詩集『カエルトコ』より;2.Junk=Asia

Junk

風が辿り着く
ジャンクの帆布のはためきに
子供は寝言を呟く

Soldiers' Home

むせ返るジャングルの奥
深手を負った反乱軍兵士が
もう帰りたいと思う夜
ふるさとはいつも北にある

Junkie Escher

5年前まで他国領だったこの悪夢の街
犯罪者が身を潜めるためためだけに
路地はクラインの壺と化す
誰にも見つからないが誰にも抜け出せない

でも、もしもその壁に窓があったなら…
そこからは茶色の空が見渡せて
渡り鳥が飛んでいく姿が見えるのだろう
それはいつの間にか故郷の水田の
チェック模様に変わるだろう

Junkyard Maria

スターフルーツを探し当てた埋め立て地のゴミの山、頂上
半分腐ってはいても彼女には乳を出す必要がある
小さな乳飲み子のふるさとは小さな乳房
小さな母親のふるさとは、この頂上からは見えない
真っ暗な船倉の彼方にぼやけ、汗臭い反乱軍兵士の股間に霞む
「いっぱい食べて、帰るんだ」
もしもふるさとに帰れたのなら
「神様、わたしは、少女になりたいのです」

Bungawan Solo

タイフーン発生地点がいくらずれていようと
ソロの流れは変わることはない
ファシストがCIAの策略で暗殺されようと
大統領がピースボートに紛れて亡命しようとも
ソロの流れは向きを変えることはない

たとえ大資本が投下されてスーパーが出来ようと
川岸にリゾートホテルの建設ラッシュが起きようと
ソロの流れは、それは、少しは…
いいや、たとえ上流に発電用のダムが完成しようと
手に優しい洗剤のために熱帯雨林が伐採されて
パームヤシのプラントがドカドカ出来ようとも
ソロの流れは、かなり…

過ぎし日を語ろう、ソロの流れよ

How Many Kidneys Away

カムムーンの夢は父親の国へ行くことだ
母親のパトロンが3週間前に死んだ
第7艦隊がクウェートへ行く途中にここへ寄港した
マッサージ・パーラー「ヘイヴンズ・ヘヴン」にやってきた
黒人のマリーンと喧嘩になり、本当のヘヴンに行った
好きではなかったので悲しくはない
ツヤツヤの指で母親はカムムーンのうなじを撫でながら教えてくれた
父親はコシガヤという遠い遠い町にいる、と
母親のパーニットのことを呼び寄せるべく
将軍に毎日懇願している、と
なんていう名前? 「スズキソニー・ホンダだよ」
何処までが名前か分からないけどおもしろいな

カムムーンは少しみんなと何処かが違うらしく時々いじめられる
子供心にもメナムは自分の居場所ではない、と感じている
彼は自分と似た境遇のシッダールタが好きだ
彼は生まれた国では認められず、今はタイにいる
悲しみのあまり身体は金色になり
優しさのあまり国中に骨が砕け散った
シッダールタはコシガヤにも少しだけ滞在したらしい
でも他の人と勘違いされたり、利用されたりして嫌になって
タイまで戻ってきた、ということだ
コシガヤはジャンクで行ける距離にあるのだろうか
片方の腎臓を売れば行けるだろうか
「僕とママはコシガヤで父さんと幸せをみつけるのだっ」
カムムーンの夢は父親の国へ行くことだ

Junk

ジグソーパズルの街並みと、パンゲアの地平
ラムジェットに仄暗く光る、懐中時計の文字盤
僕らの生まれる前の日の、少女のコサージュ
僕らの思い出のない邑の、量子コンピュータと少年
20世紀をパスしてしまった地域
僕がここを好きなのは
自分の靴下の臭いが好きなのと同じだ