ガラスのモリー

ゴッサム・シティーの星空にペーパー・ムーンがよじ登る
孤児になったように装うよ、モリー
本当に、ユダヤ人には角があると思ってたの?
サムライが食べるのはスシで、ゲイシャじゃない
今夜は計算機のスチーム音も聞こえないほど静か
けれどサムはまた戦争を始めたいらしい
お昼の番組の聴取率を取り戻したいらしい

サーチライトの軌跡が光速を超えるあいだ
エナメルの雲が夜空を日本風に漂い、漂い
モリー、明日はUVも少し弱め、賭けてもいい
…こうして二人で寄り添ってレンガ道を行くと
歩みが遅いのはエーテルのせいとは思いたくない
きっと緩やかなガーシュインが流れているはず

優しい人は、悲しい人でもあるけれど
悲しい人がみんな優しいとは限らないよ、モリー
ガラスのモリー、何も知らないモリー
君を大切にしたいけれど、僕の手は鋼鉄
抱き締めて君を壊すかもしれない

薄い摩天楼の間隙を縫う眩しいビークル
ミルクの霧に包まれて小舟はたどり着く
僕らの恋がダクトのもつれに消えないように
世界の結末が三行広告で描き切られないように
そして君が砕け散ることのないように、モリー
僕らはやっと、マスクを外そう

ティムとテオとテリーにもそう教えよう
霧の中の風景はネガで見たように暖かい
2002.07.15