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Q05 「鏡で反射の太陽光は暖か?」(AC), 2006/4/17


―あるマンションの彩光の仕掛けに関して―

最近、あるマンションで、新宿のNSビルのように中央が空洞(中庭)に なっている構造を採用し、かつ太陽光をその空間(中庭)に鏡で反射させ ようという仕掛けがあることを聞きました。 すばらしい考えですが、その反射された太陽光には、暖かさ、すなわち熱を 持っていないのではないでしょうか?
太陽放射は、鏡のみを暖め、それ以後に反射されて中庭に届く成分には、 だだ光だけの意味合いしかないのではないでしょうか。

― 回 答 ―

はい、その通りです。エネルギー的には小さいですが、彩光(明るさ)という 点からすれば、意味はあります。エネルギーの観点から考えてみましょう。

(1)鏡の反射率による減衰
用いる反射板に依存して反射率は変わります。例えばガラスの裏に金属を 真空蒸着して作った鏡だとすると、太陽光はガラスで一部吸収され、金属蒸着 面で反射するときも一部吸収され、さらに折り返すときガラスで吸収されます。 その結果、全波長平均での反射率が50%だとすれば、50%がロスになり 反射板を温めることになります。

反射率や吸収率は波長によって変わるので、目でみた感じと違ってきます。
吸収の少ない天然水晶板を使ったとします。その 厚さが1mmだとすると、波長=0.25~3μmの範囲の透過率は 約90%です(丸善発行の「理科年表」の光学結晶の透過率の図による)。この 波長は太陽光のエネルギーがもつ波長範囲とほぼ一致します。

光の折り返しの際にも透過率は90%ですから、合計の透過率=81%となります。 蒸着する金属として銀を使うと、波長平均で反射率=98%ほどです。もし 水晶の代わりにガラスを使うと、種類と厚さに依存しますが、50%程度はロス することになるのではないでしょうか。ガラスでは紫外部と赤外部で吸収が ありますが、可視部での減衰は比較的に小さいので彩光の観点からはよい でしょう。

レンズを用いて集光する場合も同様に、レンズでエネルギーは吸収されます。

(2)受光面積によるエネルギーの減少
晴天日の直達日射量は、太陽高度があまり低くないとき、 600~1,000W/m2 です。屋上に設置した太陽エネルギーを集光器と しては大きい、面積1mで集光し、その50%が最終的に利用できる とすれば、300~500 W となります。このエネルギーは熱としては小さいが 照明としては役立ちます。

冬場のエネルギーとして太陽光を直接的に利用できるのは、南側の窓から差し 込むエネルギーです。わが家を例に南向き窓の面積を測って みると、14.2mあります。

わが家(緯度=35.3N)での、冬至の頃の南中時(太陽天頂角=58.7°)に 室内で獲得できる直達日射量を計算してみました (DAY=360、日平均気温 T=7℃、水蒸気圧 VP=7hPa、付近一帯のアルベドREF =0.15、大気の混濁係数 DUST=0.05の条件を用いる)。

参考:日射量の計算
日射量の日変化の計算プログラムは「地表面に近い大気の科学」の付録 E に 掲載されている。本ホームページの「研究の指針」の「K17. 暑熱環境と 黒球温度」の章にも 晴天日の放射量の日変化の計算の説明があります。

冬至の頃の南中時(太陽天頂角=58.7°)における直達日射量 =858W/m2、地方時9時には666W/m2と計算されます。 したがって、

南中時に窓から入る直達日射量=858W/m2×14.2m ×sin58.7°=10.4 KW

となり、これは前述の彩光エネルギー300~500 W の21~35倍に相当します。

集光器の購入費と維持費が高価でも、彩光システムを取り入れる住宅が 建設されるのは、最近の都市における住環境が悪化しているということ でしょう。



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