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天然兄妹(仮)

YS

 湾岸都市シープクレストーーこの街を二分する川、バードソングリバーにブルーフェザーの事務所があった。
「・・ここか、ヘザーのいる場所というのは・・」
 その事務所の前で男が独り言をいった。
「・・しかし、本当にここにいるのか?」
 男は疑り深い性格なのか、先ほどからずっとこの調子で中を覗いているだけである。
 しばらくそうしていると中から一人、男が出てきた。
「・・ったく、どうしてこの事務所は入り口が一つしかないんだ・・裏庭にすぐいけたら掃除当番の時こんなに苦労しないですむってのに・・」
 ブルーフェザーのリーダーのルシードである。
 大量のゴミと共に玄関のドアを蹴り開けると、ふらふらしながら、男からみて、左手の方に歩いていった。
「ご主人さま〜、ティセも手伝いますぅ」
 ルシードが出てきてすぐに飛び出してきたのはティセである。玄関のドアを開けてすぐに曲がると、ふらふら歩いていたルシードにぶつかった。
 そして、ルシードは大量のゴミに埋まった。
「ティセ、お前な〜」
「・・あうぅ、ごめんなさいですぅ」
 慣れているのかすぐにティセが謝る。
 それを見ていた男はなぜかコブシを震わせていた。

 翌日、日曜は魔法登録の日だった。ブルーフェザーの休日ともいえる。
 ティセとゼファーの二人は事務所で留守番である。
「・・ティセ、すまないがこのメモに書いてある物を買ってきてくれないか?」
「了解ですぅ」
 そんなやりとりのあと、ティセは一人で買い物に出かけた。目的地はアレーヌ市場、食料の買い出しのためだ。
「らんら、らんらら〜ん、おっかいっもの〜」
 いつものように自作の歌を歌いながら、ティセはぽてぽてと通りを歩いていく。
 その後ろから昨日の男がついてきているのだが、ティセは気づいていない。それどころか自分の足もとにすら気がついていない。
 ぼてっ
 豪快に、鈍い音をたて、ティセは見事に転んだ。
「あうぅ、いたいですぅ」
 起き上がったティセのひたいには見事な跡が残されていた。見ている方が痛々しく思えるほどだ。
「まったく何をしているんだ」
 男は誰にも聞こえないようにそう呟くと、姿を消した。
 その後、ティセは一度も転ばないでアレーヌ市場にたどり着いた。

「これくださいですぅ」
 ティセはアレーヌ市場につくと、食材を買った。
 それからメモに書かれていた物を買いにきたのだが・・
「お嬢ちゃん、こんな物何に使うんだい?」
「あうぅ〜、ティセにはわかりません」
 行く先々で似たようなことをやっていた。
 ティセが言われた物は”正しいワニとの闘い方”という本や”チェーンカッター”といった使用目的がわからない工具に始まり”鉄パイプも一刀両断万能包丁”などの無駄な物ばかりだったからだ。
 本当にゼファーは何に使うのだろうか・・。
「ところで後ろの人はお嬢ちゃんの知り合いかい?」
 最後の”全自動石磨き機”を買った時にそう言われたが、ティセが振り向いた時には誰もいなかった。

 その後は、何事もなくーーティセにすれば一年に一度あるかないかの回数こけた程度でーー事務所に帰りついた。

 そして、翌日。早朝ミーティング終了後。
「そう言えば、昨日道で小石拾いしてる男の人見かけたんだけど・・」
 ルーティが話を始めた。こうなると話が終わるまで待たないと、まともに訓練をしないことを知っているので、ルシードは怒鳴らないことにした。
 本人もあまり朝からきついことがしたくない、というのもあったが・・。
「あ、それ俺も見た。なんか野良犬を追い払ってたりもしてたみたいだったけど」
 今度はビセットだ。朝早いのに元気である。
「一体何だ?その男ってのは・・どこか怪しいとこでもあったのか?」
 やけに話題になっていたのでルシードが口をはさんだ。
「えっとね、なんだか後ろを気にしてて・・」
「そうそう、しかもピンク色の髪だったんだよ」
「あれってきれいだったよね〜」
「どうやって染めたんだろうな〜」
 と、ひどく関心している二人にルシードはいった。
「ピンク色の髪って・・そんなにきれいか?」
「う〜んとねえ、ティセのと同じ位かな?」
「そうそう、バンドとかやってる人かな」
「もしライブやってるなら、見てみたいよね」
「なんだか俺ファンになりそうだよ」
「まだ曲を聞いてもないのに?」
「いや、俺にはわかる。あの人の魂のビートが・・」
 などと話している二人を横目に見ながら、ルシードは考えた。
(ピンク色の髪・・ってことはヘザーか?でも、ヘザーが小石拾いなんてするのか?)
 凶悪だとか、普通の人間とは考え方が違うなどといわれている教科書通りのヘザーを思い浮かべ、ルシードは疑問符を浮かべた。
 だが、数秒後にはすっかり忘れ、ルーティとビセット共々メルフィの小言を聞くことになった。

