K222.日本の正しい地球温暖化量の観測、提案の経過


著者:近藤純正
国の方針としては、日本を対象とした気候変動の観測・予測・影響評価は環境省、 文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁が行なうことになっている (環境省)。
このうちの、長期にわたる気温観測を精確に行なうことは100年以上の経験と気象 測器を検定するセンターを持つ気象庁という組織だけが実現できる。これは、 筆者が多くの組織による気温観測資料を解析して得た結論である。

気温観測では、観測露場近傍の周辺環境の変化、すなわち樹木の成長や建物など の状態が変われば日平均・年平均気温が高めに観測される。 これを「日だまり効果」による誤差という。 地球温暖化、すなわち長期の気温 上昇率を精確に観測するには、樹木などの直接的な影響を受けないように、風速 を測っている高さ20~30mの測風塔に温度計を設置して観測すべきことを 2020年1月に提案した(「K196.地球温暖化 観測所の実現に向けて」 「K208.観測の誤差から真実を見るー地球温暖化観測所の設立に向けて」)。

以下は「気象庁の気象観測所の測風塔で気温の長期変化を観測すること」を提案 してからの経過のまとめであり、2021年11月30日に気象庁で開催された別の問題 に関する会議に出席された知人にお願いして、気象庁長官に手渡していただくよう 気象庁の担当者に渡した内容である。 (完成:2021年12月3日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2021年12月1日:素原稿
2021年12月3日:完成
    目次
        要旨
        はじめに
    「地球温暖化観測所」設置の提案     
        研究者有志による検討の結果

        備考1:国立環境研究所地球環境研究センターによる塔の観測
        備考2:日本の観測所の観測環境の悪化問題
        文献               


・・・(以下は気象庁長官に手渡していただくようお願いした内容である)・・・

日本の正しい地球温暖化量の観測、提案の経過

東北大学名誉教授 近藤純正


要旨

社会の要請に応える日本の地球温暖化量(気温の長期変化率)の評価を目的と した観測を今後継続的に行なうために、観測露場周辺の地物の影響を受けない 測風塔で気温を観測する「地球温暖化観測所」を提案する。


はじめに

気象庁発表の「日本の地球温暖化量」(国内気温の長期上昇率)では、観測 資料の経年変化に基づき、1.1℃/100年と見積もっている( ごく最近の気象庁発表では1.26℃/100年)。しかし、ここでは 観測方法・統計方法・測器の時代による変更による誤差、都市化影響や観測 地点のごく近傍の環境変化による影響「日だまり効果」が十分に考慮されて いない。また、近年の地球温暖化はさらに進行していると考えられ、観測に 基づく、より正確な地球温暖化量の評価を継続的に行なっていく必要がある。

「日だまり効果」による誤差の補正方法を見いだすために、私・近藤純正は この20年間、気象庁や各地公園管理者、地域住民、研究者有志の協力を得て 各地の観測所や公園などに気象観測器を設置して観測・調査を行ってきた。


「地球温暖化観測所」設置の提案

気温観測に誤差(地域代表性の誤差)を生む観測所のごく近傍の環境が時代と ともに変化していくことは避けることができない。そこで、ごく近傍の 地物の直接的な影響を受けない観測所の測風塔に通風式気温計を取り付けて観測 する「地球温暖化観測所」設置の提案を2020年2月10日に気象庁観測部談話会に おいて行った。その談話会では、気象庁職員のひとりから、「地球温暖化観測所 を実現させるには気象庁長官宛てに要請書を提出することが必要である」と 言われた。

研究者からの、正しい地球温暖化量を知りたいという要望を背景に、水文・水資 源学会、日本森林学会、日本経済団体連合会(経団連)から「地球温暖化観測所 (測風塔での気温観測)設置」の要請書が気象庁長官に提出されている。 また産業界の経団連では1997年から「環境自主行動計画」を推進し、温室効果 ガスの削減・抑制に取り組んできており、その後は「低炭素社会実行計画」 「カーボンニュートラル行動計画」と形を変えつつ発展し、産業界における 対策の柱として位置付けられている。企業が気候変動対策に取り組み、それを 検証するにしても、地球温暖化の実態を正確に把握することが重要と認識されて いる。

