悠久交差点 [HOME] [悠久ミニストーリー]

暴風の街に飛ばされて

ファウスト

「アチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャーーーーッ!!」
いつもの様に、エルに店番を任せて山ごもりをして、修行しているマーシャルがいた。
修行といっても他の人がみたら、ただヌンチャクを振り回しているだけにしかみえない。
しかし、それでもそこそこ疲れるようで、休憩をとることにしたマーシャルだった。
「今日もいい天気アル。修行日和アルねえ」
空を見上げながらそんな事を言って、地面に座り込む。ヌンチャクは首にかけて。
しばし休んでから、また修行を再開した。
「アチャ!アチャ!アチャ!アチャ!・・・・・・」
そんな感じで修行しているうちに、日も暮れて夜。
「そろそろ帰るアルか。えーっと、エンフィールドは確かアッチアルね」
で、歩き始めたマーシャルだが・・・。
約3時間後。
「・・・おかしいアルね?」
まだ、エンフィールドにたどりつかない。
約4時間後。
「何でアルか?」
やっぱりつかない。
約5時間後。
「疲れたアル・・・」
何故かつかない。いいかげん迷ったと思ってもいいのではないだろうか。
約6時間後
「も、もう駄目アル。また明日帰ることにするアルか・・・」
仕方ないので、野宿することにした。そう決めて、歩き疲れてその場に座り込んだマーシャルは何かを見つけた。でも、疲れていたので無視して寝る事にした。道端に。
「ふう・・・」
散々歩いて疲れていたのだろう。すぐにマーシャルは眠りに着いた。
寝てからしばらくして寝返りをした時、さっきの何かにぶつかった。
それは、ぶつかられて何故か光りだす。次に、激しい光と共に、見たことないモンスターが現われた。
「ZZZ・・・ZZZ・・・・ZZZ・・ZZZ・・・」
そんな事が起きてるとも思わずに、マーシャルは寝ている。
そして、次の瞬間、モンスターから物凄い風が発生した。爆風のような風が。でも、何故か周りの木々は倒れない。
当然マーシャルは吹っ飛ぶ。流石に目を覚まして、声を上げて叫んでいるようだが、聞こえなかった。
この風によってマーシャルが、エンフィールドに帰れたかどうかは、わからない。

エンフィールドの朝、セントーウィンザー教会でローラは目を覚ました。
「ん、うーーん」
ベッドから体を起こして、体を伸ばす。そして、窓の方に目を向けた。
今日もいい天気かと思ったが、曇りだった。それは一面厚い雲で覆われている。でも、雨は振りそうな感じはしない。今日はこのまま曇りだな。まあ、雨よりはマシだろう。
などと思いながら、洗顔しに洗面所に行く。
そこには、ローラと同じく朝起きたてのセリーヌがいた。
「おはようございます、ローラさん」
「おはよう、セリーヌさん」
セリーヌもやはり洗顔と歯磨きをしに来たのだった。二人そろって、それらをすます。
そして、着替え、朝食もすまして、セリーヌがかごを持って現れた。
「それではローラさん。私は果物を取りに行ってきます」
「え?」
「おいしい果物がなっているところをまた見つけたんです。ちょっと遠いので、今から行ってきますね。お昼のデザートに出しますよ」
「ま、待って、一人で行くの?」
「ええ、誰も誘ってませんから」
「・・・あたしも行くわ」
セリーヌを一人で出かけさせたら、迷子になる事間違いない。しかも今回は自分でちょっと遠いと、言っているのだから、まず間違いなく迷子になる。
と言うわけで、仕方なくローラはついていく事にした。昼には帰ってくるといっているし、今日一日、つぶれると言う事はないだろう。
「そうですか、じゃあ、ローラさんもかごを持ってください」
「わかったわ」
そして、ローラもセリーヌからかごを渡された。で、出発しようと扉を開けたら、
「って、ちょっ・・・・・」
喋る事すら出来なくなるローラ。
「凄いですね〜」
いつも通りのセリーヌ。
ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
いや、
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
と言う音が聞こえるくらいの風が吹いている。だいたい、風力にすれば8〜9ぐらいと言ったところか、または、スカイダイビングで落ちていく時に感じる体に受ける風と同じくらいだと思う。当然、目なんか開けてられない。