 そして、昼の休憩時間にルシードはメルフィから手紙を渡された。直接届けられたのか切手は貼ってない。
「・・なんだこれ?」
「仕事の催促状ではありませんから安心してください」
「・・今朝のは俺の所為じゃないぞ」
 とりあえず、逃げるように(実際逃げたのだが)部屋に戻ると、手紙を見る。
 差出人は書いていない。宛名は目つきの悪い紫髪の男となっている。
「メルフィの奴これで俺宛って決めつけるか?」
 当たっているから仕方がない。
 とにかくルシードは手紙を開いた。

<目つきの悪い男へ>
 お前に決闘を申し込む。

「・・は?」
 思わずルシードは間抜けな声を出した。
 いきなり、こちらの名前も知らないと思われる相手に、決闘を申し込まれたのは始めてだ。続きを読む。

 場所は目の前。

 手紙に書かれていたのはそれだけだった。
「目・・の前ねえ・・」
 見てみるがもちろん誰もいない。
 自分の部屋に誰か居ればすぐわかるし、気配を読めないほど鈍くはない。ルシードは悪戯と判断して、手紙を無視し、訓練に戻った。

 さらに翌日の昼過ぎ、ルシードはゼファーに休憩を誘われ、裏庭に向かう途中でふらふらの人影を見つけた。
 髪の色がピンクであることから、昨日の朝ビセット達が話していた男だろう。
 男はルシードに向かってくると・・
 ばたっ
・・いきなり倒れた。

 そのままにしておくのはさすがに気がひけたので、二人で事務所に運び込むと、真っ先に反応したのはルーティとビセットだった。
「あ、この人だよ。小石拾いの人」
「うわ〜、また会えるなんて感激だなあ」
 倒れて動かない男を見て、二人は騒ぎたてる。
 ルーティは珍しいものを見るように指さしている
 ビセットに至ってはすでにファンになってしまっているようだ。熱い視線をおくっている。
「お前等な、手伝う気がないならそこどけ」
 そうやって騒いでいると男が目を覚ました。
「気がついたようだな」
 ゼファーが声をかける。
 だが、それを無視して男は・・
「そこの目つきの悪いの!勝負だ!!」
・・そういった。
「・・もしかして、昨日の手紙はお前か?」
 昨日無視した手紙を思いだし、ルシードは問いかける。
「そうだ、お蔭で眠っていない」
 とすると、手紙を出してからずっと玄関先でルシードを待っていたことになる。
 しかもその間、ずっと立っていたということだ。
「ルシード・・勝負って・・」
「ええ!?ルシードこの人に何かしたのか!?」
 すでに見知らぬ男の味方といった様子で二人がいった。
「しらねえよ、大体今始めて会ったんだし・・」
 本当に始めてである。・・証拠はないが・・。
「とにかく勝負してもらうぞ!!ティセをかけて!!!」
 その言葉で一瞬・・いや、かなりの時間食堂の時間が止まった。
「・・は?・・ティセ?」
 ルシードがそういった時にはすでに男は熟睡していた。

「で、どうするんの?ルシード」
「そうそう、よくわかんないけど勝負するのか?」
 ルーティとビセットのやかましい質問攻めにあうこと3時間、結局男が目を覚まさないのでその日は何事もなく終わった。

 そして、朝がきた。
「よく逃げなかったな」
「いや、ここで生活してるし・・」
 男に多少疲れながらも答える。
「それより、お前・・なんなんだ?ティセのことを知ってるみたいだったが・・」
「答える義理はない」
 ルシードの質問は無視された。
「もう質問はないな」
「いや、答えてもらってねえし・・」
「ではいくぞ」
 ルシードの言葉はやはり無視し、男はルシード目掛けて真っ直ぐに突っ込んできた。
 ルシードは一応、危険なので刃のついていないナイフを構える。
 男の方はそのまま突っ込んでいき・・ルシードの横を通り過ぎた。
「・・は?」
 そのまま道路に出た男の姿は見えなくなっていた。
「・・なんなんだ、一体!?」
 答える者のいない不思議な静寂が庭を支配した。
「秘技、不意打ち!!」
 その声が聞こえた方を見ると、先ほどの男が小石をルシード目掛け投げようとしているところだった。
 ひゅん
 飛んできた石はルシードに避けられ、関係ない方向へ飛んでいった。
「・・くっ、なぜばれた!?」
「・・今、自分で宣告しただろ・・」
 本気で不思議そうにいう男に、本気で疲れた口調でいうルシード。
「こうなったら不本意だが真っ向勝負だ!!」
「こっちは最初から不本意なんだが・・」
 そして、勝負は勝負と名のつくものでは負ける気がないルシードが手加減抜きで、圧勝した。

