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リレー小説前奏・出会いの日

後編

タムタム

「なるほどね。これは中々…」
 目の前に佇む屋敷を見上げながらアーシィは呟いた。頼まれてから直ぐに出て来たのだが、完全に日は落ち空には月が出ている。とは言ってもまだ月は出たばかりだ。
 淡く輝く月明かりの下、その屋敷は奇妙な雰囲気に包まれていた。壁をびっちりと覆い尽くしている蔦。無数の草木が多い茂る庭。所々剥がれ掛けた瓦屋根。正面入り口に在るガーゴイルの石像。
 其れだけならまだ大した事ではない。見た目の雰囲気から、幽霊が出るという噂が流れただけとも取れるのだが…この屋敷からは噂を裏付けるだけの強力な霊気と魔力。そして僅かな邪気が感じられる。加えて数々の証言まであるのだ。断じて気のせいでは済まされないだろう。
 だが、その噂もまちまちで、曰く、『通りかかった時に窓から腕が伸びてきた』だの、『突然、石像が踊りだした』だの、『肝試しに入ったら、鎧が襲って来た』だの、挙句の果てには『午前零時にある言葉を唱えると、屋敷がお城になる』とまで言われているのだ。かなりうそ臭い証言も混ざっているが、彼の見た所幽霊屋敷である事は間違いない。
ここまで様々な噂が飛び交う屋敷だ、買い手も居なければ借り手すらも見つからない。しかも住人に不安を与えるだけの物となれば在るだけ邪魔と言うやつだ。
 本来の持ち主はすでに死亡、身内も居なかった為所有権は役所にある。早急に処分する必要があるのだが、魔術師組合に頼めば高すぎる。自警団では畑が違うし、公安も然り。教会に頼むも『手におえません』の一言で片付けられ、ふと思い付いたのがジョートショップだったらしい。
 成功報酬が“土地と屋敷の権利書”と言う、殆ど嫌がらせの様な依頼だが、人の良いアリサはそれを請けてしまったのだ。それが数日前の出来事。結果として、この街にはじめて来た筈のアーシィがここにこうしている訳だ。
(それにしても、いくら信頼の厚い何でも屋とは言え、なぜ、公的機関で手におえない様な仕事を民間人に回すんだ?)
 銃が落ちていなかったか聞きに言った先で、仕事を受けて来る奴の言う台詞じゃない様な気がするがそれはそれ。アリサに頼まれて断れる奴などこの世に居やしない。(断言)
「ん〜、そろそろ中に入ってみるかな・・・」
 周りを大雑把に調べていたアーシィはそう独り言を呟やくと、さして警戒もせずに屋敷の中へと足を踏み入れた。

 若干錆びて建てつけの悪くなった扉を開き、最初に目に付いたのが上の階から地下へと一続きになっている螺旋階段だった。そしてホール中央には来客用と思われる大きなテーブルとソファーが置かれている。
 そのままぐるりと見回してみると、独特の作風で有名な作家が書いたシュールな絵画、人間の右腕をモチーフにした石膏像、人の顔にも見える材質不明な壷、そして、螺旋階段を守る様に立っている二体の甲冑。その手にはそれぞれハルバートが握られている。こうして見ると、何と言うか…アーシィの趣味と似ていたりもする。中々に住み心地の良さそうな屋敷だ。
 と、その時、辺りの空気が変わった。何と無く張り詰められた様な、其れでいて奇妙な静けさを伴った感覚。どうやら問題の幽霊のお出ましの様だ。