そして、風向きも無茶苦茶だった。一体どっちから吹いているのかすら分からない。
で、こんな風じゃ外に出て行けないのから、ドアを閉める。
「ふう、ふう、ふう・・・なんなのよ、あの風は!」
「強かったですね〜」
やはり、セリーヌのリアクションを見て落ち着きを取り戻すローラ。どんなときでも、平静さを失わないセリーヌ、これに対して、天然だからとか、セリーヌだからとか、いちいち、もう、突っ込まない事にする。
「・・・でも、何で窓やドアが揺れたりしないのかな。あんなに風が強いのに」
「何だか、前にもこんな事ありましたね。あの時は、暑かったり、寒かったり・・・」
「あ〜、そんな事もあったわね。あたし達は皆に喜ばれたのよね。一応。あと、魔法の使いすぎで疲れたりもしたわ。それに、あたしはお兄ちゃんの所に泊まったのよね、結局。って、何言わせるのよ!」
自分で勝手に言っといて・・・。だが、セリーヌは動じない。
「懐かしいですね」
「あのね、セリーヌさん、今はそれどころじゃないの。懐かしがってる場合じゃないのよ!」
「わかってます。つまり、私が言いたいのは、普通の天候じゃないと言う事です。あの時も全て何か人為的な原因があったでしょう」
「・・・う、うん。じゃあ、今度もまた何かあるって事?」
いきなり、セリーヌらしくない事を言われて戸惑うローラ。まあ、実際今回も物凄い天候だし、普通じゃないなんて誰だって思うだろう。
「はい、おそらく何かが、街をこんなふうにしているのでしょう。確証があるわけじゃないですが。でも、困りましたね。これじゃあ、果物を取りにいけません」
あくまでも、マイペースなセリーヌだった。そして、ローラが。
「セリーヌさん、また、あたし達で解決しましょう!」
「はあ、わかりました」
今まで、こういう天気でも必ず外出してきた二人だ。もちろん今回も、部屋にこもっている訳がない。
「それじゃ、とりあえず出かけるわよっ!!」
「かごは持っててくださいね」
まだ、果物を諦めていないセリーヌだった。しかし、この風の中、一体どうやって出て行くのだろうか・・・。

「ご主人様、お客さんが来ないッスね」
「まだ朝よ、テディ。こんな早くには来ないわ」
「そうッスか」
ジョートショップで、テディとアリサさんが話していた。二人はまだ外の状況に気付いていない。
「そういうものよ」
「じゃあ、ちょっとお客さんが来てるかどうか、見てみるッス」
と、テディが外に出た。その時。
「・・・ウワアアアア〜〜〜〜!!」
「テディ!!」
テディはこの風に吹き飛ばされてしまった。テディの声ですぐにアリサさんは気づき、テディを追いかけようとしたが、この風に阻まれてしまった。そして、テディは風任せにどこかに行くのだろう。テディはどうなるのか・・・。

「ローラさん、どこに行ったらいいんでしょう」
「そうね、とりあえず、マリアちゃんのところに行って前と同じかもしれないから魔法の失敗か確認しましょう」
二人は、何とかこの風にも負けずに歩く方法も見つけた。今はその方法のおかげで進む事が出来る。
それは、ローラをセリーヌの体にくくりつけて、やたら重い靴をはき、なるべく、風に当たらないようにしていく方法だった。
つまり、まずローラをセリーヌの背中に紐で外れないようにくくりつけて、そして、ちょっとやそっとじゃ、その場から動かない靴(要するに、かなり重い靴)をセリーヌが履いて、なるべく壁伝いに歩けば、何とかなった。壁伝いといっても、向かい風と垂直に交わるような壁を選んでいる。でないと、風に吹き飛ばされた物に当たってしまう可能性があるからだ。
他にも、匍匐前進で行く方法とか、先端角23度くらいの鋼鉄の傘を持っていく方法とか、風に逆らわず進む方法とか、ニードルスクリームやヴォーテックスで風を相殺しながら行く方法とか、棒で地面を刺して体を固定しながら進む方法とか、色々あったが、全て却下。
理由は、それぞれ、服が汚れる、そんなものない、無理、この前で懲りた、刺さらない、と言うものだった。これら全て、ローラの意見。
この二人をはたから見たら、ローラはセリーヌにおんぶされているだけで何の役にも立っていないように見えるが、ローラがいないとセリーヌはどこに行くか分からない。ローラの役目は道案内だった。
それはどんな感じかというと、
