その日、ルシードの周りではおかしなことばかり起こっていた。それは朝・・いや、真夜中に始まった。
・・コンコン・・
ルシードが眠っていると、窓を叩く音が聞こえた。
しかし、部屋の主であるルシードはぐっすり眠っていて、まったく気づいていない。
当然である。今は午前3時、起きている人間の方が少ない。そんな時間に窓を少し叩かれた位では面倒なことが嫌いなルシードは起きるはずがない。
・・トントン・・
先ほどよりも、音が大きい。
だが、それでも起きる気配はない。
・・ガンガン・・
・・ドンドン・・
放っておくと窓を割りそうな勢いで叩き始めた。
実は最初っから目は覚めていたルシードは、いいかげんにうんざりしていた。
しかし、いくら夏場だからといっても、こんな時間に布団から出るのはやはり寒い。
結局、ルシードは無視を続けた。
・・ペキペキ・・
いい加減に起きないとやばそうな音すら聞こえてきた。
・・ゴーン・・
今度は鐘つきでもしているような音まで聞こえてきた。
さすがにルシードは起きて文句の一つでも言おうと思ったらしく・・。
前言撤回、本気で起こったらしく、愛用の武器を片手に窓へ向かう。
「誰だ!こんな夜中に人の睡眠を邪魔してるのは!!」
窓を開け、そう怒鳴ったが、そこには誰もいなかった。
「あ〜、ミーティングを始めたいんだが・・」
夜中に起こされたためか、額に血管すら浮かび上がらせて、ルシードは何時ものようにミーティングを始めた。
決して真面目にやっているとは思えないいつもの調子で(つまり人の話を聞いていない)ミーティングを済ませると、メルフィが声をかけてきた。
「ルシードさん・・」
ルシードは言い終わる前に逃げようとする。
こういった場合、ろくな目にあわないからだ。
「・・どうして逃げるんですか?」
あっさりと回り込んだメルフィはルシードにいつもの調子でいった。
「ルシードさん宛に荷物が届いていますよ」
ルシードはそれを聞いて安心する。どうやら先日の始末書の話などではなかったようだ。
「ああ、わかった。どこにあるんだ?」
「事務所に始末書と一緒に置いてあります」
「・・書かないと駄目か?」
一応聞いてみる。無駄だとは・・。
「当然です」
・・わかってはいたが。
それから始末書を30枚ほど仕上げ、やっと荷物を開けることができた。すでに昼の休憩時間である。
ルシードはその荷物を部屋まで持っていき開けた。
「・・・・」
とりあえず、再び箱を閉じると深呼吸をしてもう一度開ける。
・・しかし、当然だが、中身は先ほどと同じだった。
「・・新手の嫌がらせか?」
見事に箱一杯に詰められたゴミの山がルシードの目にうつっていた。
箱はもう一つあった。ささやかな期待と、圧倒的な絶望感を持って、その箱を開けた。
「・・・・」
先ほどと同じように箱を閉じる。
今度は箱を再び開けることなく、そのまま箱を抱え、裏庭に向かう。もちろん処分するためだ。
「あれ?ルシードも体操しにきたの?」
そこにはビセットとルーティがいた。二人揃って、奇妙な踊りを踊っている。
二人の横には”完全版 究極のラジオ体操 極め技”とでかでかと書かれた雑誌が転がっている。
「またわけのわからんものを・・」
思わず口に出していってしまう。
「すっげーんだぜ、この通りにやれば誰からも恐れられる力が身につくって・・」
「そりゃ、誰でもそんな奇妙な踊り見れば恐れるだろうけどな・・」
放っておいても明日になれば飽きてほかのことをやるだろうが見てて本当に恐いので止めることにした。
「それより、もう休憩は終わるだろ。さっさとダッシュでもしてこい」
「そういうルシードは何してんのさ?」
「見ての通り、ゴミ処理だ」
そうはいうものの現在ルシードが抱えているのは、どう見ても先ほど届いた荷物だ。すぐに捨てるということはなにかあると思ったのだろう。ビセットの好奇心に火が付いた。
「な〜、その箱見せてくれないか?」
「・・見たけりゃ勝手にしろ」
そういうとルシードは箱を渡す。
すぐにその箱を開いて・・やはり閉じた。
