K20.1日数回観測の平均と平均気温
著者:近藤純正
	20.1 はしがき
	20.2 毎日3回観測による平均値と日平均気温
	20.3 毎日4回観測による平均値と日平均気温
	20.4 毎日6回または8回観測による平均値と日平均気温
	要約
	資料
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最近の気象官署では連続的な気象観測が行なわれ、毎時の気象データが 入手できるようになった。しかし、以前には、1日に3回、あるいは4回、 6回(永年気候観測所など)、8回、その他があった。 気温の6回または8回観測の平均値は24回観測 による年平均気温とほとんど等しいが、3回観測による年平均値は0.1~0.3℃ ほど低めに、4回観測による年平均値は0.1~0.2℃ほど高めである。この補正量 を経度の関数(南中時の時刻の関数)として表すことができた。 (2006年7月20日完成)


20.1 はしがき

最近の気象官署では連続的な気象観測が行なわれ、毎時の気象データが 入手できるようになった。しかし、以前には20ヶ所ほどの観測所を 除けば、1日に3回(6、14、22時)、あるいは4回(3、9、15、21時)、 6回(永年気候観測所など:2、6、10、14、18、22時)、 8回(3、6、9、12、15、18、21、24時)、その他があった。

これらの観測回数は観測所ごとに一定というわけではなく、時代によって 変化している。それゆえ、気候変動を調べるには、少数回観測から求められて いる年平均気温や月平均気温は現在の24回観測による平均気温に換算(補正) して比較する必要がある。

気象庁のホームページや気象庁年報(CD-ROM)に発表されている毎年の 月・年平均気温の経年変化は、時代による観測回数の変化を考慮せずに 統計された値であるので、0.1~0.2℃以内の精度で長期変動を調べる際には、 この補正をほどこす必要がある。

本章では1930~1940年に日本の気象官署で行われた毎正時、24回観測の気温 データを解析し、昔の少数回観測による年平均気温を補正する方法を見出す。 最近のデータでは多くの気象官署の周辺が都市化されており、気温の日変化 パターンが昔と異なると考えられるので、昔の百葉箱内で観測された気温 データを解析する。昔の多くの気象官署(当時は測候所の呼び名)は 市街地から離れた広い場所に設置されていた。

20.2 毎日3回観測による平均値と日平均気温

補正量は次式によって定義する。

気温の年平均値=(毎日3回観測の気温の年平均値)+補正

図20.1は3回観測の場合の補正量と経度との関係である。各プロットは毎正時 観測の気温データから、6時、14時、22時の観測気温を選びそれを平均した 値を3回観測による平均値とした。 上段は補正量、下段は補正量を気温日較差で割り算した値である。右列の青色 プロットは岬状の地形に位置する観測所について示してある。

図の読み方で注意すべきは、上段の図では補正量を0.01℃の単位で表して あるので、例えば縦軸の目盛が10の場合、補正量は0.1℃となる。 下段の図では補正量を0.01℃単位とし、気温の日較差は1℃単位で計算 してあるので、縦軸の目盛が3で、気温の日較差が10℃の場合、補正量は (3×0.01)×10=0.3℃となる。

補正量はいずれも+0.1~+0.3℃程度である。

3回観測の補正
図20.1 気温の3回観測(6, 14, 22時)の平均値の補正量と 経度(東経)との関係。
(左)内陸と海岸部の観測所、(右)岬状の観測所( 1950年までの長崎、下関、御前崎、弾崎、稚内、根室)。
長崎は1898年~1950年12月31日まで標高131.5mの場所にあったが、 1951年1月1日から標高31.5mの場所に移転。


図中に描いた平均的な補正曲線は、次の図20.2に示した、観測所における 南中時刻のずれと補正量との関係を参考にして描いたものである。 同図の記号説明枠内にある地点名に付けた数字は気温データの年で、 一日24回観測の資料がある典型的な年について示した。

3回の観測時刻のずれ
図20.2 観測時刻を(6, 14, 22時)より仮に早めた場合の補正量 の関係。
補正量は8時間の周期関数となることを示している。
(上)内陸観測所、(中)台北以外が沿岸観測所、(下)岬状の観測所。
プロット記号説明枠内の地点名につけた数字は気温データの年を意味する。


岬状の観測所で補正量が小さいのは、気温日変化が海上のそれに近い 変化をしているからであろう。

気温日変化が仮に1波数の正弦関数で表されるならば、8時間ごとの3回観測 なら、どの組み合わせでも補正量はゼロ、つまり3回観測で日平均気温が 求められるわけだが、正確には1波数の正弦関数では表現できないので時刻の 選び方によって補正量がプラスになったりマイナスになり、うまい具合に 補正量がほぼゼロになる選び方もる。

図20.2によれば、観測時刻を6時、14時、22時を選んだために 日本全域の平均的な補正量は最大になっている。その代わりに、2時間早めた 4時、12時、20時の組み合わせだったならば、補正量はゼロに近い最小値に なったはずである。