「次はそっちの曲がり角を右よ」
「右ですね?」
「違う、そっちは左よ!」
「すみません、こっちですね」
「違う・・・」
と、こんな感じで、ローラは道案内していたのだ。
でも、こんな風の中じゃ、喋っても聞こえないんじゃないか?と思うだろうが、二人は糸電話を使っていた。
それからしばし歩いて、やっとマリアの家に到着。同時にローラを固定していた紐も解く。
「すみませんー!!」
「あのーどなたかいらっしゃるでしょうか〜?」
二人はマリアの家に着いて、誰かがドアを開けてくれるのを待つ。この風の中では、ただ立っているだけというのも辛い。早く誰かドアを開けてくれないか、と思いながら待っていたら、
「どなたでしょ・・・」
いつもの執事が開けてくれたが、空けた瞬間にこの風のせいで喋れなくなった。目も開けていられないようだ。
「とりあえず、入りますね」
「おじゃまします」
勝手に上がる二人だが、この際仕方ないだろう。そして、ドアを閉める。
「はあ、はあ、はあ、・・・ああ、セリーヌさんにローラさん」
執事が、二人が誰かに気付く。二人は風によって物凄い髪形になっていたが、執事なのでそのことは言わない。
「あの、マリアちゃんいる?」
「ええ、いますが・・」
「それでは、呼んでくださいますか?」
「分かりました。少々お持ち下さい」
執事はマリアを呼びに行った。ここでようやく、まともな休憩が出来る。その間に、二人は髪を直す。
しかし、ローラはともかく、セリーヌはここまで来るのにかなり疲れているのに、ちっともそんなそぶりを見せない。ローラをおんぶして、重い靴をはいてここまで来たのに・・・・・。
「お待たせー☆どうしたの二人とも」
マリアが現われた。単刀直入にローラが聞く。
「マリアちゃん、今日魔法使った?」
「何よ、いきなり」
「いいから、答えて」
「使ってないけど」
「そう・・・。ありがと・・・。セリーヌさん、どうする?」
マリアの言葉を聞いて、残念そうなローラ。マリアにしてみれば、どうしてローラがそんな表情をするのかわからないだろう。
で、自分ではどうしようもなくなったので、セリーヌにふる。
「そうですねえ、それじゃ、ここで少し考えましょうか」
「うん、歩くだけでも大変だしね」
と、言う事になった。
それから、二人は向かい合って話し始めた。
その直後、マリアが後ろ向きのローラに質問した。
「ローラ、何で魔法使ったかどうかなんて聞いたの?」
「ああ、それはね、今日の天候がマリアちゃんの魔法の失敗のせいかと思って――」
後ろを向いたまま答える。
「ローラさん!!」
そこまで言って、セリーヌはローラが言った言葉をセリーヌが止めに入る。だがもう遅い。
ローラは、セリーヌに止められてハッと気付く。そして、振り返ってマリアを見た。
そこには、すでに何かの呪文詠唱に入っている、マリアの姿があった。
「マリアの魔法が・・・失敗する訳ないでしょ!!」
「マ、マリアちゃん、落ち着いて・・・」
もちろん、マリアに聞く耳なんてない。
そこでセリーヌは、何とかしようと思い、尋ねてみる。
「マリアさん、それは何の魔法ですか?」
「転移魔法よ!最近、ランダムに相手を飛ばす魔法を覚えたのよっ!!」
二人が逃げようとしたその時。
「えーーーーい☆」
マリアは魔法を放った。
ボワンと言う音と共に煙がでて、二人は消えた。
「ほら、見なさい。マリアの魔法に失敗なんてありえないのよ!」
実はこの魔法は、さっき本で見ただけの魔法だった。当然、さっき初めて使ったのだ。
運良く成功して、良かったのか、悪かったのか・・・それは誰にも分からない。

「口は災いの元・・・ね」
「軽佻浮薄ですよ、ローラさん」
マリアの魔法で飛ばされた二人は、木の枝の上にいた。木もなぜか風の影響を受けていないから、折れる心配はないだろう。
「ゆっくり、降りようか・・」
「ローラさん、気をつけてください」
何とかローラは着地できたが、木にへばりついていなければ、風に吹き飛ばされてしまう。
「セリーヌさん・・・早く降りてきてよ」
「ちょっと、待ってくださいね」
で、セリーヌも降りてきて、紐でローラを自分に縛る。
「ふう・・・で、ここ、どこ?」
「さあ、見た事ありませんがねえ」
要するに、迷子。道に迷った、というよりも、一体どこら辺なのかも分からない状況だった。一応周りからすると、どこかの森のようだ。
