いままでの言葉: 2014年
書名横にamazon.co.jpとhontoへのリンクがあります。amazonはアフィリエイトです。散財に御協力いただければ幸いです。
- 12月の言葉:「もともと、地図のない探検なんて、とても本気にはなれないし、どの探検譚を読んでも、地図は秘密の場所にかくされているのだから」
- from 須賀敦子『遠い朝の本たち』電子版 (筑摩書房, 2013.11)[amazon | honto]
- 展覧会の鑑賞券をいただき、もちろん御高名は存じていましたが、一冊も読んでいなかったので慌ててポチりました。
- 馬齢(鳥齢)を重ねると、幼い頃のことがリアルになってくるものです。須賀敦子さんのような人と自分を並べるのは笑止千万ですが、思い当たるところが端々にあり、それは多分、本を読むことが自然だった人には共通するもので、つまり普遍、ゆえに人気なのだろうな、と。やけに混んでいた展覧会場で思いました。
- 11月の言葉:「思うんだがウォールワース 学問というのは本来何の役にも立たんものだよ」by バジル・ウォーレン卿
- from 坂田靖子『バジル氏優雅な生活』第2巻 電子版(白泉社, 2013.5)[amazon | honto]
- 有閑階級のバジル氏、「数学にしても 考古学や天文学にしても現実の役に立つのは副次的な産物で 本当は好奇心を満足させたいだけなんだ」「だから面白いのさ」とあっさり。G型とかL型とか、訳のわからんことをいってるのーたりんに読ませてやりたいもんです。
- ヴィクトリア王朝時代のいつかが舞台ですが、のほほんとした絵に騙されてはいけないわけで、人身売買、植民地支配というバジル氏たちの生活を支えていたものもさらっと描かれます。これが1979〜80初出で、少女向けだったっという事実。アイスクリームの歌ではありませんが、漫画のある時代に生まれて良かった(^^)
- 10月はお休みしました。
- 9月の言葉:「シェイクスピアの詩人としての鋭い感性があたかも将来を見通していたとでもいうかのように、『テンペスト』の中で描かれた奴隷であるキャリバンをタラの干物に仕立て上げるというメタファーが、現実の世界でいよいよ具現化していく。」
- from 越智敏之『魚で始まる世界史』(平凡社, 2014.6)[amazon | honto]
- 日本は次から次へと自然災害、世界はきな臭くなってきました。この本で書かれているのは魚(ニシンからタラへ)によるヨーロッパからアメリカ合衆国へのヘゲモニーの成立と移動です。要するにその時は無限にあると思われた資源を自由にできるものが世界を支配する、というまあ、自明の理。で、いまの世界の争乱は人間を資源として使っているのだなあと(自爆テロ、公開処刑、集団拉致…)。この平和な日本がかりそめのものでありませんように。
8月の言葉:「感動をもらった、元気をもらった。おかしいと思いません?」by 菊地信義 (てこぺんの記憶による)
at 「装幀=菊地信義 とある「著者50人の本」展」@神奈川近代文学館 ギャラリートーク
- 8月の言葉なんだから、8月中にピンと着た言葉でいいじゃないかと、開き直って一回目が7月28日のギャラリートークで聞いた言葉ですよ、やれやれ。
- ここんところは、力一杯うなづきました。元気も感動も、もらうもんじゃないだろと。結果としてついてくるおまけみたいなものを初めから期待すんな、つまんないものが増えるからと、声を大にしていいたいですね。
7月の言葉:「勝ちたいなら、走れ。」
from Number Plus 永久保存版 ブラジルW杯総集編(文藝春秋, 2014.8)
[amazon | honto]
- 6月から7月14日まで、ずーっとサッカー観戦三昧。ちーきゅうの裏側は時差が…眠い…日本以外の国は広告代理店の力を使わないのかと(黒笑)
- で、2002年からずーっと追っかけてきたドイツ代表が優勝したわけですが、嬉しいんだけどどこか醒めているのは何なんだろうと。名前を出すのも不愉快な巻き巻きのことは置くとして。一番好きな2006代表チーム、EURO2004の情けないグループリーグ敗退の後、クリンシが2年で作ったチームに比べて、このやるべきことをきっちりやるチームにあんまり魅力を感じなかったからな。結局、キャラ萌えだしな、とか。
- とはいえ、こんなムックは買っているわけで(笑)Numberはいつだって、サイモン・クーパーのコラム以外は浪花節でやれやれなんだけど、表紙がとても良かったので(ラムたん…)。あと、文春さんには、いきなり版をでかくするのは止めて欲しいと一言。
6月の言葉:「夕暮れどきとは神と人が、遊びと現実が融け合うときであったのだ」
from 小松和彦『神隠しと日本人』Kindle版(角川学芸出版, 2013.7)
[amazon | honto]
- 5月も後半から夏至に向かって日が長くなってきて、たまには明るいうちに退庁できてとっても嬉しいですね。
- 神隠しという言葉=装置について考察した本です。Kindleだと遠慮会釈なく線を引っ張りながら読めていいですね。「逆に冬から秋といったように逆回りでこの「四方四季の庭」を見て回れば、時間をさかのぼることもできたのではなかろうか」とタイムマシンをイメージしたりと楽しい挿話もありますが、基本的には浪漫的な言葉の陰には冷たい現実があるという。サムトの婆しかり、神隠しにあった人は基本的に帰ってきてはいけなかったんだと。なかでも小松先生がさらっと流している『古今著聞集』巻第十七「御湯殿の女官高倉が子あこ法師失踪の事」は母親が扉を開けていたら何が起こっていたのか、承久の変前夜という時代を考えても実に恐ろしい話でした。
