
氷板の温度は0~-0.3℃(表面温度 Ts=-0.3℃、未氷結の水温 Tw=0℃)に保たれる。
また、(4)で示したように、夕方から氷ができ始める直前までの関係は上の式で表される。
つまり、夜間の水の温度 Tw は0℃程度で推移することになる。