「どーすんのよう!この風を静めるどころか・・・迷子になっちゃったじゃない!!」
セリーヌの背中で、ギャアギャア騒いで、慌てるローラ。
「ローラさん、落ち着いてください。騒いだって、どうにもなりません」
「それは、そうだけど・・・・!」
ローラをなだめて歩き出すセリーヌ。
「それより、気付いてますか。さっきより、風が強くなっているのに」
「え?そうなの?」
「そして、風の方向も一定です。おそらく、風に向かって歩いていけば、風を発している物に辿りつけるでしょう」
そう言って、進行方向を指差すセリーヌ。どこに向かって歩いているのかと思えば、風に向かって歩いていたのだった。
「ホント!?」
「あくまで、推測なのですが・・・風に少しだけ魔力を感じますから、その可能性は高いと思います」
「風に魔力?言われてみれば・・・。って事は、この風、ニードル・スクリームやヴォーテックスと同じって事?」
「そう思います」
「そ・・・そんな事、あるわけないじゃない!これだけの風を魔法で発生させるなんて・・・」
「多分、魔法陣やアイテムなどで、ある程度補っているのでしょう」
「そうだとしても、物凄い魔力って言う事に・・・!!」
「もう遅いです。乗りかかった舟ですよ」
「・・・・・・・・」
確かに、この風を何とかしなければ、自分一人では歩く事もままならない。大体、街はどっちの方角なのかすら、分からないのだ。ここはもう、セリーヌに任せるしかない。
「・・どんどん・・・風と・・・魔力が・・・強くなっていきますね・・・」
「・・・・・・・・」
それから、しばらく歩き続けた。

30分くらい歩いた。
もうそろそろ風に向かって歩くのは無理なぐらい、風が強くなってきた時、ようやく、終わりが見えた。
「なん・・・・でしょう・・・?・・・あれ・・・は・・・?」
「・・・さあ・・・ね・・」
それは、光の壁だった。そして、その中心に何かがいる。
で、セリーヌがその壁をこえると――――。
「あら、風が・・・」
「やんだわ!!」
素早く、セリーヌは紐を解いてローラと別れる。糸電話も捨てた。
「ようこそ」
そしたら、いきなり後ろから声をかけられる。すぐに振り向くと、そこには長い髪のモンスターがいた。
「あなた、誰?」
「封印されていた、モンスター、とでも言っておきましょうか」
「あなたがこの風を、発生させてるんですか?」
「そうですよ」
「止めなさいよっ!」
「私を封印しなければ無理だね」
「じゃあ、封印してあげるわ」
「そうですか・・・では、帰ってもらいましょうか・・・」
謎のモンスターの目が妖しく光る。次の瞬間。
「キャア!!」
ローラの服の一部が切り裂かれた。
「・・・カマイタチですか・・・」
セリーヌはローラの心配より攻撃の方法の方が気になるようだ。
「ふーん、見ただけで分かるんだ。青い髪の君の方が骨がありそうだね。封印とかれたばかりで体なまってるんだ。準備運動の相手になってもらうよ。嫌でもね・・・」
「誰であろうと、暴力をふるう人は許しません。かかってくるなら、容赦しませんよ」
ローラのところに行って、やられた部分を見るが何ともなかった。ローラはちょっと怯えている、しかし、セリーーヌは怒っているようだ。
「ま、せいぜい頑張ってね」
挑発的な言葉を発するモンスター、そして、こっちに向かってくる。
「シ、シルフィード・フェザー」
ローラがセリーヌに魔法をかけた。ローラもただ黙って見ているわけではなさそうだ。
「ローラさん・・・」
なんだか、嬉しそうな眼でローラを見つめるセリーヌ。そして、ローラが、
「セリーヌさん、あたしはとりあえず魔法で援助するからあいつをやっつけて!!」
「はい、わかりました!」
元気よく返事をして、セリーヌはモンスターに突っ込む。
「二人で、頑張った所で結果は一緒だよ」
モンスターが風の魔法を使って攻撃した。
「むっ!」
セリーヌは何とかよける。だが、その隙にモンスターが、
「先制攻撃」
いつの間にかセリーヌの場所に近づき、腹部に一撃。
「ぐっ!?」
セリーヌはまともに食らってしまったので、右足の膝が地に付いた。
「ヴォーテックス!!」
その瞬間、ローラがモンスターに魔法をかけた。
「むっ?」
ヒット、モンスターの頭に直撃した。
「今よっ、セリーヌさん!」
「はい!」
そして、セリーヌが起き上がってモンスターを直接殴る。
しかし、二、三発殴った所で、両手首をつかまれた。
