Albert Francis JuddはDr.Juddの三男として生まれました。1862年にイェール大学を卒業、その二年後にハーバードより法学の学位を与えられています。
1881年から1900年の彼の死までハワイ最高裁判所の長官を勤めていました。これはハワイの歴史のながで最長の在任期間であったようです。

左の写真はアリイオラニ・ハレ司法ビル内にある司法歴史センター(The Judiciay History Center)の展示写真を勝手に撮ってきたものです。

このジャッド長官の在任期間中、ある日本人の殺害事件が発生します。

後藤潤殺害事件

 1889年10月、ハワイ島ハマクア耕地にて日本人移民が四肢を縛られた上、電柱につるされて殺されるという事件が起きました。被害者の後藤潤は第一回官約移民でしたが、耕地作業から商店経営に転身した人物です。英語もよく出来たため、彼の店は移民、白人双方を顧客におおいに繁盛していたのです。しかし、それがあだとなってしまいました。

後に犯人として商売敵の商店主と、共犯の3人、計4人が逮捕されました。後藤の店が繁盛していることを妬んでの犯行とされています。

時代背景

人口の推移
このジャッドが最高裁判所の長であった時期は、ハワイへの日本人移民が急激に増大した時期に重なっています。1882年には日本人の在ハワイ農園労働者人口は15人にすぎなかったのが1902年には3万人を超えるようになります。

(Atlas of Hawaii -SECOND EDITION- P113より 人種別人口の推移)
(緑色が日本人を示します。左の表をクリックすると拡大表示します)

 日本人人口の増大に伴い、待遇改善を要求する日本人の抵抗活動もやがて目立つようになっていきました。実際、後藤が殺された1889年11月にはハワイ島ハカラウ耕地では日本人労働者が他の耕地と同等の労働条件を求めて大ストライキを起こしています。
上記のとおり後藤潤は当地日本人コミュニティ内の随一の成功者であり、リーダー的存在といって良いでしょう。牛島秀彦さんの「行こかメリケン、戻ろかジャパン」では、英語もよくできる後藤潤が日本人労働者の意見を耕地主に代弁するのが目障りだったのだ、という説も紹介しています。

後藤潤という人物
後藤潤の遺品  後藤潤は1862年、神奈川県のコバヤカワ イザエモンの長男として生まれました。小さい時分より学業に優れ、大磯市役所?に勤務することになりました。彼の英語力はこの横浜港で働いていた時に身につけたのではないか、と言われています。
当時の世情では、長男である潤が海外に出ることは難しく、後藤家の養子に入ることとなりました。ちなみに潤の下には3人の弟、2人の妹がいたのです。
彼は他の944人の移民とともに「シティ オブ トーキョー」号にてハワイにやってきました。1885年の2月のことです。
厳しい労働にも耐え、1887の終わりには弟のセキジロウも呼び寄せ、サンフランシスコの高校に行かせるまでになりました。セキジロウもまた潤と同様、勉強がよくできたのです。
その後も彼は貯蓄につとめ、1888年には商店経営のライセンスを得ています。第一回官約移民のなかでは最初の商店移転組となりました。彼の商才は一年目の終わりには別の日本人を雇いいれるまでになったことからも伺うことができます。その上また、新しい店までもオープンしているのです。彼の死の2ヶ月前のことでした。

左の写真は後藤潤の遺品である金時計
(「図説ハワイ日本人史」P164より)


判決

ジャッド裁判長は被告人たちに重労働4年から9年の刑を宣告しましたが、4人中2人は脱獄、ハワイを離れ、自由の身になってしまいました。また残る2名のうち一名も特赦を受け釈放されています。結局1名のみが刑期を勤め上げたことになります。


 この事件については「Hawai'i Chronicles」という書の「The Lynching of Katsu Goto」の項に詳しい説明があります。上記の後藤潤に関する説明はすべてここから引用しました。難しい単語ばかりでなかなか歯が立ちませんが、裁判の経緯についてもより詳細な記述があるようです。
これによるとジャッドは事件を重視、自らを裁判長に任命、公正な審理の遂行に心を砕いたようです。当時の日本ハワイ領事、鳥居忠文子爵は外務省への報告の中で、ジャッドの公正な審理の進行を称えています。もちろん当初より量刑が軽すぎるとの声があったようですが。
なるべく早く本書の内容を紹介したいと思うのですが、奥が深くなかなか進みません。例えば犯人たちの特赦についてはドール大統領の力添えがあったようです。当時のハワイの状況を踏まえて読んでいったほうが良さそうですね。

"Hawai'i Chronicles":Bob Dye編集;University Hawai'i Press:ISBN0-8248-1829-6より
The Lynching of Katsu Goto:Gaylord C.Kubota著(初出HONOLULU Magazine November 1985)

また、この事件については以下の書が詳しいとのこと
"The Strange Case of Katsu Goto":Allan Beekman著:Heritage Press: