箸が転ぶ

漆塗りの箸が一膳、丑寅の上がり框をまたいでよっこらしょ
僕のほうへトコトコ歩いてくる
ように考えている
実は風邪をひいて葛湯を飲んだとこ
笞で打たれたように頭がガンガンして
附子を土踏まずに塗られたように39度も熱がある
瓶から柄杓で水を汲む音が、悪口に聞こえる
いさな油の灯の上に、狢の騙し顔だけがゆらりしている
でも全部幻覚だって分かるんだ
妹が処方してもらったハルシオンを2錠やったときと
ほとんど変わらないし
ホログラム玻璃はさっき落として割っちまったから
アドは見えるわきゃないし
木偶はまだ鹿の皮を鞣している
平均率で歌う「ひとり対位法」はいつ聞いてもおぞましい
手は抜けても口を縫うことはできぬ
そうこうするうちに箸が枕元に立つ、と考える
うーむ、身の丈が一間もある、ガンつけてるし
胸が苦しい、喉が絞められる、頸動脈つままれる
げっ、死ぬっ
と考える、最も短絡的なシナリオで
ドングリがヒサゴからポンポン弾け飛ぶ
牛が車に乗って人が牽く、稗がはんなりと袂で口を隠す
かまいたちがふくらはぎを舐めとる
辻が物の怪を通す夕陽が雲に乗る
箸が転ぶ、ホホホ