雨と夜のガスパール

右手と左手ための協奏曲 より

雨の精

一度書いては捨てられた詩のように
誰にも知られることはないけれど それでも
人の心に光と影を投げる一瞬があります

ちょうど水たまりを見たときに
雨が降ったんだな と初めて気づくように

「さびしい」とさえ言えなくなってしまった
深く傷ついた涙の痕が見えますか?
「あいたい」とさえ伝えられないその人の
言葉にならない言葉が聞こえますか?

雨の精が太陽と太陽の間に書いた詩を
読むことのできる人は 幸せです

君は誰のための祈りを捧げて
眠りに就きますか?

君が寝返りをうつ頃
世界中がすべて眠る一瞬
静かな雨が降りはじめます


パンドラの寝台

誰にも気づかれることなく 暗闇に漂っていた細やかな雨は止み
干からびた地面をわずかに濡らして終わりました
朧月ほどの大きさの水たまりに ネビュラが渦巻き出すと
ガスパールは旅の身支度にとりかかります

雲の切れ間に動く星に導かれ ベツレヘムを目指します
君は目覚めようとしていますが
幻たちは厚く降り積もって それもままなりません
寝台の小舟は 幻たちの海でキリキリと舞います

箱から溢れ出た幻たちをかき分け
ガスパールは君の寝台にたどり着く
そして箱にたったひとつ残ったものを
君の枕の下に潜り込ませると
やっと君は 目覚めることができました

ガスパールは どこにもいませんし
枕の下を探ってみても 何もありません

でも
いつか どこかで 見つけられるでしょう


スカルボ

この薄明は 夜と朝をつなぐ懸け橋
死と生を結ぶ 短い Interlude

真夜中の 静かな雨は
昔の 誰かの 書き表せない想い
雨に濡れた地面から現れる優しいスカルボ

夢から目覚めた朝は
ガスパールからの捧げ物

葉の上の露に 寝台の脇のカーテンに
消え残ったロウソクの炎に 銀の朧月に
君に伝えようとして 言葉にならなかった
誰かの想いを探して下さい

次は君の番です


Kuri Kipple : 2004.03.13


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