◆◆◆ 電脳PiCARO ◆◆◆第1弾記事

◆空母戦シミュレーションゲーム普及計画


YSGA(現役)冷遇会員 瀬端 保




 「シミュレーションゲーム冬の時代」と呼ばれて久しいこの数年間も、相変わらずの熱狂的プレイを続けている我が会ですが、明らかにプレイされる機会の少ないテーマも存在します。そんなテーマの一つに「空母戦」があります。
 空母戦ゲームとひとくちに言っても、年代では第二次世界大戦から現代戦まで、スケールでは戦術級と呼んでも差し支えのなさそうな作戦級から戦略級まで、数多くのゲームが出版されています。ゲームの中では活躍の場の多い空母ですが、実際に空母対空母の戦闘が行なわれたのは第二次世界大戦中の太平洋戦域しかありません。その中でも、1942年は両軍の空母戦力が拮抗していたためにゲームの題材としては非常に興味深いものがあり、私の気に入っているテーマでもあります。
 今年は、その昔エポック社から出版された「日本機動部隊」(以後EP)が、コマンド・マガジン日本版の付録として再販されたこともあり、個人的には「空母戦ブームが到来するのではないか」と期待していたのですが、空母戦自体に人気がないのか、ベテラン揃いの我が会会員諸氏にはEPでは役不足だったのか、そんな気配は微塵もないようです。
 そこで今回は、空母戦ゲーム普及計画の一環として私が対戦経験をもつAH社「FLAT TOP」(以後FT)とツクダホビー社「タスクフォース・シリーズ」(以後TF)を中心に、空母戦ゲームの特徴や各ゲームのルールの穴の埋め方について書いてみたいと思います。


<ゲーム紹介>



AH社「FLAT TOP」

 1ヘクスの対向辺間距離は約20マイル(約30Km)、1ターン=1時間、艦艇は1ユニット=1隻(軽巡以上は艦名付き)、航空機は1ポイント=3機です。
 ゲーム難易度=10、日本語解説書=60ページといった情報が先行し上級者向けと宣伝されていましたが、実際には、やや多めの図や例を含めて標準ルールならば32ページで済みます。
 作戦計画地図を用いたプロット方式を煩わしく感じるかもしれませんが、戦闘ルールが簡略化されていることで、指揮下の空母機動部隊/航空基地での航空機の運用に集中できるゲームとなっています。
 FTは、最初はバトルライン社から出版されたゲームでしたが、AH社が買い取り、手を加えて再販しました。いずれにせよ、古いゲームであることに変わりはないのですが、AH社の「ミッドウェイ」しかライバルのいない時期にこれだけのシステムを持って発表された驚くべきゲームです。
 残念ながら、戦闘ルールを中心に手を加えたい部分がいくつかありますが、空母戦ゲームに関しては決定版と呼べるゲームが存在しないこともあり、EPより上のクラスのゲームとして現在でも充分にプレイする価値のあるゲームだと思います。


FTの手順
1.天候フェイズ
 雲の配置が、シナリオによって分散雲と密集雲の2種類あり、2ターン毎に雲を移動させ、6ターン毎に風向きを確認します。これにより、晴天、曇天、暴風の3種類の天候が生じ、ゲームの展開に大きな影響を及ぼします。

2.航空作戦フェイズ
 このターンに発進する航空機による航空編隊を編成します。ここで計画されなかった航空機はこのターン中には発進できません。敵機来襲時の緊急発進は行なえないということです。

3.艦隊移動計画フェイズ
 このターンの艦隊の移動計画を作戦計画地図に記入します。この計画は追尾を行なっている艦隊以外は必ず守らねばなりません。

4.追尾フェイズ
 追尾されている艦隊と追尾を行なっている艦隊/航空編隊を地図盤上で移動させます。航空編隊は追尾されません。

5.艦隊移動実行フェイズ
 追尾フェイズに移動しなかった艦隊を、移動計画にしたがって地図盤/作戦計画地図上で移動させます。

6.先制フェイズ
 両プレイヤーがサイコロを振り、航空機移動フェイズにおける先制権を決定します。ただし、選択ルールの「航空機移動手順の変更」を採用したならば、ほとんど意味の無い手順といえます。