「風を使う私に、ヴォーテックスがつうじるわけないだろう」
「ウソッ!」
かなり驚くローラだが、それ所ではない。
「は、離してください・・・」
「なかなかの、コンビネーションとパワーだ。そして、かなりの筋力だね、君は」
セリーヌを褒めているが、そのセリーヌはモンスターから逃げれないでいる。
「セリーヌさん!」
ローラが、魔法を使おうとした。だが・・・。
「おおっと、魔法を使ったらこの子に当たるよ」
モンスターはセリーヌを盾にしている。
ローラから見たら、モンスターがセリーヌの手首をつかみ、腕を広げて自分の前に立たせている。
これでは、確かに魔法を使えばセリーヌに当たるだろう。
「くっ・・卑怯よっ!」
「何言ってんの、それを言うなら、私達、二体一じゃないか」
「う・・・」
「ま、二体一だからこそ、こういう状況になっているんだけどね」
「セリーヌさん!何とか自分でふりきれない?」
モンスターの言葉を無視して、ローラはセリーヌに尋ねてみる。
「あー、無理無理。私の方が力は強いよ」
「がん・・ばっては・・・いるんですが・・・・」
セリーヌは一生懸命、腕に力を入れているがやはりモンスターの方が力は強いみたいだ。
「どうするの?このままじゃ、私の勝ちだよ。この子に当たるかもしれないけど魔法で攻撃した方がいいんじゃないの?」
「そんなこと出来るわけないでしょ!!」
怒って答えるローラだが、顔には少し迷いが見える。
おそらくセリーヌなら、「魔法をうっていい?」と聞いたら、「いいですよ」と、言うだろう。
しかし、ローラにはモンスターに100%当てるだけの技術はない。もし、セリーヌに当たったら・・・。
そして、そんなローラを見てモンスターはつまらなさそうな顔して言った。
「・・・・そう、じゃ、もういいや。せいぜいカマイタチに切り刻まれてくれ」
「えっ?」
次の瞬間。
「きゃあっ!」
「ローラさん!!」
さっきの様なカマイタチがローラを襲う。大きさはたいしたことないが、数がかなり沢山ある。
そして、どんどんローラの体に切り傷が刻まれていく。服も少しずつ赤くなっていく。髪も少しずつ切られていく。当然リボンも。
「は、離してください!!」
セリーヌが強い口調で言う。さっきとは違い、言葉に怒りがこもっている。そして、手に入れる力も強くなる。
「おっと、大丈夫、大丈夫。殺したりしないからさ。でも、一応それなりに怪我はしてもらうけどね」
「うう・・・ホーリー・ライト」
ローラは回復魔法を唱えるが、このままではMPが尽きるのも時間の問題だろう。
「あと、5、6分もたてばMPも尽きてダウンするだろうけど、気絶するような傷でもないからね。それからしばらくしたら、切るのやめてあげるから」
そう言い終わった時には、ローラはすでに三回目のホーリー・ライトを唱えていた。
そして、セリーヌが、
「・・・アイスクル・スピア!!」
「何っ!?」
超至近距離で、アイシクル・スピアを放った。モンスターに直撃。一瞬、カマイタチが弱まる。
「ローラさん!!」
アイ・コンタクト、ローラにはセリーヌが考えている事が分かった。躊躇している暇はない。
「ヴァニシング・ノヴァ!!!」
その瞬間、ローラがヴァニシング・ノヴァを唱えた。これで、ローラのMPは尽きた。
セリーヌもろとも、モンスターに食らわせられた。だが、モンスターはやられたのか、セリーヌは無事なのか・・・。
とりあえず、カマイタチはおさまった。しかし、確認しにいかねばならない。
「この方法だけは、したくなかったのに・・・」
そう呟いてから、切り傷だらけの体で見に行く。体は魔法である程度治っているが、服はボロボロだった。
そして、ゆっくり近づいて行く。
「ヴヴアアッ!!」
「きゃあああああ!!!!」
モンスターがいきなり起き上がって、思いっきり驚くローラ。
「クッ・・・フ覚ヲトッタカ・・・シカシ、タカガコノ程ドノ魔ホウデ・・・・」
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・・・・。
ローラは焦っていた。もう、MPは尽きたし、セリーヌは自分の魔法によってダウンしたままだし・・・。
「ユルサナイゾ・・・キ様」
「いやあああああ!!!!」
モンスターも、魔法によってだいぶ食らったみたいだが、それでも今の自分よりかは強い。
やられる・・・・!!
