『没になった詩たち』

おやすみが言えない


電話じゃおやすみが言えなくて
次の話題を探してしまう
ああ、やたらと僕は喋りまくる
あのこの、このこと
あること、ないこと
ああ、僕は昔話を聞かせるために
君に電話したんじゃないだろう!
ただちょっと、声が聞きたかったんだ
いや、それでもない
何か、言いたかったんだ
言いたかったんだ、けど…

なぜひとこと言えないんだ
自信がない? 本心が分からない?
いや、もう苦しいほど分かってるよ

言葉にして、何が変わるのか
全然予想もつかないけれど
声に出して言いたかったんだ

君が先に言うのを待ってるのか?
保証つきでなきゃ告白できないのか?


ああ、ちきしょう、うだうだ考えてるから
君の話を半分も聞いてないよ
うん、うん、え? ああ、そうだよねえ
……

もし君が僕に質問してくれたらなあ
それを待ってるのか?
それじゃずるいぞオマエ

これじゃあいつまでたってもおやすみが言えない
また僕はしゃべりまくる
昨日のこと今日のこと
明日のこと君のこと
自分のことは? 恥ずかしいっての?
そりゃあないよね、その歳で
ほらほら!
今だよ
ああ、言えない

あっ、切らないで
だってまだ、君に
おやすみが、言えない
そのまえに
大事なことが
言えない


Kuri, Kipple : winter 1995
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