7.航空機移動フェイズ
 航空機の移動に関しては移動計画を立てる必要はなく、条件が許せば航空編隊の改編も含めて自由に動けます。

8.戦闘フェイズ
 戦闘は、1つのヘクスで発生した戦闘を全て実行した後に、次のヘクスに移ります。戦闘の実行手順は、空対空戦闘、対空戦闘、航空攻撃、水上戦闘、潜水艦戦闘の順です。

9.修復フェイズ
 損害を受けている航空基地の修復を行ないます。

10.ターン記録フェイズ
 マーカーを動かすだけです。


ツクダホビー社「タスクフォース・シリーズ」

 TFは、太平洋戦域の「ミッドウェー海戦」、「珊瑚海海戦」、「南太平洋海戦」の3作品と、地中海を舞台にした「アークロイヤル」の計4作品が出版されました。
 1ヘクスは50海里(約90Km)に相当し、1イニング=2時間(航空機は実質1時間)、艦艇は1ユニット=1隻(駆逐艦は2隻、輸送船は3隻)で駆逐艦と輸送船以外は艦名付き、航空機は1戦力=3機と1/2戦力=1機の2段階です。
 戦闘ルールでは、輪型陣の採用や航空隊の練度、魚雷の種類、といった細かいこだわりを見せ、航空機の運用では、機種による任務の固定や索敵機の収容位置の指定など、柔軟すぎる運用を制限するルールを採用しています。
 TFは後に発表された作品ほど選択ルールも多く、また、ツクダホビー社の機関誌だった「オペレーション」誌上にしか発表されなかったにもかかわらず、無視するにはあまりにも惜しいルールがいくつかあります。このため、初期の作品しか知らない人々には不満の残るゲームという印象があるかもしれませんが、全てのルールを通してみると、プレイアビリティとリアリティの両立を狙った好ゲーム、という印象を受けます。

TFの手順
1.第1索敵フェイズ
 イニングマーカーを1時間進め、両軍とも艦隊、航空機、索敵機で索敵を行ないます。

2.第1航空機攻撃フェイズ
 両軍とも、航空機が行なう戦闘(空戦、航空攻撃)を解決します。

3.第1航空機運用/移動フェイズ
 両軍とも、自軍の航空機の運用(発艦、発艦準備、武装準備、着艦)/移動を行ないます。

4.艦艇移動フェイズ
 両軍とも移動可能な艦艇を移動させます。ただし、損傷艦でもないのに3イニングに1回または2回しか動けない艦艇もあり、煩わしさも感じます。

5.第2索敵フェイズ
 第1索敵フェイズと同様に、イニングマーカーを1時間進めて両軍とも索敵を行ないます。

6.第2航空機攻撃フェイズ

7.第2航空機運用/移動フェイズ

8.水上戦闘フェイズ
 両軍とも、艦艇による攻撃(対艦攻撃、対地攻撃)を解決します。


ゲームスケール(移動力)
 ゲームスケールの設定は、どこまで細かく表現するか、という問題と密接に関係してきます。FTとTFでは、距離で1:3、時間で1:2の差があります。航空機に関しては、両者とも1時間に1回の移動が行なわれるため、ヘクススケールに相応の各機種の性能差(移動力と航続力)が表現されています。
 しかし、艦艇の移動力に関しては両者の印象は大きく異なります。FTでは、損傷艦に限っては2ターンに1回の移動という場合もありますが、これは特殊な場合です。TFでは低速の艦を表現するために、3イニングに2回または1回の移動という変則的な方式が採用されています。
 TFでは、各プレイヤーが地図盤を1枚ずつ使用するシステムを採用したために、地図盤を広げる場所を考慮して現在のスケールに落ち着いたのだろうと思います。しかし、プレイ中に移動可能かどうかをいちいち調べるのは煩わしく感じるのも事実です。
 やはり、最も遅いユニットの移動力は1であって欲しいと思いますし、低速の戦艦が機動部隊に加われなかったことも表現できるスケールが理想的だと思います(FTの地図盤を2枚広げるのは、それはそれでイヤなのですが)。
 移動力が大きくなると作戦に余裕が生まれる反面、現実離れしたゲーム的な移動(特に航空機)も可能になります。この点はプレイヤーのモラルで左右されることですから、システム的には、これしかできない、というものよりも選択肢の広いものの方がプレイしていて楽しいと思います。
 ゲームスケールに関しては、私はFTを評価しています。