「ルシード、こんな幼稚なことして楽しいか?」
ビセットが冷めた口調で言う。
「なになに、あたしにも見せて」
そういいながらルーティも箱を覗く。
「・・ねえ、ルシード。こんなこと今時子供だってしないよ」
ビセットと同じく冷めた口調で言う。
「別に俺が書いたわけじゃねえよ」
再び箱を覗き、そこに書いてある字を確認する。
”馬鹿が見る”
たったそれだけのことだが、十分にムカツク。
「・・お前等じゃないとすると誰がやったんだ?」
「うわ、ルシードってばあたし達を疑ってたの?」
「ひっどいよな〜、いくら俺達でもそんな古典的なことしないよ」
「・・いや、なんとなくそれはわかってたけどな」
そういいながら箱とその中のゴミを消却炉に詰め込むと、ルシードはその場から去っていった。眠いからだ。
「ふはははは・・久しぶりだな」
その声は聞き覚えのある・・だが、あまり関わりたくない奴の声だった。
「ああ、師匠!」
ビセットが叫ぶ。
そう、ビセットの(なんだかよくわからないが)師匠であり、ティセの(自称)兄、その人だった。
「・・今日は機嫌が悪いんだがな・・」
寝不足のルシードは本気で殺意すら抱いていた。
「安心しろ、今日は真夜中からずっと恩を返しにきていただけだ」
「・・真夜中・・から?」
ルシードはなんとなく・・この後の言動が予想できたが・・一応、礼儀として、聞き返す。
「うむ、我々ヘザーはどうも人間とは違う価値観らしいのでな。我々が嫌がることは人間にとって喜びであると思ったので、手始めに真夜中に叩き起こしたのだ」
「・・ほう・・」
ルシードの手にはグルカナイフが握られている。
「そして、いらない物は人間にとって必要な物であると確信したところで、我々にとってゴミと同等の物を我々がやられたら嫌な悪戯も施したのだ」
「・・なるほど・・で、何の恩返しなんだ?」
ルシードはさり気なく始末書を用意した。先ほど、どうせまた書くのなら・・と思い、日付と細かい報告以外はすでに記入を済ませた物だ。それをビセットに渡しておく。
「先日ハンターから匿ってもらった礼だ」
「・・そうか・・」
「どうだ、嬉しいか?どうも人間の感覚はわからんので、苦労したんだが・・」
ルシードは自分でも信じられないほど冷静にティセ兄の動きを観察していた。すでに頭の中ではティセ兄がどう動いても確実にしとめるシミュレーションは完成している。
「・・そうか、それでか・・」
「うむ、わかって貰えたか。では、今日のところは・・」
「・・まあ待て、俺からもお礼がしたいからな・・」
「・・ルシード・・恐い・・」
ルーティが言う。先ほどの体操よりすごい効果がある。
「そうか・・だが、礼には及ばん。当然のことをしたまでだからな」
ティセ兄は、そんなルシードに気づいていないのか、そのまま後ろを向いて去ろうとする。
「・・いや、受け取ってくれ。俺からの最大の贈物だ」
そういいながらルシードは呪文を唱え始める。
「そうか、そこまで言われては受け取らないわけに・・」
その言葉が終わる前に・・。
「食らいやがれ!!フラッド!!!」
大量の水が現れ、水が一気にティセ兄を飲み込んだ。
「・・ルシード。はい、始末書・・」
ビセットがおそるおそる始末書を渡す。
「・・いくら何でもやりすぎたか・・?」
「・・うん、いくら何でもねえ・・」
「見えなくなる位、遠くまで流されてるみたいだし・・」
この後、ルシードは人為的に洪水を起こしたため、始末書を一生忘れることはないと思えるほど書いたという。
で、ティセ兄はというと・・。
「うーむ、やはり人間の考えはわからん」
親子灯台(親)の頂上に打ち上げられ、そう呟いたという。
早っ
100分以内に書き終わった・・
その分出てきているキャラ少ないですが・・
うーん、このままシリーズ化するのだろうか・・
・・すでにしてるような気もするけど・・」
2月27日 2:26 ささやかに書き始め
同日 3:29 何気なく中断
同日 4:40 さり気なくまた書く
同日 5:11 早々と書き終わる、忘れる暇もなかった