「死ネ・・・・!!!」
「きゃああああっ!!!!」
ローラは怖くなって目をつぶった。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
だが、モンスターの攻撃がこない。
恐る恐る目を開けてみると・・・・。
「あなた、結構しぶといですね」
目の前にセリーヌが立っていた。そしてモンスターは横に倒れていた。
おそらく、セリーヌが横から思いっきり殴ったのであろう。
「セ、セリーヌさん!!」
「ローラさん、大丈夫ですか」
「セリーヌさんこそ・・・」
「私は何とか、平気でした。危なかったですね」
そんな事を話していたら、後ろからモンスターが。
「セリーヌさん、後ろ!!」
「モウ遅イ!!」
その瞬間。
「うわあああああああああッス〜〜〜〜〜」
ゴン
空から降って来たテディが、モンスターの頭に直撃した。
「グゥウッ!?」
「うう!!」
そして、その隙に、
「メテオライト・スマッシュ」
セリーヌが覚醒能力を繰り出す。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
「やった!?」
「ソンナ馬鹿ナ・・・・私ガ、私ガ・・・・」
モンスターはもう瀕死の状態だった。そんなモンスターを見てセリーヌは、
「多分、封印されて力も弱まったんじゃないでしょうか?」
「ナニ・・・・?」
「だから、私達が勝ったんですよ。まあ、あなたが私達を甘く見ていたと言うのもありますが」
「・・・・・・・」
「どうしました?」
モンスターの様子がおかしい。
「コウナッタラ、貴様マラモ道連レニシテヤルッ!!!!」
「セリーヌさん!!」
「デッドリー・ウェッジ」
「ガ・・・・・・・」
セリーヌの一撃がモンスターを貫く。結果、それが止めの一撃となった。
「凄い・・・・」
ローラがそう言った後、光の壁もなくなり、風もやんだ。
「終わりましたね・・・・」
すっかり雲が晴れて青くなった空を見上げてセリーヌが言った。その言葉には少し悲しみがこもっていた。
「ええ・・・」
ローラは、物凄く疲れた顔をしていた。
もう、すっかり太陽は南の方に昇っていた。そして、日光がさんさんと降りそそいでいた。

二人が感傷にひたっている時に、忘れ去れていた生き物が言った。
「うう、まだ痛いッス・・・」
頭をなでながら、そう言うテディ。さっきまで、頭を打ったショックでしばらく意識が飛んでいたらしい。
だが、二人はまだボーっとしている。
何となく話し掛けづらい。
何故なら、ローラは服がスパスパ切れていて、切れている所は血が付いているし、セリーヌは手首に手形がついていて、右手は、いや、右腕は血だらけだし・・・・・・。
しばらく、そんな状態のまま、時間が過ぎた。
そして、ようやくテディが口を開いた。
「あの〜、何があったッスか?」
すぐには、二人とも答えない。少しの間の後、ローラが、
「あれ・・・・何で、テディがここにいるの・・・?」
「・・・ローラさん・・・」
少し呆れてテディが答える。
「さっきから、ここにいたッスよ」
「そう・・・・・」
「そう・・・じゃないッス。そこらじゅう怪我してるじゃないッスか」
「えっ・・・ああ、これね。たいしたことないわ」
「ホントッスか?」
試しにテディが適当な所を触ってみる。
「痛っ!痛いでしょ!!」
ベシッ
「あうっ」
ローラの平手張りがテディに直撃。
「う・・?い、痛い、痛い痛い痛あいっ!!」
急に、傷の痛みにわめきだすローラ。
「やっぱり、痛いんじゃないッスか」
どうやら、これでローラは正気に戻ったようだ。
「よくわかんないけど、ほっといて良さそうッス。でも、これじゃ、話を聞く事なんてできないッスね・・・」
ジタバタ痛がってるローラを眺めて、冷静に観察するテディ。
と、言うわけで、
「セリーヌさん」
「・・・・・・・・」
返事をしない。
さっきから、何の反応も見せずにただ空を見上げている。ボーっと空を見上げている・・・。
「セリーヌさん?」
「・・・・・・・・」
やはり、反応しない。
「セリーヌさん!」
「・・・・・・・・」
無反応。
「何だか・・・馬鹿馬鹿しくなって来たッス・・・・」
「・・・・・・・・」
テディは独り言を言って、うつむいた。
「ローラさん」
「う・・・何よ・・」
どうやら、まだ傷が痛いらしい。顔がそう言っている。
「僕、もう帰るッス。だから、セリーヌさん任せるッス。それじゃ」
そして、テディが振り返って歩き出した。