ユニット
 艦艇のユニットに関しては、両者とも現在の形で良いと思います。あくまでも空母が主役のゲームですから、駆逐艦の名前が省かれても、2隻で1ユニットにまとめられていても私は気になりません。
 しかし、航空機の機数に関してはTFの方が評価できます。FTでは、索敵を行なう場合にも必ず3機単位で使用することになります。FTは古いゲームのため、ユニットが片面しか印刷されていません。システムから考えて、もしも両面印刷が可能だったならば、1航空ポイント=1機という単位を採用していたのではないかと考えてしまいます。
 航空機のポイント数を細かく表現したいのならば、航空編隊を表すボックスに機種を表すユニットと機数を表す数字マーカーを置くという方式が簡単ではないでしょうか?戦闘結果表をはじめ、チャート類を変更しなければなりませんが、こだわりたくなったならば、やってみようかと思っています。
 機数に関しては評価できるTFにも困った点があります。それは航空機の所属です。練度修正まで採用しているTFでは、航空機ユニットに所属航空隊が記されています。そこまでこだわりを見せる戦闘ルールを否定する気はないのですが、ユニットが多くなりトレイが多数必要なことと、プレイの前後に手間がかかることが不満なのです。航空隊を表示するマーカーがあれば十分だったのではないかと思ってしまいます。
 こだわるか、切り捨てるか、個人の好みの問題ですし些細なことには違いないのですが、やはり私は気になります。

航空機の運用
 このルールに関しては、空母戦のゲームではいずれも同様の処理をしています。つまり、着艦、武装、発艦可、の三段階の設定により整備状態の表現が可能なシステムです。これにより、ミッドウェー海戦での雷爆換裝の再現が行なえるのです。
 発着艦の能力差や整備能力を表現できる現在のシステムで、航空機の運用に関しては十分に満足できるレベルに達していると思います。
 FTでは更に、機種毎の整備のしやすさまで表現しており、戦闘機や大型爆撃機の運用に差があることを表現しています。
 実際のプレイでは、FTは、使用する発着能力によりそのターン中の移動力が変化しますが、整備能力は独立しています。一方、TFでは、発着能力にも整備にも運用能力という概念を導入していますが、移動力には影響が出ないようになっています。整備、発艦、着艦と異なる全ての行動に運用能力を数えながらプレイするTFは、少々慣れが必要かもしれません。

航空機の移動と航続時間
 FTでは、戦闘の仕方によっては航続時間が短くなることと、飛行高度の概念(移動力消費の差、攻撃時の高度選択)が採用されています。好みの問題になりますが、これらのルールの無いTFは、少々物足りなく感じます。スケールの差もあるために一概に評価はできませんが、細かい戦闘修正に凝るよりもこういった点にこだわって欲しかった気もします。
 その代わりにTFでは、戦闘解決の際にCAPを誘導するルールが有り、高度を読み違えたときと同様に迎撃に失敗する可能性があります。索敵レベルやレーダーによる修正もつくため、奇襲効果の表現として評価できるルールです。