「出て行け…」
 低く、おどろおどろしい声がホールに響く。気の弱い者なら、いや、多少気の強い者でも即座に逃げ出したくなるほどの“何か”が声には込められている。
「ん〜。そうも行かないんだよ。出て来て話し合わないかい?」
 にもかかわらず、アーシィは平気な顔をして何処へとも無く語りかける。かなりマイペースな奴である。まあ、冒険者をやっていたのだ、この程度で逃げ出していたら遺跡なんかには潜れない。
「出て行けと…言った筈だ!!」
 直接魂に響くほどの強い声が辺りに木霊する。それと同時に、螺旋階段の所に佇んでいた甲冑が動き出した。だが、あまり滑らかな動作とは言えない。これでは一般人に対する威嚇としてしか使えないだろう。
「落ち着きなよ。話し合おうじゃないか」
 緩慢な動作で歩み寄る甲冑を半ば無視して、見えない相手に語りかける。相手の目的はこちらを追い出すことで、殺す事ではない様だ。ちなみにこちらの目的も相手を滅ぼす事ではない。力ずくで物事を解決するのは彼の望む事じゃない。…相手にもよるが…。
「うるさい!でてけー!!!」
 今までの様な低い男の声ではない。高くも無く、低くも無い少女の声。恐らく、こちらが本来の声と喋り方なのだろう。などと、のんびり考えている場合ではない様だ。
 声と共に、何処からとも無くナイフやフォークや皿が飛んで来る。下手に当たれば致命傷。はっきり言って甲冑よりも厄介だ。
(ん〜。どの手段が有効的かな?)
 飛び交うナイフやフォーク、皿をかわしながら考える。叩き落せば済む事だが、あまり刺激する様な事はしたくない。それに、これはアリサから聞いた事だが、昔この屋敷に住んでいたのは優しい人達だったらしい。きっと理由があるのだろう。いや、もしかしたら其れこそが理由かも知れない。
「早く出て行ってよー」
 先ほどとは打って変わって沈んだ声。何だか今にも泣き出しそうである。それに合わせて、飛び交っていた物も力を失い床へと落ちて行く。
「塞ぎ込まないで話してごらん。そんなに悲しんでいたら可愛い顔が台無しだよ」
 何も無い空間に手をかざしながら優しく声をかける。見えてはいないがその存在を感じる事は出来る。そこに居る筈だ。
「何で出て行ってくれないのよー」
 非難の声をあげながら、空間から溶け出す様に少女が姿を現す。長く赤い髪を後頭部で一括りにし、ドレスの様な服を着た少女だ。年齢的にはアーシィより少し下、18位だろうか?とは言ってもアーシィ自身、自分の歳なんて知りはしない。判断基準としては少々不適切だ。
床に座り込み、ややうつむいていた少女だが、突然『キッ』と顔を上げアーシィを睨み付ける。燃える様な赤い瞳に見詰められ、胸が締め付けられる様な気がして来た。自分ではどうする事も出来無い相手を前にして、悔しくてどうしようも無いと言う感情が溢れ出ている。そして、自分の無力さを許せないという気持ちが、その眼差しには込められていた。
―何故…何かを…忘れてる気がする?何故…ここまで哀しくなる…?“何故、目の前の少女に自分の姿が重なる!?”―
 痛いくらいに額が疼く。少女の視線から逃れるかのように、右手で顔を覆い片膝を着きうなだれる。彼は気が付いていないが、額に十字架をかたどった紋章とその周りに12個の文字が浮かび上がっている。胸が痛くなり、不意に涙が出て来た。
 少女は床に座りながら、その様子を見ていた。目の前の青年は何故涙を流しているのだろうか?先程まではふてぶてしい位に堂々としていたにもかかわらず、今のその姿は捨てられた子犬の様に小さく見えた。
 男の人の涙を見たのは初めてで、何て声を掛けていいのか判らない。話し合いに来たと言っていたが、この状態では話し合う所では無いだろう。
「大丈夫ですか?」
 追い出そうとした相手へ身を乗り出しながら、心底心配そうに声を掛ける。その瞬間、目が合った。今の目線の高さは同じ。深い悲しみを湛えた紅い瞳がこちらを見詰めている。―わたしと同じ色なんだ―
 全く同じと言う訳ではないが、それだけでも親近感を覚えてしまった。既に、警戒心も何も無い。話せる事なら、全部話しても良いとさえ思えて来た。
 こちらを見詰める心配そうな瞳。アーシィの脳裏に女性の姿がフィードバックする。が、輪郭がハッキリしない為、誰かは判らない。だが、とても懐かしい感じがする。種族の違う私を育ててくれた大切な人。…優しい…『姉さん』…。
其処で、額に浮かび上がっていた文字が一つ砕け散り、その他の文字と紋章は何事も無かったかのように消えて行く。十数年ぶりに彼は二つの事を思い出した。一つは自らの手で自分の記憶を封じた事。もう一つは自分に『姉さん』がいた事を…。その事実だけを。姿も声も名前すらも思い出せないが、その事だけは確かな事実だと確信できる。
 もう、涙は止まっていた。

