Q03 「朝の最低気温の解析法は?」(Y.S.), 2006/4/10
―「研究の指針」の「基礎2.気温・地温と局地循環」に
関連―
Q03a 放射冷却が大きいのは晴天の微風夜なので、その晴天夜だけ
を抜き出す方法として、天気図から判断するしかないのでしょうか?
ちなみに、私は降水が無く、日照時間が数時間以上ある日を晴天日として
抜き出しています。
Q03b 密度の小さい積雪が50cm以上積もった晴天日は、朝の
最低気温が異常に低くなる、とありますが、積雪50cmの意味
は何でしょうか?
また、積雪が50cm以上積もらない地域においても同じような結果に
なるのでしょうか?
Q03c 朝の最低気温を決める特異な条件として風の影響が大きいと
考えているのですが、風速以外の条件として何かありますか?
Q03d 雪の熱伝導率は積雪の深さによってどれだけ変わるので
しょうか?
― 回 答 ―
A03a 晴天夜だけを抜き出す方法のことですね。
あなたが実行されている、アメダスの日照時間から判断される方法がよいで
しょう。もし、対象とする都市に気象台があれば、目視等による天気からも
判断できます。前日午後の天気と当日午前の天気が共に晴天ならば、それら
に挟まれた夜間は晴天の可能性があるからです。さらに周辺のアメダス数ヵ所
の日照時間も参考にされるがよいでしょう。
A03b 積雪50cmの意味ですね。
樹木や住宅がほとんど無い平地ならば、積雪30cmも積もっていれば、
地域全体が積雪域と見なされ、放射冷却が大きくなりやすくなります。
しかし、樹木や住宅地などがあって多少複雑な地形をしていれば、積雪の
吹き溜まりや少ない積雪地などが混在し、積雪の深さが薄い所ができて、
地域全体としては「地表層の熱的パラメータ(熱伝導率と熱容量)」は
極端に小さくなりません。
なお、一日周期の温度変化に関る地表層(積雪層)の深さは概略30cm
ですから、積雪深が浅ければ、新雪であってもその下の土壌層が影響し、
表層としての実効的な「熱的パラメータ」は大きくなります。
雪が50cm以上も十分に積もった時は積雪の薄い所の面積が少なく、
地域全体としての「地表層の熱的パラメータ」が十分小さいと考えられ、放射
冷却量は大きくなります。この観点から、積雪50cm以上を特別に区別
することにしています。
実際に各地の冷却量を調べてみると、積雪深50cm以上の地点において
晴天夜の夜間冷却量が他に比べて大きくなっています。
A03c 風速以外の条件についてですね。
①入力する大気放射量の関係からすると、周囲の地形が極端に高く、
空の見える天空率が小さい場所では放射冷却は大きくなりません。
ただし、他からの冷気が流れてきて滞留するような地形は除外します。
天空率が小さいとは、地形の底から見上げた周囲の崖などの角度が30度
以上の所です。
②熱的パラメータの関係からすると、湿ったところでは放射冷却は大きく
なりません。
③移流による熱の流れからすると、近くに湖など冷え難い地表面や住宅の
密集地があると、風の向きによっては夜間の移流によって冷却が大きく
なりません。
また、放射冷却によって冷気が形成されても、その冷気が重力によって
流出するような傾斜地などでも最低気温は低くなりません。
④なお、微風の夜間を選ぶのに対象地点の近傍にある高層風の観測所
で測った、高度1kmないし1.5kmの風速が5m/s 以下または10m/s 以下
の条件をつけるのもよいでしょう。
A03d 雪の熱伝導率は積雪の深さによってどれだけ変わるかですね。
積雪は温度によって変成し密度が増加します。同様に、下層の雪はその上に
ある積雪の重みによっても時間と共に密度が増加します。熱伝導率は積雪
の密度と密接に関係してくるので、過去の温度の時間変化と降雪状態に
よって様々に変わります。
最表層の新雪層の熱伝導率はもっとも小さく、深さとともに増加しているのが
一般的です。その地域の気候条件によって異なりますが、降雪から数日以上
(低温域では2ヶ月以上)経過した層の積雪密度は新雪の3~4倍程度に
なり、熱伝導率は新雪の値(0.05~0.1W m-1K-1
程度)の数倍(0.2~0.5W m-1K-1程度)
になると考えてよいでしょう(地表面に近い大気の科学、表4.1も参照)。