機種と任務
 FTで常々話題にのぼるのがこの問題です。想像してみて下さい。雷裝した97大艇24機編隊が護衛も付けずにレキシントンに襲いかかる図を・・・。私自身は「何かおかしいと思うんだがなぁ」とつぶやきつつ、毎回必ずカタリナ飛行艇を雷裝してしまうのですが。 都合の悪いのは、雷裝した飛行艇がそれぞれの軍で最高の対艦攻撃力を持つと評価されている点です。また、史実でも全く攻撃に使われなかった機種というわけではないことです。
 戦闘機が爆裝できる点もときには問題になってきます。YSGA史上悪名高い「ラエの悲劇」事件にも少なからず影響を与えました。
 あきらかに史実に反する場合には自制心が働くものの、灰色の領域になるとプレイヤーのモラルにかかわる問題になってくるため、人によってはケンカの種にもなるでしょう。
 こういった心配を取り除いたのがTFです。TFでは、戦闘機、水上機、飛行艇には対艦攻撃能力がありません。選択肢を減らされることを不満に思う人もいるでしょうが、機種と任務を限定するこのルールは、ある意味では良心的な考え方とも評価できます。それしか手段が無い場合ならばまだしも「効果的だから」というだけで「何でもあり」というのは説得力に欠けると思います。もっとも、事前にプレイヤーの間で了解がとれていればこんなルールは必要無いのですが。ゲーム的な例としてもうひとつ。敵艦隊を発見した後で索敵機が迎撃を避けるために、わざと敵艦隊を遠巻きに囲むことがあります。実戦で「こちらに敵艦隊が現れないからまだあの海域にいるぞ」などという報告をもとに攻撃隊が発進した例があるでしょうか?
 TFには「戦闘機のみで航空隊を編成してはならない」というルールがあります。CAPとして編成することは許されているので、敵の攻撃隊には対処できるのですが、自軍艦隊を遠巻きに囲む索敵機を墜とすことはできないのです。この卑怯な索敵方法が禁止できないのならば(どこで区別をつけますか?)、迎撃のための編隊を自由に編成できるようにした方が良いと思います。
 他に目を引くルールとしては、TFの索敵機の収容位置を指定しておくルールです。航空作戦を計画的に行ない、場当たり的なことを初めからしていなければ必要の無いルールではあります。しかし、索敵機だけでなく攻撃隊も含めて、刻々と変化する敵情をほぼ正確につかみ、余りにも柔軟な対応がとれてしまうゲームの世界では、こういった常識的なルールがあえて書かれていたとしてもよいのではないでしょうか。あまり空母戦に馴染みの無い人がプレイするときには、こういったルールを目にするだけで、少しはまともなプレイに近づくのではないかと思うのです。

艦隊編成
 1942年当時、空母機動部隊の艦隊編成としては、二通りの考え方がありました。空母一隻毎に艦隊を編成するか、一つの艦隊に空母を集中するか、というものです。
 一隻一艦隊の場合には、一つの艦隊が発見されたとしても他の艦隊で攻撃を行なえる、あるいは、一度に複数の空母が戦闘不能になる可能性が低い、という点が長所とされています。短所としては、攻撃力、防御力ともに単独では弱くなることです。
 集中運用の場合にはこれと逆のことが言えます。
 ゲームの上ではどうでしょうか。
 FTでは、連合軍=15隻以下、日本軍=10隻以下で一艦隊を編成するという制限があります。
 この艦数の制限が後々影響してくるのは、対空戦闘のときだけです。その他の戦闘では、同一ヘクスに存在するユニットは所属艦隊にかかわらず戦闘に参加できますが、対空戦闘だけは航空攻撃の目標にされた艦と同じ艦隊に所属していなければ参加できません。また、索敵に関しても索敵側/被索敵側とも、その索敵能力に兵力は関係しません。
 まず、艦数制限の実態ですが、歴史的に見るとこの当時、囮艦隊を除けば空母を集中して運用していた日本軍と、空母一隻毎に機動部隊を編成することを好んでいた連合軍とでは、一艦隊当たりの艦数は日本軍の方が多いくらいなのです。
 影響を及ぼすルールから考えて、この制限は日本軍の対空火力を低く抑えようと意図したルールであると考えられます。貧弱な対空火力から対空防御を個艦の運動に頼ることもあった日本軍ですが、それを表現したいのならば各ユニットの対空火力を低くすれば良いと思うのです。
 ゲーマーたる者、ヒストリカルな艦隊編成でプレイしてみたいと思うものです。対空戦闘の結果に影響がでてくるのは少々気が引けますが、その点に目をつぶれるのならばヒストリカルな編成までは制限を広げてみてはどうでしょうか?

史実での艦隊編成
   日本軍       連合軍   
珊瑚海海戦 2+8 2+11
ミッドウェー海戦 4+17 2+15
1+8
第二次ソロモン海戦 3+19 1+8
(上記より分派)
1+3
1+8
1+9
ワスプ撃沈の日 1+10
1+10
南太平洋海戦 3+9 1+11
1+19 1+10
0+13 0+10
(注)空母+その他の艦艇数

