7月10日、その日ブルーフェザーは色々あった。そのことはこの物語においては伏線でしかない。
「今日こそは勝つぞ、目つきの悪いの!!」
そのセリフと共に一人の男が事務所に入ってきた。
ピンク色の髪の男、彼はヘザーという危険な種族・・のはずだった。
「・・って、おい。なにか反応しろよ」
男は思わず扉を開けたまま固まった。
なぜか皆がこちらを見て固まっていたからだ。
「・・ヘザー・・外にもいたのか」
そういった男はなぜか片目を閉じていた。ブルーフェザーのメンバーではないようだ。なぜか怪我をしている。
「いかにも、俺はヘザーだ」
無意味に胸を張って答える。ブルーフェザーのメンバーが頭を抱えたように見えたが気にしないことにした。
「そうか、こっちはヘザー専門のハンターだ」
片目の男は剣を抜きながらいった。多少動きが鈍いようだが、それはおそらく怪我のせいだろう。だが、それでも片目の男の剣はまっすぐに男を捕らえていた。
「・・・・ハンター?」
ブルーフェザーのメンバーに確認のため聞く。
揃って無言でうなずく。
「この勝負はまた次に会う時まで預けておくぞ、目つきの悪いの!!」
そういうと、ピンクの髪の男は事務所から去った。
「逃がさんぞ!!」
そういうと、ハンター”ワンアイ”はヘザーである男を追って、事務所から出ていった。
「・・ま、ワンアイは怪我してるから、心配いらないだろ・・」
ルシードは人事のようにそう呟いた。
それから数日の間、ティセの兄であるヘザーの男は、何度もブルーフェザーの事務所の前まで来ては、ワンアイのせいで何もできずに逃げ回ることを繰り返していた。
「・・あんな奴でも知り合いが殺されるかも知れないってのはやっぱり気持ちがいいもんじゃねえしな」
「それよりも、ワンアイさんが何度もヘザーが来てないか質問にくる方が問題です」
朝のミーティングで話し合われたことがこれだった。
あれから何度も近づいてこようとしているのか、ティセ兄とワンアイの鬼ごっこは毎日ブルーフェザー事務所の前で行われていた。
しかも、夜であろうと昼であろうと行われているため、ワンアイの質問攻めによってメルフィの仕事ははかどらず、さらに安眠妨害などの被害をうけていたのだ。
自己中心的なブルーフェザーの一同としては早急な解決を自分達で行うことにした。
「とりあえずさ、ルシードと勝負したらいつものように帰るんじゃないかな」
これはルーティの意見である。
「この状況でどうやって俺があいつと勝負するんだ?」
今ワンアイは事務所を見張れる位置に宿をとっている。ルシードが出ていけば、ティセ兄はそれを追うだろうが、そのことに気がついているのか、ワンアイはルシードを主につけてくる。それで本当にティセ兄も出てくるのだからどうしようもない。
こちらから連絡する手段は今のところない。つまり、実現不可能なのだ。
「じゃあさ、ティセのお兄さんを呼ぶってのは?」
「ここにか?呼んでもこれないだろ」
ビセットの意見にすぐ反論する。それができれば苦労はしない。
「招待してくれるとはありがたい」
その声はどこからともなく聞こえた。
どうやら苦労はしなくてもよさそうだ。
「・・この声・・」
「ティセのお兄さんの声だよね・・」
「間違いなくあの人の声だ、さすが俺の認めた人だ」
「・・そういう問題なの?」
ビセットの師匠を崇めるような反応に思わず突っ込みをいれるバーシア。呆れかえっている。
「期待に答えよう」
・・ぼこっ・・
声の主は唐突に床を破って出てきた。
「ばう」
「おわっ」
ぼてっ
そして声の主は所長に目の前で吠えられ、出てきた穴からまた落ちた。
「・・大丈夫か?」
「むう、なんとかな・・って、貴様の手は借りん!!」
助けるため手を貸そうとしたルシードの手をはらい、何とか穴から上半身だけを出した。
「あら、ホラー映画のゾンビみたいですね」
やたらとうれしそうにフローネが言った。土で汚れたティセ兄の姿はその表現通りゾンビのようだった。
「で、本人が来たわけだが・・」
「勝負して帰るにも、外でワンアイが見張っているようだな」
外を見ながらゼファーが言う。同様にルシードも見てみるが、どこにいるのかすらわからない。
「ばれてるのか?」
「いや、はっきりとはわからんが・・さすがにここで勝負をすれば、確実にばれるだろうな」
「・・だそうだが、どうする」
振り返ってティセ兄に意見を聞く。
