クリケット

クリケットという名のアメリカ人の女の子がいた。
赤毛のかなりの美人だった。
職業「ダンサー」ってのはつまりストリッパー、当然スタイル最高。
でも彼女のパスポートの写真は別人のように太っていた。
日本に来てどうしてか痩せたんだな、ダイエットしてたか。
ほぼ毎晩店に来ていた。僕は六本木のバーテン。
K柴D三っていうミュージシャンが彼だと言っていて、
実際一度だけ彼が来店した。
でもほとんど一人で、大抵はカウンターで、僕の前で飲んでいた。
「D三の」って言って何度かウォークマンを聞かされたけど、好みではなかった。
ある日、彼女にヴァージン・マリーを作って(?)やると、ポロポロ泣いていた。
どうしたの? 何も答えない。
そのうちウォークマンからカセットを取り出し、テープを引っ張り出し、
ぐちゃぐちゃに引きちぎり始めた。
本当に惚れていたんだな。号泣してた。
死ぬんじゃないかと思って心配だった。
閉店までいたら送って行ってあげよう、と考えるほど。
いつの間にか帰ってた。
それから二度と顔を見ていない。
今はまた、あの写真のように太っているのかな。
そうだったら僕は、すごく嬉しい。
きっとポロポロ程度は泣くと思う。