教会のオルガンの思い出

 スイスで、知らない町に行った時、まずその町の教会を探します。大丈夫。でっかい塔に十字架、大概見つかります。ベルンや、ルツェルン、ジュネーヴ、チューリッヒといった大都市ではそうはいきませんが、田舎ならば、大体ここが町あるいは村の中心となっていますね。
 そこで、しばらくゆっくりと宗教画やらを見てまわり、運が良ければオルガンの練習に出会うこともあります。

 ルツェルンのホーフ教会やイエズス教会で始めて聞いたオルガンの音は、強烈な印象を与えました。音が高い空間から降ってくるという感じで、天からの神の言葉を聞くというのは、こんな感じだろうかと、強く訴えてくるものがありました。
 最初に、こんな経験をしてしまった私は、何が何でも教会を見て回るという思いにとりつかれてしまい、オルガンのコンサートなどにも行ってみることにしたのです。
 この二つのオルガンは随分立派なものだそうですが、オリジナルから前世紀あたりに随分と改造したようで、荘厳さに、甘さ、華麗さを加えたロマンティック・オルガンというべきものです。だからといって、価値が落ちるというものではないのですがね。

 次に思い出深いオルガンはジュラ州の山間の村、サン・テュルサンヌのコレジアル教会のオルガンです。誰が何年頃作ったのかは、全く知りませんが、ホテルでの夕食後の散歩のついでに立ち寄った時、練習しているオルガンの音に聞き惚れてしまいました。
 演奏は、どうも随分稚拙で、なんとも無かったのですが、オルガンの音は高雅で、実に美しいものでありました。

 フリブールのサン・ニコラ大聖堂のオルガンも立派で、印象に残っています。今から七年前の九月、小雨降る中、教会にたどり着いて、そのオルガンの響きを聞いた印象は筆舌に尽くしがたいものがありました。
 さてどんなオルガンだったかを思い出そうとCDを探したのですが、引っ越しのどさくさにどこへ行ったか、さっぱりわからず行方不明で、聞き返すことができず残念でした。確か十九世紀中頃の、近代的な機能を持つ、立派なオルガンでありました。

 そう、シオンのヴァレール丘教会の有名な「演奏可能な物では最古の」オルガンのように、手を加えたり、取り壊して新しい物を設置したり出来なかったものを除いて、随分多くの、貴重な古いオルガンが、十九世紀に消えてしまっています。その辺が残念ですが、エンガディンのあまり話題にはなりませんが、サムナウンのコムパッチュ村に十八世紀前半のバロック・オルガンが残されているそうです。
 と言うのは、ここは次の訪問地にとってあるものですから、まだ行ったことはありません。CDで出会ったオルガンなのです。今年は行けそうもないのですが、是非訪ねてみたい素晴らしいオルガンです。