ラインベルガーの作品について

ラインベルガーの作品について、いくつか紹介してみたいと思います。

 ラインベルガーの作品としてあげるならば、まず二〇曲も残したオルガン・ソナタでしょう。
 その全ては私もまだ未聴ですが、この作曲家の最もこだわった作品群であることは間違いありません。
 私は壮大な構想で聞かせる七番ヘ短調などが気に入っていますが、この曲は二楽章がラプソディーと題されオーボエのソロとオルガンの作品に一八八九年に作曲者自ら編曲していて、これがまた心が洗われるような美しい作品で、素晴らしい音楽となっています。もちろんオルガンだけで弾いてもいいのですがね。
 聞きたいと思われる方は、オーボエバージョンのラプソディーもオルガン・ソロのバージョンも両方録音されている、独カプリッチョ・レーベルのCDが、演奏も良いのでお薦めです(CAPRICCIO/10 551)。
 あと第九旋法によるオルガン・ソナタ第四番も独CPO盤で愛聴しています。厳かで気品があって、深い宗教心から迸るような美しい作品です。(演奏はやや不満なのですがね。)

 規模の大きい器楽作品としては、オルガン協奏曲が二曲(しか知らないのですが)あり、独バイエル・レーベルからいい演奏のCDが出ているので聞いてみてはいかがでしょうか。
 一番はサンモリッツのStiftKircheのネッカー・オルガンの音が楽しめます。
 演奏もよく健闘しているのではないでしょうか(独Bayer / BR 100 074) 。明るく、伸びやかな一番の音楽的な特徴をよく引き出していると思います。この辺りが近代オルガンの独壇場であります。特にオーケストラと競合するような作りではなく、オケと協調していくような作りがこの一番の協奏曲の特徴のようです。
 更に二番はト短調で書かれていて、オケの編成もトランペットやティンパニーといった楽器を加えた編成で壮大な構想のやや悲劇的な性格を持つ作品となっています。

 オケとオルガンが共演する作品としては他に作品149の「組曲」がありますが、ヴァイオリン、チェロ、そしてオルガンと弦楽オーケストラという編成となっていて、この弦楽オーケストラなしでも演奏できるようになっています。弦オケつきの演奏ならば先のオルガン・ソナタのオーボエ入りのCD(独Bayer / BR 100 075)がいいでしょうし、弦オケ無しの演奏ならば(英hyperion/VDA66883)がいいでしょう。尚このCDには先に紹介したヴァイオリンとオルガンの為の「六つの小品」作品150も入っていますが、こちらは少し折り目正しいというか、あまりロマンチックな大きな抑揚は無く、平明な演奏となっています。どちらが好きかと言われれば、私ならば独Arte Nova盤を選びますが、この辺は好みですからねぇ。

 ピアノ協奏曲の一曲あるそうですが、これもまた未聴で紹介できません。またの機会にしましょう。

 あと、交響曲が二曲あるそうですが、私は一曲しか聞いていません。作品87の「Frorentiner Sinfonie」というタイトルを持つヘ長調の作品なのですが、この明るく伸びやかな作品は、実に丁寧に作られていて、さすが作曲の先生をしていただけのことはあると、つくづく思います。主題の統一感、全体の構成の仕方など、ブラームスらのようにロマン派の作品としての革新性には欠けますが、無視されるような駄作では決してありません。主題の活気に溢れた性格は充分に個性的で、ロマンティックでありますし、アダージョの深遠さも特筆に値すると思います。終楽章の活気と全体の見通しの良さも素晴らしいものであると思います。
 アラン・フランシス指揮の北西ドイツ・フィルハーモニーの演奏が出ています。(独Carus/83.112)

 室内楽も、多く作曲していて、ピアノ・トリオが三曲、ヴァイオリン・ソナタが二曲、弦楽四重奏曲が二曲、弦楽五重奏曲、ピアノ五重奏曲、ホルン・ソナタ、チェロ・ソナタ、ノネットなどが各一曲残されています。独THOROFONから極めて優れた全集(CD六枚組)が出ています。
 一曲だけという方はノネット(九重奏曲)がいいかも知れません。ソニーから出ているウィーン・フィルとベルリン・フィルのメンバーによる演奏がとても良いのですが、さて今も手に入るかどうかわかりません。
 あまり売れ筋の音楽ではありませんからね。

 そして、どうしてもラインベルガーを語る上では、触れておかなくてはいけないのが宗教音楽であります。
 一八七八年に作曲されたミサ曲変ホ長調作品109は名作でありながらCDが無かったのですが、英ASVから良い演奏が出たので、ここで紹介しておきたいと思います(英ASV/CD DCA 989)。
 さすがと思われるほど、対位法の技法を使用しての作品でありますが、伸びやかなメロディーに特徴がある曲です。アカペラの少年合唱の響きは陶然とするほど美しく、よく訓練された団体によるものらしく、さすが合唱の国イギリスと思わされます。
 このCDにはいくつかの合唱用の宗教的な作品とともに、一九〇〇年というラインベルガー最晩年に作られた「レクイエム」も収められています。この曲にはオルガンも入りますが、全体に漂う禁欲的な厳しい響き、強い求心力のある作風には、亡くなる直前までインスピレーションに溢れた作曲をしていたんだなと、つくづく考えさせられます。
 更に、合唱にソプラノ独唱、バリトン独唱、オルガンとオーケストラによる作品「ベツレヘムの星」は、妻ホッフナースのテキストによる作品で、キリスト誕生の物語として、実に美しいメロディーに溢れた作品であります。先に紹介したオルガン・ソナタ第七番のCDに収録されています(CAPRICCIO/10 551)。

 あと独ARS MUSICIから出ているCDには作品117のミサ曲と「Morgenlied」「Abendlied」という小品ながらよく知られた作品も入っているのでお薦めです(独ARS MUSICI/AM1063-2)。
 作品117のミサ曲は「Missa Sanctissimae Trinitatis」というタイトルを持っている作品で、グレゴリオ聖歌からの伝統を見事にラインベルガーとして統合していった作品であると言えます。アカペラの禁欲的な響きの彼方にラインベルガーの敬虔な宗教心がよく表現されていて、とても良い作品であり、演奏であると思います。

 アルプスの小国リヒテンシュタインは、スイスの隣国、同じ通貨を使い(スイス・フラン)どこが国境だったかわからないほど、両国は深い関係で結ばれています。
 小さな国ではありますが、こんな素晴らしい作曲家を十九世紀に輩出し、世に送り出した国であることもまた、ロマン派の音楽史の中で忘れてはならないことではないでしょうか?