「貴様が負けを認めるのなら勝負は・・」
「いますぐこいつをたたき伏せていいか?」
「ワンアイとも続けて勝負する気があるなら構わんが」
「・・さすがにそれはきついな・・」
「・・俺の意見は?」
ティセ兄が聞くが、無視。
一方、ほかのメンバーは・・
「ワンアイさんがティセちゃんのお兄さんを倒す理由がなくなればいいんですよね」
フローネがバーシアにいった。
「それができるようならやってると思うけどね」
バーシアがソファーでタバコをふかしながらいう。
「でもさ、別に悪いことしてないよね?」
ルーティがタバコの煙から離れながらいう。
「ってことは、それをあいつに教えられれば・・」
その言葉を聞いて全員がビセットの方を向く。
そしてルシード達を呼ぶと、仕事のことはすっかり忘れ、ティセ兄の人畜無害を証明しよう作戦の会議を始めた。
作戦会議が終わり、何も訓練をしないまま、夕食の買い出しに行く時間になった。買い出しに行くのはいつものようにティセだ。
だが、今日はその前にやるべきことがあった。
「おい、ワンアイ!いるんだろ!!」
ルシードが玄関から出て、大声で呼ぶ。
「・・ヘザーを差し出す気になったのか?」
すぐにワンアイは姿を現した。どうやら中にティセ兄がいることに気がついていたらしい。
「いや、ちょっと見てもらいたいものがあってな」
ルシードがそういって、少し時間が立つとティセが玄関から姿を現した。
そして、そのすぐ後にティセ兄も姿を現した。
もちろん、ワンアイは後を追おうとしたが、ルシードに止められる。
「なぜ止める、差し出す気になったんじゃないのか?」
「まあ見てろって・・」
ルシードに言われ、とりあえず後をつけるだけにした。
そして、ワンアイが見たものは・・いつものようにこけるティセだった。
「あれが見せたかったのか?」
「・・そろそろ先回りするか」
そういうとルシードはワンアイを無理やり引っ張って、市場の前まで連れてきた。
「ここで何をするつもりだ?まさか、逃がすためにこんなところに連れてきたんじゃないだろ・・」
そう言いかけたワンアイのすぐ横にはティセ兄がいた。
何やら修理用の道具を持って、道路の舗装をしているように見える。
「・・・・」
「あれが危険だと思うか?」
驚いたためか、無言でいるワンアイに問いかける。
「あれは何をしているんだ?」
心底不思議そうな顔をして、ワンアイが問う。
「あれか?ティセが転ばないように危なそうな場所に先回りをして修理してるんだろ」
「・・ヘザーがか?」
「まあ、兄妹らしいからな。害はないようだし、一度は表彰状を・・って、話も出たくらいだ」
「・・なんとなくわかった・・とりあえずあいつの処分はお前達に任せる」
「・・好きにしろってことか」
ワンアイは無言で頷いた。
そして、ワンアイの危険が去った後。
「次こそは本当に最後にして究極のヘザーの恐ろし・・」
「わかったから帰れ」
あきれながらも、ティセ兄のセリフを遮って、ルシードは言った。
あの後、結局また勝負して、いつものようにルシードが勝ったというわけだ。
ティセ兄はなにやらまだ何か言いたそうに口をパクパクさせていたが、そのまま振り返ると去っていった。
「ルシードさん・・」
その姿を見送ってから、メルフィが口を開く。
「何も言うな、メルフィ。今回も別に報告は・・」
「そうではなくて・・」
「じゃあ、なんなんだ?」
「ティセさんのお兄さんが開けた穴の修理代はルシードさんの給料から引いておきますから・・」
そういえば、ティセ兄が出てきた時に穴を開けていた。
「・・今度ワンアイが来たら突き出していいよな」
「それでも、一応あなたがティセさんの保護者ですから、ちゃんと給料から減らしておきますね」
「・・・・・・」
ルシードはただ空を見上げるしかなかった。
ふう、所長の出番があった・・ちょっとだけど
それだけで満足・・って、ティセ出てないような・・
それでもいいのか、このタイトルで・・ま、いいか
2月13日 2:48 ネタ浮かんだので書き始め
同日 3:49 中断し、睡眠。いつものように忘れそう
2月19日 5:31 軽く修正、また書き始める。もちろんそれまではすっかり忘れていた
同日 5:47 中断した、時記を付け忘れる
2月24日 4:20 忘れてたのを思いだし再開。それまで本気で忘れていた
同日 4:58 書き終わる・・が、眠くならないので困る