スイスに生まれたロマン派の作曲家、ヨアヒム・ラフの作った音楽について書いてみます。
交響曲を十一曲、弦楽四重奏が八曲、有名な「カヴァティーナ」を含むサロン用の音楽も多数あり、ピアノ協奏曲を一曲作っています。あとオペラが六つとたくさんの「軽めの」ピアノ小品が残されています。
その全てを聞いたわけではないので、彼の芸術を網羅的に批評することはできませんが、手に入る所はなるべく聞くようにして(まだラフについては初心者なので)彼の音楽を理解する努力を、少ししてみた経過報告のようなものであります。
そこで、今回から何回かで、このスイスの作曲家の交響曲をいくつか、そして、ピアノ協奏曲について聞いた感想を述べてみたいと思います。
交響曲第1番「祖国」は、交響曲の中でも恐らく(全部聞いたわけではないので違うかも知れませんが)演奏時間七十分あまりの最も大きな(長い)作品です。珍しいことに全五楽章からなり、終曲にラルゲット・ソステヌートというゆっくりとした部分を持っているところなとは、チャイコフスキーの「悲愴」を先取りするかのようで、なかなか面白い作品であると思います。(その後の展開は大きく異なりますが…)
大家となった後に書いた作品で(作品番号は96)、三九才の時に完成しています。したがって、若書きゆえの稚拙さはありません。実に凝ったテーマと構成で、成熟した音楽を最初から聞かせてくれます。
「祖国」と訳せばいいのでしょうか?「An das Vaterland」という表題を持つ作品ですが、これは、すでにドイツに移住していた彼の「祖国(スイス)」への想いを曲に託したものなのでしょうか。
第一楽章は、後のリヒャルト・シュトラウスのような凝った作りの、それでいて快活でエネルギッシュな第一テーマで始まります。 「ゾクッ」とするほど艶やかな味わいに彩られている第二テーマも印象的です。テーマの展開は対位法の技法を多く用いて、実に入念に発展させています。少々盛り上がりに欠けるように思われるのは演奏(フリードマン指揮ライン・フィル)のせい?
第二楽章は、特徴的なテーマによるスケルツォ楽章。メンデルスゾーンらの延長線上にある音楽であるが、テーマそのものの調性の不安定さと、それに対する安定したトリオとの対比実に鮮やかであります。木管の活躍が、作者のオーケストレーションの卓抜さをよく物語っています。
第三楽章はラルゲットのゆったりとしたテンポの楽章。親しみやすいテーマを持ち、深みや深刻ぶったところはありませんが、自然と湧き上がってきたかのような一緒に口ずさみたくなるような親しみやすさがこの楽章のテイストでしょうね。
第四楽章は、メンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」のようなテイストを持ち、それでいて全体にエネルギッシュで力強い音楽となっていて、第一楽章に対するアンチ・テーゼのような役割を果たす部分となっています。
終楽章は、この全曲の中でも最も長く(一八分あまり)、充実した音楽を聞くことが出来ます。短調で始まり、少しずつ盛り上がり、祝祭的な雰囲気に移っていく様は、この作者が決して凡手ではあり得ないことを示しています。
この作品を聞くには、マルコポーロというレーベルから出ているCDが手に入りやすいでしょう。8.223165というCD番号のもので、演奏はサムエル・フリードマンというロシア人の指揮者の棒でライン・フィルハーモニー管弦楽団が演奏しています。やや技術的な欠陥はあるものの、健闘しているのではないでしょうか。
マイナーな大曲というのが災いしてでしょうか。滅多に聞かれないのですが、もっと演奏会のプログラムに取り上げられてもいいのではという気がしています。
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