「で、結局なんだんだ、お前は・・」
 本気で相手をするのに疲れたルシードが問いかける。
 周りには興味本意のメンバーが集まっている。
「おれは・・ティセの兄だ」
 その言葉でまた時間が止まる。
「・・ティセの?」
「お兄さん?」
 そういわれてみれば、似ていな・・い。ハッキリいって、兄弟どころか親戚といっても通用しないだろう。
 同種族であるのは髪の色から判断できるが、年中ぽけぽけしたティセと比べると、無意味に張り詰めた様子の男は無関係だといった方が納得できる。
「昔からティセは種族の中ではとろくて、人を騙すことを知らなくて・・」
 誰も聞いていないのに話し始める。

 30分後。
「・・この街にヘザーがいることを知って、きっとティセだと思っていたらその通りで・・」
 やっと昔話が終わり、先日の行動に入ったらしい。
「・・感動の対面をしようと思っていたら、ティセはこの目つきの悪い男に懐いているではないか!!」
 どうやらここが一番いいたかったことらしい。かなり熱く語っている。
「そこでまずはティセがこの街でいじめられていないか調べつつ、ティセの障害となりそうなものを排除し・・」
「あ、それで小石拾いをしてティセが転ばない様にしてたんだ」
 ルーティが口をはさむ。
「うむ、危険だから犬を追い払っていたりもしたぞ」
「それって、すっげー過保護な気もするんだけど・・」
 今度はビセット。
「そして、調べたところ・・」
 振り向き、ルシードを指さす。
「この男以外の人間は皆ティセに親切にしていたことが判明した!」
 また少し熱をこめていう。
「ちょっと待て、俺がいつティセに不親切にした?」
 ルシードが抗議する。
「ティセが悪気なくぶつかった時に怒鳴っていたではないか」
 まったく間をおかずに言い返してきた。
「叱る位のことは誰だってするだろうが!!」
「あまつさえ、ご主人だというではないか。ティセと付き合う男ならばこの俺より強くなくては・・」
「あんた、さっき負けなかったか?」
 しばし沈黙。
「・・ってことは、ルシードはお兄さん公認のティセの恋人?」
 ルーティが一言いうのがティセの兄が口を開くより早かった。

「この次はこうはいかんぞ!ヘザーの恐怖たっぷりと見せてくれる!!」
「あ〜、はいはい」
 ルシードは投げやりな返事を返した。
 あの後、幾度となく挑戦されたのだが、すべてルシードが勝っていた。さすがに諦めたのか、帰ろうとしたティセの兄が残したセリフが先ほどのものだ。
 その後ろ姿が見えなくなったのを確認して、メルフィが口を開いた。
「ルシードさん、あのヘザーについて報告は・・」
「する必要もねえだろ。狙いは俺みたいだし、ティセの兄貴だけあってどっか抜けてるしな」
「いうと思いました」
「・・なんか、最近は物分かりがいいな」
「いっても無駄ですから」
「・・はっきりいったな」
 そういってため息を一つついた。
「そういえば、あいつの名前なんだった?」
「さあ?聞いてませんけど」
 とりあえず、去っていったティセ兄はその後、何度も事務所にきたという。


後書き

・・ティセ兄の話です
バーシア出てませんね・・
折角ティセが街に出かけたんだから
更紗とかリーゼ、シェールも出せばよかったか・・
ま、いいか
・・って、所長を忘れてたあぁ!!(かなり後悔)


相変わらずの時記

2月4日 22:35 なんとなく呪いをこめて(更新作業増えるし)誕生日プレゼントとして贈ろうと思い、書き始め
同日 23:04 ネットのため中断、すっかり忘れる
2月5日 1:16 なぜか思いだし再会・・じゃない再開
同日 3:05 明日がテストなので中断・・もう遅いが
同日 22:18 テストは忘れ、また書き始める
同日 22:55 本文完成、3分後に後書き完成

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