(注)台湾の台北における1937年までの気象観測は当時の西部標準時 (東経120度を基準)で行われていたが、1938年以後は日本中央標準時 (東経135度基準)で行われるようになった。図の作成に際しては、この ことを考慮し、すべて日本中央標準時に換算してある。
台北の経度はもっとも西に位置するために図中の他の曲線より位相が 大きくずれており、補正量は南中時刻によることが確認できる。

20.3 毎日4回観測による平均値と日平均気温

前節で示した3回観測の場合と同様に、4回観測(3, 9, 15, 21時)についても 補正量は次式によって定義する。

気温の年平均値=(毎日4回観測の気温の年平均値)+補正

前節と同様に補正量と経度(東経)との関係を調べた。4回観測では補正量はマイナスと なることがわかる。つまり4回観測の平均値は日平均値よりも高温となる。

3回観測では岬状の観測所とそれ以外の観測所で違いが大きく、区別して プロットしたが(図20.1)、4回観測では区別するほどの違いはないので、 図20.3では両者をまとめてある。

4回観測の補正
図20.3 気温の4回観測(3, 9, 15, 21時)の平均値の補正量と 経度(東経)との関係。
岬状の観測所も区別なく、プロットに含まれている。
(上段)の縦軸は補正量、単位は0.01℃、(下段)の縦軸は補正量(単位:0.01℃)を 気温日較差(単位:1℃)で割り算した値。


図20.3中の緑の線の関数形を決めるために、3回観測の場合の図20.2と同様に (観測時刻のずれ)と(補正/日較差)との関係を図20.4に示した。

4回の観測時刻のずれ
図20.4 観測時刻を(3, 9, 15, 21時)より仮に早めた場合の補正量 の関係。
補正量は7時間の周期関数となることを示している。
(上)内陸観測所、(中)台北以外が沿岸観測所、(下)岬状の観測所。
プロット記号説明枠内の地点名につけた数字は気温データの年を意味する。


図20.4(下)に示す岬状の観測所では傾向が2つのグループに分かれているが 年によるばらつきもあり、全資料を含めればその傾向は明瞭でなくなる。 それゆえ、図20.3では岬状とその他の観測所をグループ分けしないでプロット してある。

図20.1、20.3において、同じ経度の座標上に縦に3~6個のプロットが並んで いるのは同一観測所の値であり、年によるばらつきは0.1℃程度もある。 つまり、平均カーブを利用する場合、単年度の誤差は0.1℃程度となるが、 気候変動の長期解析、例えば10年以上の長期間を対象とする場合には誤差は 0.1℃より、はるかに小さいとしてよいだろう。

20.4 毎日6回または8回観測による平均値と日平均気温

毎日6回(2, 6, 10, 14, 18, 22時)、または8回(3, 6. 9, 12, 15, 18, 21, 24時)の気温観測の平均値は十分な精度で毎正時24回観測による年平均 気温を表すことができる。すなわち、各観測所の補正量の平均値とその 標準偏差は次のようになった。

6回観測・・・・・補正量=+0.006℃±0.018℃
8回観測・・・・・補正量=-0.002℃±0.009℃

備考: 1968年の頃以後、アメダスを含むほとんどの観測所では毎日24回観測から 気温の日平均値が求められるようになった。それ以前には3回、4回、6回、 8回観測の時代があり、観測所ごとに気温の観測回数とその年代は違っている。 これは「中央気象台年報」から調べた結果である。
1990年に廃止された永年気候観測所(札幌、根室、秋田、宮古、輪島、松本、 米子、潮岬、清水(足摺)、福岡、鹿児島、沖縄、石垣島、及び水沢緯度 観測所)では1953年以降は6回観測であるが、それ以前については観測所ごと に調べる必要があり、観測回数は原則として不明である。
気象庁ホームページや気象庁年報(CD-ROM)に掲載された月・年平均気温は 何回観測による値なのか不明であり、宮古について現地で原簿を調べて みると、1939年1月~1952年12月の14年間のみ3回観測(6, 14, 22時)、それ 以外は6回観測(2, 6, 10, 14, 18, 22時)であることが確認できた。 他の観測所(温暖化など長期気候変動を調べる寿都や室戸岬などの観測所) については、今後原簿等から調べて一覧表を作成する予定であるが、 気象庁統計室で調べることも可能とのことである。

要約

地球温暖化など気温の長期変動の大きさは100年間あたり0.2~0.3℃程度と 小さいので、より正確な実態把握をするためには、平均気温は0.1℃ またはそれよりもよい精度で求める必要がある。

本章では、昔の3回観測、4回観測時代に観測された気温を補正する方法を 検討し、次の結果を得た。

(1)1日3回(6, 14, 22時)の観測による平均気温は24回観測の日平均気温 に比べて0.1~0.3℃ほど低く、経度の関数で表すことができる。

(2)1日4回(3, 9, 15, 21時)の観測による平均気温は24回観測の日平均 気温に比べて0.1~0.2℃ほど高く、経度の関数で表すことができる。

(3)毎日6回(3, 6, 10, 14, 18, 22時)、または8回(3, 6, 9, 12, 15, 18, 21, 24時)観測による平均気温は十分な精度で日平均気温として 利用することができる。

資料

中央気象台編、1930~1940:中央気象台年報.

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