黒球の温度上昇の近似計算法
黒球の温度 Tb が気温 T よりいくら上昇するかは、
黒球表面における熱収支式から計算することができる。ここでは黒球は
日射に対しても赤外放射に対しても反射のない黒体とする。いっぽう地表面は
日射に対して反射するが赤外放射に対しては黒体とする。
記号の定義
放射
R↓:球の単位面積当たりに入る入力放射量(W/m2)
I : 直達日射量(W/m2)
Sd:散乱光(W/m2)
Su=ref×S:日射の地表面からの反射量(W/m2)
ref:地表面のアルベド
S↓=I cosθ+Sd:水平面日射量(全天日射量)
θ : 太陽の天頂角
Ld:大気放射量(W/m2)
Lu=σTs4:地表面からの赤外放射量(W/m2)
温度と空気の物性
Tb:黒球の表面温度(K)
Ts:地表面温度(K)
T : 気温(K)
⊿T=Tb-T:黒球の温度上昇(℃)
T1=T+(⊿T/2):黒球温度と気温の中間温度(K)
α=4σT13
Cpρ:空気の体積熱容量(1気圧、20℃で1.21×103 JK-1m-3)
a : 空気の分子温度拡散係数(1気圧20℃で2.12×10-5m2s-1)
ν : 空気の動粘性係数(1気圧20℃で1.51×10-5m2s-1)
黒球
d=0.15m:標準的な黒球の直径
U : 風速(m/s)
Re=Ud/ν :レイノルズ数(無次元)
Gr=g⊿Td3/(Tν2):グラスホッフ数(無次元)
ChU=(a/d)N : 顕熱の交換速度(m/s)
Nf=C1+C2Re(1/2):強制対流のヌッセル数(無次元)
Nn=C1+C3Gr(1/4):自然対流のヌッセル数(無次元)
N=C1+C2Re*(1/2):両効果を含むヌッセル数(無次元)
Re*(1/2)={ Re2+(C3/C2)4Gr }(1/4)
球に対する熱交換の係数
C1=2
C2=0.6
C3=0.46
(注1) この実験定数のうち C2=0.6 は今回の直径0.15mの
黒球に対して Re=3×103~6×104の範囲に適用
できるように選んだ値である。
もともとは、 Re=2×103~2×105の範囲において、
もっとも近似のよい式は、
Nf=2+0.34×Re0.57
であるが、黒球の温度上昇の計算では、ベキ数=0.5としたほうが式が単純
になるので、0.34の代わりに0.6、ベキ数0.57の代わりに0.5を用いた。
(注2)サイズが通常の温度計、すなわち0.01m程度以下の球について、
10<Re<2×103の範囲では、C1=2、
C2=0.49、C3=0.46である(「大気境界層の
科学」、表3.1参照)。
なお、C1=2、C3=0.46は今回の
条件 Re=3×103~6×104、
Gr=106~7×105の範囲まで適応できる。
その他
g=9.8 m/s2:重力の加速度
σ=5.67×10-8W m-2K-4:ステファン-ボルツマン定数
黒球は熱伝導のよい金属で作られており、その温度は一様分布として
定常状態を仮定すれば、熱収支式は次式で表される。
R↓-σTb4=Cpρ(ChU) (Tb-T)・・・・・・・・(1)
σTb4≒σT4+α(Tb-T)・・・・・・・・・・・・・・・(2)
近似の精度を上げるために、α は記号で定義したように T と Tb の中間
温度 T1 における(σT4) の勾配である。
上式から黒球の温度上昇は次式によって表される。
⊿T≡Tb-T=(R↓-σT4)/ { α+Cpρ(a/d)N }・・・・・(3)
分母のヌッセル数 N はグラスホッフ数 Gr の関数であり、 Gr には
⊿T が含まれている。さらに α の定義:
α≡4σT13=4σ{T+(⊿T/2)}3
にも⊿Tが含まれている。そこで、計算は次の順序で行い精度を上げる。
(ⅰ)⊿Tとして適当な値(例えば5℃)を仮定して、式(3)から⊿T の第2近似を計算する。
(ⅱ)第2近似の⊿T を α と Gr に代入して、同様に⊿T の第3近似値を計算する。
入力放射量 R↓
球から出て行く顕熱(式1の右辺)と赤外放射(式1の左辺第2項)は、
球の全表面積 4πr2から出るのに対して、入力放射の内の
直達光 I は球の断面積 πr2に入射し、その他の成分
(Sd、Ld、Su、Lu)は上半球または下半球の面積 2πr2に入る。
簡単化のために、直達日射 I 以外の散乱光(天空光)などの成分は
方向によらず一様分布と仮定する。さらに、黒球と地表面間の距離は短く、
地表面からの赤外放射 Lu は途中の水蒸気などで吸収されずに黒球に入射する
と近似すれば、球の単位面積当たり
に入る放射成分は次式で表される。
R↓=I/4 +(Sd+Ld+Su+Lu)/2・・・・・・・・・(4)
この値 R↓ を式(3)に代入して黒球の温度上昇⊿T を求める。
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