時間飛行士へのささやかな贈物

背広の背中よりシワシワで
ボロボロの笑顔でもう一軒営業
俺の夏休みはいつになったら来るのだろう
何年もそれを考えている、何年も
不快指数が愉快指数だったこどものための
振り返れば一瞬だった夏休みは
いったい地球儀のどこに消えたのか
心が、疲れている、ゲロゲロに
お望みなら「魂が」と言い換えよう
魂が病んでいる、カラカラに
「夏季休暇」ではない「夏休み」をくれ
12月でも構わない、少しだけでいい、夏休みがほしい

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部下が怒気を含んだ声で懇願する
{マネジャー、再突入しましょうよ}
俺はもう少し数値的な裏付けが必要なのだと諭す
{ループの何を恐れてるんですか、気づきゃしないのに…}
そう、誰一人気づくことはない
しかしこの気怠さは何だ何処から来るこの無気力と脱力感
{相転移の形態場が仮にt軸に沿って逆行するとして…}
若い奴の理論にはもう付いていけない、うんざりだ
「うるさい…」
そう呟くのが俺の無くしたものたちへの精いっぱいの反抗
「青春」と、照れずに言えるほどには老けたくないんだ

偏在しろ、反芻するなお願いだから、不等式を成立させろ!
シュバルツシルト半径を越えてはいけない

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カレーの染みがついた俺のネクタイ
ヘロヘロで抜ける改札での静電気
再編ビームに蹂躙されるクタクタのニューロン
ホーミング・プログラムが俺の歩を進ませるのか
この疑問もプログラムされているのかサブルーチンなのか

決して来ない夏休みに焦がれる超低速時間飛行士
俺は歩いて故郷に帰りたい
ディラックの海を渡り時の門を抜け夏への扉をくぐり
煙が永遠に立ち昇るマイナス・ゼロの彼方へ、故郷へ
ある日どこかで、俺は過去の眠りを眠りたい、スヤスヤと
果てしなき流れの果て、永遠の終わりに
俺のヨレヨレの魂は癒される

本当は、俺の夏休みは一度も来たことがないのかもしれない
懐かしさしかない誰と遊んだのか思い出せないどこの海だったのか
精霊飛蝗の顔は描けない朝顔の蔓はどっちに巻いていた
でも

でも、帰りたい
「また、もう一度」
少しだけでいい、夏休みがほしい

そうしたらこんなふうにいつもいつも尻切れで
誰も満足しない日報は破り捨ててやろう
世界には自分より大切な魂があるのだろう
まだ見てはいないけど


Lots of Thanks to P.K.D.