石垣島の研究センター露場の陽だまり効果


一般に、農林関係の試験場の観測露場は広い敷地内にあり、風通しのよい 場所で気象観測が行われている。しかし、石垣島にある(独法)国際農林 水産業研究センター沖縄支所の気象観測露場で気になることがある。 露場の北側は一段高い圃場となっており(写真左の右手の土手)、 南側には東西に長いビニールハウス(長さ75m)が作られている。 このビニールハウスは半地下構造になっている。

この長いビニールハウス等によって、露場のごく地表面付近の風は弱められ、 気温測定に対して陽だまり効果を及ぼすのではないか?  と考えた。

観測露場
写真 (左)国際農林水産業研究センター沖縄支所の気象観測露場。
(右)中央遠方が気象観測露場、手前が屋外ライシメータ群、右手のビニール ハウスが屋内ライシメータ群。

本センターにおける年平均気温と、石垣島北部の伊原間アメダスの年平均気温 の差を付図の左に□印でプロットしてみた。同様に、波照間アメダスとの差 を○印でプロットした。1997~98年以後のセンターにおける年平均気温 は0.4~0.5℃上昇している。

陽だまり効果は、気温よりも地温に対して顕著に現われる。そこで、 右図には本センターにおける年平均地温と年平均気温の差をプロットした。 1995年以降、相対的に地温が約2℃上昇している。ただし地温とは地中 0.15m(1994年7月以前)または0.1m(1994年8月以後)の地中 温度である。

センター気温と地温
付図 (左)年平均気温の経年変化、□印:石垣島国際農林水産業研究 センターと伊原間アメダスの差、○印:同センターと波照間アメダスの差。
(右)同センターにおける年平均地温(深さ0.1~0.15m)と年平均 気温の差。

本センターの状況に詳しい大賀高生さん(会計係長)に聞くと、観測露場周辺 の圃場はサトウキビと肥料用作物(ネピアグラス:草丈1mほどに生長し、 刈り取って堆肥にする)を年ごとに交互に植えていた。その後、観測露場 の周辺にはビニールハウスやライシメータ施設が作られるようになり、裸地 化へと変化してきた。

一番長い75mのトレンチハウス(半地下ビニールハウス)は2002年に 建てられ、その南側にある小規模のトレンチハウス(ビニールハウス) 4軒は2001年に建てられた。この建設年と気温・地温の上昇年は厳密に 一致していない。

地温や気温が上昇したのは、陽だまり効果のほか、露場周辺の土地利用 状況が変化したことも考えられる。以前は植生による被覆面積が多かったが、 裸地化された面積(ビニールハウスの面積も含む)が増加している。

さらに注意すべきは、観測露場は同じ場所であるが、気象観測システムが 1996年~1997年ころ変更されている。この変更は気温(付図の左) に影響しているように見えるが、地温(付図の右)には現れていない。 観測システムが変更された場合、その前後でデータに連続性があるかどうか、 新・旧システムによる同時観測を行うなど、十分な検討をしておく必要が ある。

こうした意味で、石垣島の国際農林水産業研究センターのデータ解析では 陽だまり効果が明瞭だとは断定しがたい。今後、他の農業関係の試験場 について解析する際の参考になるので、本センターにおけるデータは ここに掲げておく。

この例に示したように、地球環境としての気温の経年変化の観測は非常に 難しい仕事である。農業関係の観測露場は一般に広大な敷地に置かれて いるものが多いが、露場のごく近傍(5m~50m程度の距離内)の環境 変化に留意したデータ解析が必要である。


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