詩集『カエルトコ』より;6. The Bluebird

サンクチュアリ

青い鳥を
探してはいけないよ

見つからないから じゃなく
青い鳥は
見つかるから
探してはいけないよ

それはなにひとつ 満たさない
探さなければいけないものは
見つからないもの
それが
きみの
目的
それは すべての日々を
満たす だから

青い鳥を 探してはいけないよ


とるく

長い長い坂を登ると そこに
探していたものが あるのだろうか?
掘って掘って掘りまくれば やっと
宝箱は出てくるのだろうか?

僕は
須弥山の頂から
海が滝となって流れ下る
世界の端まで ずっと
仕合わせを求めて 10万年
いつ 旅は終わるのか?
アトランティスからムーまで
ドードーの巣のある繁みから
聖櫃の蓋の裏側まで
アダムスキー型円盤の基地のある地球の内側から
ドーンコーラスの生まれる薄い大気の上まで
フォーレの優しさが滴る部屋から
ホログラム創世記マシンのあるラボまで
死ぬほど 僕は
探し続けた
探し続けて 僕は
死んだほど だ
長い長い坂を登ると


あおいとりことり

おあいとり ことり
なぜなぜ あおい
あおい「み」を たべた


あかいとり ことり
なぜなぜ あかい
あかい「ち」を のんだ


しろいとり ことり
なぜなぜ しろい
しろい「む」を とんだ


くろいとり ことり
なぜなぜ くろい
くろい「し」を よんだ


いないとり ことり
なぜなぜ いない
いない「こ」を だいた


みないとり ことり
なぜなぜ みない
みない「め」を すてた


とおいとり ことり
なぜなぜ とおい
とおい「ひ」を みてた


最初からそこにあった匣

青い匣には ただ
青い鳥しか 入っていなかった
天に星

ある日 魚は水から這い上がり
さんざ苦しんだあげくに 聞いた
雄花と雌花の 呼び交わす声を
--- Je te veux ---
言葉は匂いだった


地に花
飛んでくる 小さきものがあった
「僕は食べる
「僕は食べられる
「僕は星の子
--- 111111101010111111001001110 ---
体は 光だった


空に鳥
ある日人は火をおこした
火は癒し 火は焦がした
人は夜空に 差出人の名を書いた
--- l'oiseau bleu dans une cage ---
挨拶は 配列だった


匣は
最初からそこにあったと
とうとう人は気づいてしまった
人は 空を翔け上がり
光を超え 星を越え
時に満ちた
--- Saluton! ---
そして人はその匣を開けた

そこにあったものたちが
我先に飛び出した 人の体から
人は宇宙服の中で 破裂した
無垢と 無知と 矛盾と 夢幻が
昇華した水の欠片とともに
闇の中を広がっていった
勇気と 恐怖と 怠惰と 執着が
強欲と 愛と ノスタルジーと いたずら

それから人は 長い長い
重力の勾配を這い上がろうとした


ある日 人は故郷を離れ
百億のうち 一握りしか生き残らなかった
人は 出てゆかねばならなかったから
人は
天の蒸留?
天の濁り?
再び 天に戻る
--- Anybody out there? ---

天に星
青い匣には ただ
最初からそこにあった
青い鳥だけが残った

手塚治虫とSETI@homeに捧ぐ


トルク

見つめて見つめて君が振り返るならば
ほら
無駄なこだわりと馬鹿げたジンクス
末梢神経の紋様を浮かせた ひとつの疵を
君は ほら
地図だと信じて
ゼンマイ仕掛けの心臓と
地球の重力の向きをチェックする
そして月の重力も そしてコリオリの力も
傾いて登っていく 前に後ろに
ふらついて 右に左に 未来に過去に
薄い大気を 胸いっぱいに

探し続けて死ぬまで に
死ぬまで探し続けて
長い長い坂を登ると
長い長い


青い鳥

We said, "Tho' we need no wings, nor air blue feathers to sing
We throw the sky hook to dreams and chant ethereal psalms, on all fours
But we know we need to bring, back the memories of the lost spring
To meet the ephemeral again, to leave behind this maggoty floor.
If so, bluebird, we wonder what on earth we are waiting for."
Then the bluebird said, "For evermore..."

我らは訊ねる。「人が謳うために、翼も空色の羽根も要らぬが
我らは垂直の懸橋を夢へとつなげ、四つ這いでも霊妙なる詩編を吟ずる。しかし
泡沫の逢瀬を取り戻し、この、蛆の涌いた大気の底を去るためには
失われた春の記憶を再び、手に入れなければならぬ
青い鳥よ、それならば我らは、果たして何を待ち続けているというのか?」
青い鳥は言う。「永遠に、永遠を…」

Kuri, Kipple : 2003.04.14



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