もういないけれど


そのひとは
もう いないけれど
たしかに ここに
いたことを
ぼくは しっている


アラームが鳴りだすまえに
「夢」のせいで半分目覚めてしまい
その人の 匂いがする
その人は もういないけれど

テーブルの上に白紙のメモが1枚
その人がどんなに迷ったことか
心の中で何度も何度も
言葉を反芻し 捨て 拾い 壊し
最後には一言も書かずに行った
それは その人の 優しさ


僕が その人を
愛したことは 誰も知らないけれど
その人が 僕を愛したことを
僕は 確かに 知っている

そのひとは
もう いないけれど