メビウス・プリオンとクラインの壺焼き <承前>

亀吉スワディ・イワノヴィッチが世界を救ったことは
渋谷センター街でさえ知らない者はないほどだった
ある物質の組み合わせと形態と北枕システム
これを独自に創造したのが亀吉だった
その名も「メビウス・プリオンとクラインの壺焼き」
微妙なメカニズムであり、非常に、美味だった
世界の人口の5分の3は死に絶え
肉食雑食の多くの動物種は絶滅したものの
地球は亀吉に救われたのだ
しかし彼は英雄にも富豪にもなることはなかった
尊敬する者さえ数えるほどしかいなかった
何故なら…

国連と赤十字の使者がある日彼を訪れた
「亀吉さん、あの奇蹟の治療法について
世界はあなたに最大の敬意を表する準備があります」
彼は痰をからませながら怒鳴り散らした
あれは治療法ではなく「アート」である、と
世界は彼の作品の著作権を侵害している、と
それから亀吉ではなく、スワディと呼べ、と
彼は世界を憎悪した
「アートを理解する知識と語彙も備えぬ野蛮な輩よ」

しかし芸術が理解するものだとは誰も聞いていなかったし
何よりも「メビクラ」は旨かった
そして世界は亀吉の意図に反して救われた
彼は44歳で亡くなった

彼の墓に彫られた彼のすべて
「メビウス・プリオンとクラインの壺焼き」のレプリカ
石工の間違いでそれは逆さまに刻まれていたが
10年に一度ほど訪れる物好きの墓参者たちにとっては
花を差すのにちょうどよい、小さな窪みがあった