「つまり…そう言う事だったんだよ…」
「そうなんですか…」
 気を取り直して、彼は彼女から話を聞いていた。話を聞き終わり、ようやく彼女が自縛霊になった理由の一つを知った。
 彼女はこの屋敷を大切にしていた。そして、屋敷も彼女を大切に思っていた。結果、屋敷は彼女の死を受け入れる事が出来ず、彼女は屋敷の事が気掛かりのまま息を引き取った。
 その為、彼女は自らを屋敷に縛り付けてしまい、屋敷に溜まっていた霊力と魔力を自分の物とし、侵入者からこの屋敷を守ろうとしたのだ。(屋敷を取り壊されそうになった事がある為と推測される)。
「何時までもこの世をさ迷っていてはいけないよ。解っているね?」
「はい…。でも、どうすれば良いのか…」
 そう言って、困った顔になる。だが、それも仕方ないと言えば仕方ない。彼女にとってこの屋敷に居る事は生前の延長線にあるようなものだ。自らが赴かなくてはならない場所を彼女は知らない。しかし、このままだといずれ魂が汚され、手におえない悪霊と成ってしまうだろう。それでは余りに可哀想だ。
「私が送ってあげるよ。心を落ち着けて」
 安心させる様に微笑み、懐から純銀製のフルートを取り出す。そして、静かに吹き始めた。死者を送り届ける葬送曲を―

(綺麗な音色…わたし、これからどうなるのかな…)
少女の脳裏に微かな疑問が浮ぶが、不思議と心は穏やかだった。後は青年を信じて待つだけでいい。少女は目を瞑り、刻が来るのをじっと待った。
 とても、とても永い様な、わずかな時が流れた。まだ演奏中だが、曲自体は10分もあれば吹き終る。それだけで彼女は天へ導かれ、“裏で糸を引いていた者”は裁きを受ける事になる。
そう。彼女に話したのは真実全てではない。原因は説明したとおりだが、“そうなる様仕向けた者”が居る。今も隠れて見ているだろう。一途な想いほど、邪悪な者に利用され易いのだ。アーシィはそいつを許すつもりなど毛頭無い。そいつはこちらが気付いていないと思い油断しているだろうが、その甘さが命取りだ。
 魔力を紡ぐのは呪文の詠唱だけではない。曲を演奏する事によってもそれは可能なのだ。しかも、そちらの方が複雑で強力な魔法が使えたりもする。これこそが、『闇の秘術』の基本であり、真髄―。
 曲も終盤に差し掛かって来た。それにつれ、辺りに変化が訪れる。まず、屋敷の中に居た、邪気の持ち主の気配が消失した。死んだのか逃げたのかは判らないが。そして、少女が淡く輝き、天から光が射し始める。このまま行けば全てはまるく治まるだろう。
 ―曲が終わった―。輝きは強くなり、少女が浮かび上がる。そのまま天へ上り始め…停まってしまった。だが、輝きは消えはしない。それどころか更に光り輝き…唐突に光は治まった。
「……?」
「なんて事だ…この波動は…」
 事態を呑みこめない少女と違い、アーシィは何が起きたのかを理解していた。最も、信じられないと言う気持ちは大きいが。
「…精霊…。人が精霊化したのは初めて見た」
 とまあ、こんな事が有り、紆余曲折を経て彼はこの屋敷に住む事となった。ちなみに家賃はジョートショップの給料から引かれている。