こうした状況を踏まえ、気象庁が研究者有志の協力も得て、全国の数か所の 測風塔で気温観測を行ない、その途中で時々結果を国民に知らせ、論文も公表 する。この方法がよいことを世界中で理解してもらい、WMOも認めることになれば、 世界中がこの方法で温暖化量を正しく観測するようになる。

現在、世界には何十という数の気候モデルがあり、気候を長期的・量的に シミュレーションすることが行われているが、どれも不完全であり、計算結果 には大きなバラツキがある。それらの平均的な計算結果を参考にして政治・社会 で対策がたてられていることはやむを得ない。真実は正しい観測によってのみ 知ることができる。


研究者有志による検討の結果

私・近藤純正は、これまで国・県の機関、大学や民間組織による気温観測資料を 解析してきたが、通風筒に及ぼす放射影響が大きく0.5~1℃程度の誤差を含む ことが多く、また10年以上の気温の長期観測では測器の変更時などに不連続が 生じることがあるが、担当者はそれに気づいていない。

最近のこと、観測に理解のある研究者有志とともに、測風塔で地球温暖化量を 正しく観測する問題について検討した。研究者は数年間の短期間なら測風塔での 観測は可能であるが、正しい長期観測は不可能である。しかし、気象庁は100年 以上の観測経験と気象測器検定試験センターをもち、長期間にわたり気温を 正しく観測できる唯一の組織である。WMOの指示はなくとも、 「日だまり効果」の大きい日本の気象観測所では、地球温暖化量を正しく観測 するために、北海道から南西諸島までの数か所の測風塔で気温を観測すべき である。その候補として網走、銚子、南大東島の気象台がある。


備考1:国立環境研究所地球環境研究センターによる塔の観測

国立環境研究所地球環境研究センターでは全国3か所の観測塔でCO2など 温室効果ガス濃度の長期変化の観測とともに、気象要素の観測も行なっている。 温室効果ガス濃度の観測が主目的であるために、気温観測資料は整理・公表する ことなく放置されている。本務でないために気温観測には欠測が多く、気温観測 用通風筒の放射影響誤差も大きい。気象庁のように長い経験もなく、検定試験 センターもないことにより、正しい気温の長期上昇率の観測は難しい。これは 予算の問題ではない。


備考2:日本の観測所の観測環境の悪化問題

気象庁観測所は、無人化にともない広い敷地は不要とみなされ売却されたこと、 また周辺に建物などができたこともあり観測環境が悪化し「日だまり効果」に よる観測誤差(地域代表性の誤差)が生じている。また、この誤差は時代とともに 変化すると考えられる。この問題に関する筆者らの論文はアメリカ気象学会誌に 掲載された(Sugawara and Kondo, 2019)。 日本では観測環境の良い広い敷地に新たに 観測所をつくることが難しいので、既存の観測所の測風塔に気温計を設置して 地球温暖化量を観測すべきである。

2005年1月、アメリカ海洋大気庁NOAAは気候変動の正しい観測を目的として 米国気候基準ネットワークUSCRN(United States Climate Reference Network: USCRN) の運用を開始した(Diamond et al.2013)。


文献

Sugawara, H. and J. Kondo、2019:Microscale warming due to poor ventilation at surface observation stations. J. Atmos. Oceanic Tech. 36, 1237-1254.
Doi: 10.1175/JTECH-D-18-0176.1

Diamond , H.J., T.R. Karl, M.A. Palecki, C.B. Baker, J.E. Bell, R.D. Leeper, D.R. Easterling, J.H. Lawrimore, T.P. Meyers, M.R. Helfert, G. Goodge, and P.W. Thorne, 2013: U.S. Climate Reference Network after one decade of operations: status and assessment. Bull. Amer. Meteor. Soc., 94, 485-498.



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