 しかし、無制限な艦隊編成には賛成できません。
 連合軍が空母を集中運用したならば、というのは現在のルールでも十分行なえますし、ゲーム的には大艦隊のデメリットが無いため、艦艇制限が全く無ければ全艦艇を一つの艦隊に編成するという暴挙が最も有効な方法ということになってしまいます。
 逆に、単艦を艦隊として運用することも制限したいところです。その昔、FTのプレイで馬場氏は、各ヘクスに駆逐艦を一隻ずつ配置して横一線に並んだまま移動をして索敵を行なったことがありました。ルール上、艦艇は宣言さえすれば索敵を無条件で行なえ、同一ヘクスにいる場合には必ず敵を発見できます。南太平洋海戦シナリオでは、日本軍には駆逐艦だけで38隻もあるというのに、こんな方法をとられても笑ってプレイできるという人がいるならば是非とも会ってみたいものです。プレイヤーのモラルの問題ではあるのですが、損傷艦や給油艦に随伴するとき以外にはせめて戦隊規模の編成にするというのはどうでしょうか?
 TFでは、艦隊は航空攻撃を受ける際には輪型陣を組むことが義務付けられています。輪型陣には三種類の区分が有り、中心、内円、外円、それぞれの場所には、4、8、12ユニットまでしか配置できないという制限があります。しかしこのことは、史実では多くても20隻ほどの艦隊だったのがTFでは30隻を越える艦隊も編成できるということです。目標にされた艦と各艦艇の位置により使用できる対空火力が修正されるのですが、制限一杯の艦艇で編成された艦隊は、凄まじい火力を発揮します。
 第二次ソロモン海戦シナリオの日本軍が24ユニットの艦隊を編成すると、中心に位置する空母を守るために30火力以上を集めることができます。この対空火力ならば平均的なサイコロの目=7で、10ポイント(30機)は墜とせます。一隻の空母が持つ艦載攻撃機の約2/3が、ただ一度の対空戦闘で墜とされるのです。
 これが、南太平洋海戦シナリオの連合軍ならば約50火力の集中が可能で、20ポイント(60機)前後の撃墜が期待できます。
 戦闘結果表との関係でもあるのですが、これだけ強力な艦隊にさらにCAPが加わると攻撃そのものが自殺行為に思えてきます。
 FTの日本軍の制限も不満であり、TFの最大艦数も不満なのですが、私としても最適の艦数を示せるわけではありません。プレイヤーの立場は機動部隊の司令長官ですから、艦隊の規模によっては何らかの指揮統制ルールがあっても良いと思います。航空攻撃を受けたときに衝突の可能性があったり、あまりにも多い艦数ならば発見されやすくなる、など少々遊び過ぎのルールであったとしても何か制限が欲しいのです。

移動の解釈
 ここではFTに限定して話しを進めます。
 FTの航空機の移動については先程も少し書きましたが、三段階に設定された発着能力と移動力の関係や飛行高度の影響が採用されるなど、なかなか雰囲気がでている良いルールであると思います。
 解釈の問題として悩んだのが、「飛行機の移動力はひとつのヘクスに進入する毎に消費する」という部分で、以前は離陸したヘクスでも移動力を消費するのではないか、と思っていました。14.8.3では離陸と移動を別のものとして考えているように読み取れるので、空母/航空基地の隣のヘクスから移動力を消費すれば良い、と解釈し直しましたがどうでしょうか?上空を飛ぶのにも移動力は必要な気もするのですが。
 艦隊の地図盤からの離脱に関しては、日本軍は北端と西端のニューギニア以北、連合軍は南端、東端、西端のニューギニア以南、に制限した方が良いと思います。
 ラバウルに突入した連合軍の艦艇がトラック方面へ離脱する、あるいは、ポートモレスビーの西方海域に日本軍の艦艇が離脱する、などということは、戦闘海域を離脱して自軍の基地へ帰還する、という目的から考えれば随分とおかしな話ですし、無事に逃げ切れるとはとても思えないからです。

