モルコーテの教会のオルガン

 興味を持って、探していると色々なものに出会うものです。今、私の手元に届いた小包を開けて中からCDを取り出して聞き始めたところですが、その素晴らしさについ心奪われる結果となってしまいました。
 それは、今から五年ほど前に行ったルガーノ湖畔の小さな村、モルコーテの教会のオルガンのCDであります。(伊DYNAMIC/CDS 09)
 演奏しているのはジャンカルロ・パロッディというイタリアのオルガニストで、曲は十八世紀から十九世紀というバッハの後にドイツで活躍したオルガニスト兼作曲家 Gaetano Valerj (1760〜1822)の十二のオルガン・ソナタでありますが、バッハ以後のホモフォニック(和声的)な様式でのオルガン作品の数々は、私にはとても新鮮でした。まるでモーツァルトやハイドンがオルガンで作った小さなソナタとでもいう作品で、多くの作品は屈託のない、明るい作品として作られています。
 で、ここのオルガンはベルガモのBossi 一家によって一七九七年に制作されたものだそうです。木製のキャビネットはそれよりも古く一六四〇年とありますから、更に古い時代にもオルガンがあったのかも知れません。
 結構小さなオルガンで(そりゃあそうでしょうね!!)鍵盤は50鍵、ペダル鍵盤は18鍵とありますが、パイプは20本でバロック期のオルガンとしてもそう規模の大きいものとは言えません。でもよく手入れの行き届いているオルガンのようで、音色の変化も充分に多彩でありますし、反応の良い楽器であるようです。
 でなければ、わざわざあの高台まで録音機材をあげてまで録音しなかったでしょうね。(録音は一九七九年)手元のCDの解説によるとこの録音の前の年にレストアされたそうですから、ちゃんと手入れされての録音だったようです。
 イタリアに面したティチーノ州のルガーノの街から小さな船に乗って行くと、湖畔にたたずむ小さな村がいくつもあり、その中の一つがモルコーテです。
 私たち一家は船を降りて、古いアーケードをぶらぶらしてから高台を目指したのですが、結構きつかったのを憶えています。標高がルガーノは低いため夏は日本のように暑く、更に湖水に面しているため湿度も充分高めなのかも知れません。
 ともかく汗をいっぱいかきながら登っていくと、見晴らしの良い所に教会の塔が見えてきて、次第に視界が開けて行き、それは素晴らしいものであります。
 行った時は誰もいなくて、閑散としていました。オルガンを練習しているオルガニストもおらず、ライブではどんな音色で、どのように堂に響くのか聞けなかったのですが、それを録音したCDに巡り会えるとは思いませんでした。