道化師の夜の歌

右手と左手ための協奏曲 より
 とんがり帽子を取る
薄くなった頭に汗のしずく
 赤い丸い鼻を取る
熊のパンチがかすった曲がった鼻
 メイクを落とす
遍歴の刻まれた深い皺
 白手袋を脱ぐ
年月と水仕事が彫り上げた手

鏡の中の彼を見てご覧
「道化師の涙」は使い古されて
その目から涙は流れない

 あと何ヶ月 あと何日
 でんぐり返しができるかしら
ジョーカーがジョークを言えなくなったとき
サーカスはおしまい
無邪気が終わるとき
誰も君を笑わせることはなくなる

だから彼は血をにじませて転ぶ
関節を痛めながら象から落ちる
息を切らしながら君を笑わせる

 とんがり靴を脱ぐ
膝と踝をさすって騙す
 キラキラの衣装をハンガーに掛ける
失敗の数だけ染みができている

道化師の夜は笑いが少なかった日ほど長い

枯れてしまった道化師の涙は
君の夢の中で歌になったけれど
夜の道化師を 君は知らない

Kuri Kipple : 2004.03.09


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