索敵
 索敵ルールは空母戦ゲームの命と言ってよいでしょう。しかし、どの空母戦ゲームを見ても一長一短があり、デザイナーも索敵ルールで苦労していることがうかがえます。
 先程も書きましたが、FTでは艦隊は自身が地図盤上に現れるならばすぐに索敵が行なえます。一方、航空機の場合には、前のターンから地図盤上に現れていることと索敵表で成功することが索敵を行なう条件になっています。この制限は、わざわざ1ターン分の航続力を無駄に使い、航空機の索敵範囲を狭くすることになります。また、ダミーマーカーを使用しないことから、地図盤上に現れたユニットは必ず何らかの自軍ユニットであるため、実戦同様に放射線状に索敵を行なうと自軍の空母が逆探知されてしまうことになります。このため実際のプレイでは、無線封止どころか索敵封止が行なわれるほどです。レーダーによる索敵も行なえますが、珊瑚海海戦シナリオの艦艇では連合軍の空母のみがレーダーを装備しています。ルール上、レーダーの使用時にも地図盤上に現れなければならないため、残念ながらこのシナリオで空母のレーダーが使用されたことを私は見たことがありません。
 索敵を行なうことで相手に情報を知らせてしまう点が、共通の地図盤を使うFTの欠点と言えると思います。
 索敵ルールの重要性から考えて、ここで他の空母戦ゲームも含めて索敵ルールと索敵結果について常日頃感じていたことを書いてみたいと思います。
 まず、EPなどで使われているダミーマーカー方式ですが、これは自軍の部隊からある一定の範囲内にいる敵のマーカーを指定して索敵する方式で、ゲーム的にはプレイアビリティの高い良い方法だと思います。ただし個人的には、ダミーマーカーという架空の索敵目標を設定されるよりは自分で索敵機を飛ばして索敵を行ないたい、と思ってしまうため好きになれません。この方式に多いのですが、全く何もいないヘクスでも「敵部隊発見」の結果があることも違和感を感じるのです。暗号を組み間違えた、あるいは、珊瑚礁にあたる波を見て敵艦と間違えた、などという記述を読んだこともありますが、どれだけ頻繁に起きていたことなのでしょう。確かな資料が見たいところです。
 索敵結果についてもうひとつ。索敵結果を数段階に分けているゲームで見られるルールですが、実際の戦力よりも五割の範囲で増減させて報告してよい、というルールは、少ない報告は全てを発見できなかったのだろうと思えるのですが、数が多く報告されるというのは何を表わしているのでしょうか?給油艦を空母に、あるいは、巡洋艦を戦艦に間違える、といった艦種に関する誤報はありえそうに思うのですが、数を多く間違えるというのは、雲間から索敵を行なっていたとしても、そんなに頻繁にあることだったのでしょうか?(プレイ中にこの結果はかなり頻繁にでます)
 自分で索敵結果表を作るならば、馴染みにくい結果の発生確率はもっと下げたいところです。
 ツクダホビー社の「航空母艦」のダミーマーカー方式は、プレイアビリティを考えなければ最も優れた索敵ルールではないか、という評価を読んだ覚えがあります。地図盤上に並べられた膨大な数のマーカーを、索敵側が自分でめくって解決し、その間、被索敵側は地図を見てはいけないという方式だそうです。私は、幸か不幸か実物を見たことがないのですが、被索敵側が自分が発見されたのかどうかすら分からないというのは、興味を覚えますし評価できる点だと思います。TFのコールマーカー方式も、かなりうまく考えられたルールだと思います。ブラインドサーチにダミーマーカーを導入した方式とも言えますが、実際には索敵を行なっていない地点まで相手に伝えておく点がこの方式のミソです。ただし、プレイをしてみた感想は「面倒くさい」の一言です。索敵位置を読み上げ、アルファベットの記されたマーカーを置いてもらい、その記号と対になっているマーカーと索敵レベルを記したマーカーを一緒に渡し、相手に結果を判定してもらいます。索敵側の情報が相手を発見したとき以外には被索敵側に伝わらない(欺瞞できる)点が利点だと言えますが、1ターンに二度、互いにこれを行なうのは少々ウンザリしてきます。出口氏とのプレイでは、相手の空母を発見した後は、実際に自分が索敵を行なっているヘクスしか読み上げなくなってしまいました。リアリティを求める割には、この程度の手間で挫折する根性無しだということです。