「待ちなさい」
「えっ」
いつの間にか、ローラがテディの尻尾をつかんでいる。
「あたし達は帰り道がわかんないのよ。ちょうどいいわ。道案内になってもらいましょうか」
「ロ、ローラさん、怖いッス・・・」
「ところで、テディ、なんで空から降ってきたの?」
「僕は風に吹き飛ばされて、どんどん上昇していったッス。そしたら、ある程度上昇したら反対方向に吹いている風に吹かれて逆方向に吹き飛ばされて、ここまできたら、ここは風が吹いていないッスからそのまま落っこちてきたッス」
つまり、初めはモンスターの風に吹き飛ばされていたが、ある程度の高さまでいったため、もともと吹いている風に飛ばされたと言う事であろう。
「ふーん・・・じゃあ、何で帰り道を知ってるの?」
「飛ばされている間、暇だったッスから、地上を眺めていたッス。だから、道を覚えているッス」
「そう、じゃ、帰るわよ」
「歩けるッスか?」
「歩けなくても、歩かなきゃ帰れないでしょ!」
「怒らないで欲しいッス・・・・」
「全く・・・ほら、セリーヌさんを連れてきて」
「わかったッス・・・・」
この後、結局テディだけではセリーヌを正気に戻せず、ローラも手伝ってなんとかセリーヌを正気にさせて、歩き始めた。
セリーヌは重い靴ながらも平気で歩き、途中、ローラがバテたら背負ってあげたりして、なんとか、3,4時間して、ようやくエンフィールドについた。
「や、やっとついた・・・・」
セリーヌの背中で、ローラが言う。
「長かったッス」
「もう、お昼過ぎてますね。果物も取れませんでしたし」
そういえばそうだった。しかし、どこかにかごを忘れてきていた。
「セリーヌさん、とりあえず病院に行きましょう・・・・」
あきらかに、顔色が悪いローラが提案した。
「分かりました」
「ローラさん、大丈夫ッスか?」
「ちょっと、やばいかも・・・・意識が遠ざかる・・・・・」
どうやら、貧血になりかけているようだった。そんなローラを見て大急ぎで病院に行き、クラウド医院についてディアーナがローラを見て卒倒。
そして、トーヤが出てきて、大急ぎで治療を始めた。
どうみても、出血が多いみたいなので止血より先に輸血しようとしたら、血管が目茶目茶に切れているので大急ぎで応急処置の手術を施し、輸血。
それから、止血にうつったら、顔以外はもう細かい傷が満遍なくある。ある程度、血は止まっているが。
まず、服を全部脱がし、消毒した後、とにかくガーゼを当て、包帯を巻いて・・・を繰り返した。中には、縫わなきゃいけないような傷もあったが縫うのは後にした。
それから、一応セリーヌも診断してみると、両手首の骨にヒビ、指も何本か骨折。足も診てみたら、靴のせいで疲労骨折を起こしかけていた。
おまけに、モンスターに食らった一撃のせいで、内臓も悪くなっていた。
速入院決定。
それから、ローラの様子を見に戻ってみると、何だか様子がおかしい。調べた結果、傷口から何かに感染したようだった。
どうも、破傷風菌らしい。まあ、傷だらけであれだけ森の中に入ればかからない方が不思議である。
とても疲れていたし、殺菌もしてないし、止血もろくにしていないのだから。
当然、速入院。しかも、面会謝絶。
テディは、何ともなかったので、ジョートショップに帰った。頭は平気だったらしい。
しかし、アリサさんにとっても心配かけたせいで、その後アルベルトにいじめられたらしいが。

で、その後、一週間してから、ローラたちにお見舞いが来た。
「ほんの少しだぞ」
「わかってるよ」
そして、トーヤがドアを開けた。
「よう、見舞いにきたぞー」
「お兄ちゃん!!」
「わざわざ、すみません」
「はは、礼言えるくらいなら大丈夫みたいだな」
そう言って、椅子に座る。
「わたしはもう大丈夫ですよ。それより、ローラさんの方を」
セリーヌは体を起こしているが、ローラはまだ寝たままだった。
「そんな、あたしも大丈夫だって」
「セリーヌがああ言っているんだから、大人しく甘えていろ。それにしても、思ったより元気で安心したよ」
「そう?これでも、大変だったんだから」
「みたいだな、テディから少しだけ話は聞いたが・・・」
「うん、それより・・・」
「髪型か?似合ってるよ。かなり雰囲気が変わったけど、可愛いよ」
ローラはモンスターのせいで髪も無茶苦茶になってしまったので、思い切ってショートカットにしたのだった。
「やだ、もう、お兄ちゃんたら!」
ローラの顔が少し赤くなった。
「ホントだって」
「お世辞でも、嬉しいな」