5月の言葉:「そうよ、彼にしてみればよくよく思案した上でのことなの!女房、住居、衣料費、子供、どれもこれも費用のかさむものばかり。となると本代を削らなくちゃならない。そこであの人は古本のほうをえらんだってわけ!」by エレオノール・シジスモン嬢
from オクターヴ・ユザンヌ ; 生田耕作訳「シジスモンの遺産」 紀田順一郎編『書物愛 ; 海外篇』(東京創元社, 2014.2)
[amazon | honto]
- ハガレンでいうところの等価交換、というやつですね。困ったことに、シジスモン嬢は等価とみなしてくれなかったために、恐るべき悲劇がコレクションに襲いかかります。
- ビブリオフィルっていうと賢げですがようはオタク。遺言に抜かりがあるところはなんとなく親しみがわく。主人公は超嫌な悪いオタクなので自業自得。普通の人にはどたばた喜劇なんだろうけど、シジスモン嬢は怖い。けっしてコレクターじゃないけど、大量に書物を処分したらおかしな精神状態になってしまったものとしては他人事じゃありません。
4月の言葉:「天分は書くなと言っても、義憤が詩を書かせる。」by ユウェナーリス
from ペルシウス, ユウェナーリス作 ; 国原吉之助訳『ローマ諷刺詩集』(岩波書店, 2012.5) 「諷刺詩」第一歌
[amazon | honto]
- 岩波文庫は古くなるとまっ黄色になるし(昔の紙質はそれは酷いもので)、図書館では貸出が多くてぼっろぼろになるしでさっさとまっとうな電子本になって欲しいんですが。
- 「トライヤーヌス帝とハドリヤーヌス帝の時代に『諷刺詩』を書いたということである」ということですから五賢帝時代、いい時代だったんじゃない?と後世の人間は思うわけです。しかし、没落しつつある騎士階級の保守派親父にしてみれば、金銭主義が蔓延り、風紀は乱れ、外国ブーム甚だしく、女どもは身の程わきまえないって、えーと、2世紀ですか、21世紀ですか(笑)で、古典だからって格調高いってこともなく。まあ、ネットの落書きよりは教養はあるし、こういう懐古主義的な激烈さは一定の人気を保ち続けたんだなって、進歩って何?的な気分になれます。
念のため言っときますと、名台詞はでてきますが、読み続けるのに忍耐の必要な一冊です。
3月の言葉:「小説『翁丸物語』には翁丸らしい犬はどこにも出てこない。出てくるのは豊後(大分)から来た一匹の伊勢参宮犬。翁丸は人の興味をひくために題名に名を借りただけで、小説の中身とはまったく関係がない。」
from 仁科邦男『犬の伊勢参り』(Kindle版)(平凡社, 2013.7)
[amazon | honto]
- 釣りタイトルは江戸時代から(笑)
あるいは「犬が小児(の死体片)をくわえ、地上に置かず通り過ぎれば、穢にならない」(室町時代)と、つっこみたくなる変わっていない心性もあれば、無主の犬は野良犬ではなく、豚はけっこうありふれていた等々の目鱗もあり。みんなが伊勢参りの犬だと思ったから犬は伊勢参りできた、というメタフィクショナルな現実があったという。読後、西欧との接触によって日本人と動物の距離感が変わったところと変わらないところがあって、いまのへんてこりんな溺愛と邪魔者扱いが生まれたんだろうな、と考えたり。色々刺激的な一冊でした。
- ピエール瀧の「城下町へ行こう」の松坂編を見ていて思い出し、さっそくポチした一冊。正しい電子本の買い方ですね。フォロワーの某氏(鍵付き)によると、紙の本は新書大賞に選ばれたので瞬間的に品切れてたらしい。商機を逸しないという意味では電子本は正義!なんだろうね。
2月の言葉:「だけど、今日び、世界は理解できないものを許さないでしょう。」 by 雑賀満喜子の長兄
from 恩田陸『ユージニア』(Kindle版)(角川書店, 2013.7)
[amazon | honto]
- 理解できないのはあたりまえだってことが理解できない人が多い以上、懐疑の保留を前提とする文学はきついやね。大切なのはわかりあうことじゃない、許容することだと。
- 恩田陸は一時、図書館で片っ端から借りて読みましたが、最近はご無沙汰。KADOKAWA 70%off 祭りで購入しました。
古い街の旧家で発生した大量毒殺事件をめぐる物語。Why done it と思わせて、Who done it にひっくり返る。変わらずに上手い。
1月の言葉:「終末の予言のすべてが本当であるはずがない。真実があるとしても、せいぜいひとつあればいいところだ。」 by レイフ・ヘルガーソン
from ケヴィン・ハーン ; 田辺千幸『鉄の魔道僧2 魔女の狂宴』(Kindle版)(早川書房, 2013.10)
[amazon | honto]
- 今月もKindleのハイライトって便利〜
レイフはアイスランドのヴァンパイアで、主人公アティカスの顧問弁護士(夜間専門)。元はトール神の信者だったけど、今は敵対しているという設定で、ラグナロクなど起こらないと主張します。続き、早く出ないかな〜。
- 射手座は今年はあまりよろしくないのですが(去年もよろしくなかった気がするけど、忘れました)、はてさて、どんな一年となりますか。
今年の年賀状:ジョンソン博士に敬意を表してカラスムギにしてみたのですが、なんだか寂しい感じに(>_<)
rh7r-oosw@asahi-net.or.jp