戦闘修正(ユニット評価)
 FTを見た日本人ゲーマーがまず驚くのは、零戦とF4Fの打撃力が同じ値になっている点でしょう。
 このことは日本人にはよほど受け入れ難いことだったのか、その後に出版された国産ゲームの、EPでは5:3、TFでは6:3で零戦に有利な攻撃力が与えられています。FTを初めてプレイした当時の私は、バリバリのジェット機モデラーだったのでそういうものだと思い込み、逆に珊瑚海海戦シナリオでF4Fの打撃力が7に修正されるのを見たときには憤慨したものです(昔から私は連合軍プレイヤーでした)。
 私はFT育ちですし、もともとこの時代の兵器には思い入れが無いため、現在でもFTよりは国産ゲームの評価の方に違和感を感じてしまいます。そんな非国民のたわ言など読みたくないという人々もいるかもしれませんが、以下のような考え方もあることを知っておいて欲しいのです。
 私がジェット時代の空戦ゲームを好んでいたことはよく知られている話ですが、その中の攻撃機を迎撃するシナリオも当然プレイしたことがあります。攻撃機には護衛がついていることが多いのですが、護衛がいないこともありますし、攻撃側の機数が多いこともあれば、両軍同数の場合もあります。状況は様々ですが迎撃側に共通して言えることは「決して楽な仕事ではない」ということです。迎撃側にミサイルが装備されていてもです。
 それに対して空母戦ゲームでの迎撃側の評価はどうでしょうか?
 FTでは、要撃機と護衛機は互いに相手の戦闘機に対して機数で2:1以上の優勢を持つと主導権を握れるルールになっています。これならば私も納得ができます。一方、TFでは空戦能力で2:1以上がなければ攻撃機には手出しできないのです。このことは日本軍が迎撃側のときには護衛機のF4Fに対して迎撃機の零戦は同数以上あれば攻撃機に手が出せるのに、連合軍が迎撃側のときには迎撃機のF4Fは護衛機の零戦の四倍以上の機数がなければ攻撃機に手が出せないことを意味しています。作戦級の評価を戦術級の感覚で行なうことが正しいかどうかは人それぞれに言い分があるでしょうが、パソコン通信上で「零戦が強すぎる」と話題になっていたEPと共に、TFも私には到底認められないような零戦の評価になっています。
 零戦の空戦能力の高さや当時の練度の高さを表現するのは構いませんが、数の持つ絶対的な影響力も護衛の概念とともに評価して欲しいところです。
 ゲーム上で処理することの難しさも基準となる資料の有無も承知の上で希望を言えば、攻撃機に全く損害のでない現在の戦闘結果表ではなく、護衛機と攻撃機の双方に必ず何らかの損害が生じるような空対空戦闘であって欲しいと思ってしまいます。
 他にも艦艇については、耐久度や対空火力について私の持っていた印象と違う評価がされているものがあるのですが、それらについては私自身が語れるほどの知識を持っていないので今回は触れずにおきます。
 FTの選択ルールには、航空機の空戦時における防御力の修正も含まれています。機種毎に数値が設定されていますが、いずれも連合軍に有利で日本軍に不利な修正になっています。水上機の評価が特に下げられている以外は、単純に「防御力=頑丈さ」と考えているようです。
 FTの戦闘結果表はひとつだけで、全ての戦闘結果は種別に与えられている基本打撃力と火力とを交差して求めた値の±2(選択ルールでは±1)の損害ということになります。基本打撃力の設定が1から15の幅を持つため、その時期の練度や装備によって修正を加えるのが容易なことが利点といえます。欠点としては相手に与える損害が計算できる点です。例えば日本軍の駆逐艦31隻がサウスダコタを雷撃したならば確実に撃沈できるのです。想像すると確かにすごい光景ですが、確実に撃沈できると言い切れてしまう点が不満なのです。
 TFでは各火力の評価値の幅は比較的小さい値で設定されています。このため値を1変えただけでも影響が大きいことが予想され、手を加えるのに少々抵抗を感じます。
 戦闘結果表で私が評価したのは、対艦航空攻撃の際にまず攻撃回数を決定してから、その回数分だけ損害判定を行なう点です。FTと異なり損害判定に幅が設定されているために、サイコロを振る手に力が入るというものです。修正値の多さは私にとっては煩わしいだけでした。航空隊の練度修正に感動できる人々ならば楽しく感じられることでしょう。
 個人的には、TFでは航空機が墜ち過ぎる割に空母が沈まないと感じてしまうのでプレイの途中でモラルダウンすることもしばしばです。これはデザイナーの当時の空母戦に対する評価がそういうものだったということなので私が批判できるものではないのですが。