「全く・・・」
「惚気ちゃいますねえ」
トーヤがため息と共に呟く。セリーヌは冷やかすように言うが、もはや聞こえていないらしい
しばらく、いろいろ話した後、トーヤが言う。
「時間だ」
「もう?」
「そうだ」
「じゃ、仕方ないな」
「えー、もうちょっと良いでしょ」
「駄目だ」
トーヤはすでにドアを開けている。
「また来るからさ」
「また、来てよ」
「ああ、と、その前に」
「何?」
チュッ
「お、お、お、お兄ちゃん!!!??」
「ははは、元気になれよ」
そう言って、出て行った。
「何したんだ?」
「かなり、無理していたみたいだったから、元気が出ること」
「何なんだ」
ローラは、すっかり顔を真っ赤にしていた。
「あれ、どうしました、ローラさん」
「な、何でもないから」
「そうですか、ところで」
「何?」
「あの人、封印を解かれたといってましたが、何で解けたんでしょう?」
「さあ、勝手に解けたか、誰かが解いたか・・・・」
「何で解かれたんでしょうか・・・」
「ま、そればっかりは分からないわね」
「そうですか・・・」
二人がそんな会話している頃、マーシャルは、未だに修行していた所からエンフィールドに辿りつけないでいた。
すでに、二週間はたっていた。
何故、未だに帰ってこれないかと言うと、風で思いっきり吹き飛ばされあまりに遠い所に行ってしまったからだった。
そして、二、三ヶ月した頃、死に掛けになってようやく帰ってきたが、一体どこに行っていたかと理由を問われて、最終的にマーシャルが原因であの風騒動がおこったことがわかり、さらに追い討ちをかけるように酷い目にあったらしい。
合掌。


――――アトガキ―――

Q:また、天気ネタですか?
A:ええ、ネタがなくならない限り書きます。大体、浅桐さんも2話書いているじゃないですか。
Q:今までとは全然違いますね。
A:単純に戦いを混ぜたかったんです。
Q:その結果がこれですか?
A:はい、結構いい感じになりました。
Q:最後の方はほとんど会話ばかりですね。
A:だって、実際にそうなんですから。多分。・・・・入れても良かったんですけど、入れない方が良いですよね?。
Q:長いですね。前後編にした方が良くないですか?
A:いや、天気シリーズはどんなに長くても一話で行きます。
Q:「パティの災難」から、少し間が空いたように思うのですが。
A:少し空きましたね。でも、それぐらいのペースでいいと思ってます。
Q:どのくらいかかったのですか?
A:ちゃんと日にちを数えているわけではないので、正確ではありませんが、約2〜3週間です。
Q:セリーヌ達のMP、多くないですか?
A:それはSSですから、と言う事で。
Q:モンスターに名前をつけなかったの何故ですか?
A:いい名前が思いつかなかったからです。
Q:主人公も?
A:そうです。誰か、名前つけてくれませんかね?
Q:ということは、もし誰か名前を送ってきてくれたら、天気シリーズの主人公の名前が決まると。
A:そうです。天気シリーズは一度つけたらそれで通します。僕の場合。
Q:くるといいですね。
A:ええ。
Q:ところで、主人公の名前はリレーで出した名前を使えば良いのでは?
A:あれは、あんまり・・・。
Q:では、天気シリーズは続くんですか?
A:さっきも言いましたがネタがなくならない限り、書きたいと思っていますので。続かせます。
Q:次に書くのは?
A:「ルシードの〜」の後編です。
Q:書けるんですか?もう、書かないんじゃないかと思っていましたが。
A:いや、書きます。頑張ります。
Q:内容については、聞きませんから。その後に何かSSの予定はありますか?
A:それが終わったら、「パティの〜」の続きのような「アルベルトの○○」を書くと思います。
Q:タイトル未定ですか?
A:はい、流石にこれは自分で考えたいですが、何か思いついた人はメールを。
Q:天気シリーズは自問自答なんですね。
A:はい、浅桐さんの真似です。やってみると結構空しいですが、言いたい事言えるんですよね。次のSSの事とか。
Q:そうなんですか?
A:ええ、誰か呼んでくるよりは言いやすいです。
Q:それでは、他に言いたい事は?
A:もうないです。それに長くなってきましたので、ここで終わりましょうか。
Q:わかりました。
A:それでは。わたしはこれで。
7月2日。晴れ。

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