亡き少女のためのパヴァーヌ 17歳

右手と左手ための協奏曲 より
 
休み時間にいつも
北の空を見ていたね

僕には好きな子がいたけど
君のこともいつも見てたよ

僕は4組の廊下で加藤と
君は3組の廊下でひとりで

いつもひとりだったね
声も聞いたことがない

たまにこっちを向くと
必ず小さく微笑んでいた

僕の心臓はひっくり返った
あり得ないほどの速さで

微笑みがそれほどまで
さみしくなれるなんて…

子供だった僕には君の
痛みの理由なんか量れなかった

いつの間にか君を
見ることがなくなった

ずっと後になって加藤から
自殺したと聞かされた

僕の心臓は今度は
ドロリと重くなった

一度も話したことさえないのに
僕は何日も思い返した

僕にも責任があると
そう思ったから

僕は君の死の原因でも
理由でもないのだけれど

それでもやっぱり僕は
何かしなければいけなかった

    ------

ずっと時間が経ってやっと
僕は君のような大人になれた

今、戦争や飢餓や殺人や
いろんなイズムが蔓延している

望むと望まないに関わらず
誰かがあり得ない速さで死んでいく

僕が何かしでかしたからでなく
僕が何もしないことによって

地球の反対側でゴミのように
名前のない子供が死ぬ

その度に僕は
君を思う

いつもいつも
何度も何度も…

いちばん遠い死でさえ
それは僕に責任がある

君には死んで欲しくない
もう死んで欲しくない

僕の心臓はもう
ドロリと重くなるには耐えられない

話しかけたらよかった
ずっと、そう思ってた

だから大人になって僕は
みんなに話しかけようと努力する

話すのは得意じゃないけど
言葉で文字で心臓で話そうとする

    ------

君と加藤と僕とで
雨のカーテンが動くのを見たね

札幌の街の晴れていた北の空を
雨の前線がゆっくり移動していった

思わず三人で顔を見合わせたね
信じられないほどきれいだった

君もきれいだった
通り雨のように美しかった

明日、美しくて切ないものを見たら
そのことを君に話そうと思う

そうしたら
君は
 
 
 
 
 
 
Kuri Kipple : 2004.03.09


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