勝利得点
 FTの勝利得点については、AH社から再販される際に見直しが行なわれたそうです。空母戦にふさわしく戦艦の勝利得点を低く修正したそうです。航空機基地に関しては、制圧すれば高得点が得られるが史実と同様にゲーム上でも制圧することは難しいだろうと判断したそうです。これは失敗でした。「ラエの悲劇」は正にこの点をつくことで成立したのですから。
 「ラエの悲劇」について説明しましょう。これは、以前の対戦においてUeM氏がFTのルールの穴を実戦で指摘するために行なった戦い方で、航空基地を制圧することで勝利得点を得続ける戦法です。航空基地の持つ発着能力が零になったときに5勝利得点が得られます(ヘンダーソン/ラバウルならば10勝利得点)。損害を受けた航空基地は毎ターン1ポイントの損害を修復できることになっているのですが、これは航空攻撃/艦砲射撃を受けなかったターンに限られるのです。したがって毎ターン攻撃を受け続けた場合には修復が行なえないために、一度発着能力が零になった後は相手に勝利得点が入り続けることになるのです。
 このときのシナリオは珊瑚海海戦だったために初日でサドンデスになりました。空母戦は全く起こりませんでした。私はUeM氏と組んで機動部隊を担当していたのですが、悲惨だったのは対戦相手のAoN氏とSatoh副長でした。前の週の日曜日に二人で作戦研究をしてきたと喜び勇んで対戦に臨んでいたのに...。
 それ以来、彼らがFTをプレイしているのを私は見たことがありません。FT自体は翌日、UeM氏と私の二人が対戦していましたが、そのときは私がポートモレスビーを制圧されてサドンデスとなりました。前日と同じ戦法で負けたのですから恥ずかしいどころの騒ぎではありませんでした。
 あまりにもあっけなく航空基地が制圧されてしまうのですが、実戦でも反復攻撃が有効なことは事実ですからそれ自体を禁止する訳にはいかないのです。それならば航空基地の制圧で得られる勝利得点をなくしてしまうしか方法はないでしょう。空母が主役のゲームですから、航空基地の制圧で得られる利点は純粋に戦術的なものだけで妥協して下さい。
 TFでは勝利ポイントの決定という概念があからさまに軽視されています。
 航空機の勝利ポイントが、0.2から0.6ポイントという数え方もすっきりしないのですが、艦艇の損害からも撃沈するか移動・戦闘不能の状態にしなければ勝利ポイントが得られないというのですから、勝敗にこだわる私としては全く評価できません。選択ルールとして追加されるまでは、航行不能になるまでは能力の低下が全く無かった程ですから、いかに簡略化という目的があって採用しなかったと後になって言い訳されてもデザイナーのセンスを疑ってしまいます。艦艇の損害の細分化のルールと共に、各自で設定し直すしかないようです。

天候
 天候ルールはFTにはありますがTFにはありません。実戦でもあらゆる面で影響が生じたように、ゲーム上でも作戦に大きく影響を及ぼす要素として欠かせないものだと思います。史実の天候を再現する訳にはいきませんが、不確定な要素の導入としてはこれほど雰囲気を壊さずに自然に採用できるルールは他には無いと思います。

あとがき
 空母戦ゲームの普及をもくろんで書いたつもりの記事でしたが、既存のゲームのアラ探しの様になってしまったことを反省しています。本来ならば、欠点を批判する場合には何らかの解決策を示すべきだとは思っているのですが、私の力不足でなかなか考えをまとめるところまではたどり着けません。その点ではデザイナーの皆さんを認めているわけで、文中で批判してはいても悪意はないことは御断りしておきます。
 もしも今回の記事をきっかけとしてでも、また空母戦ゲームをプレイしてみようかと思った方は私に一声掛けて下さい。FTとTFは、いくつか不満に思う点はあっても十分プレイする価値のあるゲームだと思っています。欠点の修正をしたくてもテストプレイもできないようでは進歩がないのですから。
 最後に、文中で使用した数値や記述はゲームのルールブックや各種ゲーム雑誌(分かりますよね)から引用したものです。特にこの記事を書くにあたってオペレーション誌を全巻貸して下さった太公捨 立謀氏に感謝します。

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