―ジョートショップ―
「本当…ですか…?」
 依頼を果たし、戻って来た彼に伝えられたのは衝撃的な言葉だった。アリサの口から『まだトリーシャが帰っていない』と告げられ、一瞬目の前が真っ暗になった様な錯覚を覚えた。
「すぐに捜しに行きます」
「待って、今アルベルトさん達が捜しているわ」
 即行出て行こうとしたアーシィをアリサは呼び止めた。今現在、自警団が捜索している。もう少ししたら情報が入るかも知れないのだ。しかし、アーシィは、
「絶対見つけて来ますから…」
 それだけ言うと、ジョートショップを飛び出した。
(何処に居るんだ)
 飛び出したはいいが、この街に来たのは今日が初めてで、何処から捜したらいいかわから無い。でも、じっとしても居られない。会ったばかりの相手だが、それは全く関係無い。
 ローラやトリーシャと今日一日一緒に行動し、何だか妹が出来たみたいで嬉しく思った。他人とは違う暖かさを感じた。世間一般での家族の愛情が如何言う物かアーシィには判らない。彼にとって家族と呼べるのは『姉さん』だけだったから。
 実の所、アーシィは孤児だ。捨てられたのか、預けられたのかも判らない。本当の親どころか、自分の名前も知らない。だが、アーシィにとっての親は『姉さん』だけであり、『姉さん』が付けてくれた『アーシィ・フォーヴィル』と言う名前が、彼にとって最も大切なものだと言う事に変わりは無い。
 何処に居るか判らないからと言って、闇雲に捜しても時間の無駄だろう。彼はコートの下から、赤い宝石の付いた短い杖(ロッド)を取り出す。名は『死を招き、魂を導くもの』略して『死神』。この杖にはある特殊能力が秘められている。その名の通りの力が…。
 彼はそれを掌の上に浮かべる。ロッドはまるでコンパスの様にクルクル回り、宝石がある一点を指して止まった。アーシィはその方角へ向けて走り出した。

 一方その頃、トリーシャは森の中に居た。茂みに隠れて様子を窺っている。目の前に居るのは盗賊団だ。しかも、アーシィが捜している銃らしき物を持っていたりする。
 街外れで見つけて、こっそりつけて来たのだがこの状況はかなりヤバイ。どうやら、ちょーーーーっっっっっとばかり近付き過ぎたらしく、ほっんーーーの少し動いただけで見付かりそうな気がする。
 だが、ここから離れて自警団に駆け込めないと大変困った事になるだろう。意を決して離脱する事にした。が、其処で嘘みたいな事が起こった。鼻がむずむずする。(こんな使い古されたパターンは認めないっ!)トリーシャは驚異的な精神力でそれに耐えた。
 後ろを振り返ろうとしたが、足元で何かが蠢き、反射的に下を見て叫びそうになる。居たのだ。其処には。頭に『ゴ』の付く虫が。しかもかなりでかい(嫌過ぎ)。口から心臓が飛び出てしまいそうなほどビックリしたが、歯を食い縛ってそれにも耐えた。
 そして、背を屈めたまま歩き始める。足元にある木の枝なんかを踏んで(パキッ)なんてパターンに陥らない様気を付けながら慎重に…。だが、しかし、
「其処に居るのは誰だ!」
(見付かった!?)
 突然上がった誰何の声に恐る恐る後ろを振り返る。目が合った(笑)。どうやら足元ばかりに気を取られていた為、茂みからはみ出してしまっていた様だ。顔が引き攣っているのが自分でも良く判る。見付かった以上、こそこそする必要は無い。トリーシャは一目散に逃げ出した。
「待て、この野郎!」
 この状況で待てと言われて待つ奴はまず居ない。トリーシャとしては(女性に対して野郎だなんて失礼だぞ!)と、叫びたい所だが、そんな事をしても疲れるだけだ。黙って逃げるしか手段は無い。
 どれだけの時間走っただろう。気が付くと後ろからはだれも追って来ていなかった。ほっと胸を撫で下ろした時、茂みが揺れ人が現れた。見知った顔、アルベルトだ。
「よかったぁ・・・」
 安心し切ってしまい、トリーシャはその場に腰を下ろした。

 少し時間を戻そう。トリーシャが逃げ切る切っ掛けと成った時間帯へ。
 トリーシャを追いかける盗賊達の目の前に赤い軌跡が生まれ、通り過ぎた。それは斬撃となり、盗賊達を傷つける。
 傷つけたのは紅い刃を持つ大鎌。その持ち主は闇の中から幽鬼の様に姿を現した。上弦の三日月を背負い、盗賊達の背後に佇んでいる。ライト・ブルーの髪が月光を受け銀に輝き、魂を凍り付かせるかのような赤い双眸が、長く伸ばされた前髪の下から覗いている。
「私の新たな『家族』を傷付けようとする者は例え神でも許さない。死ぬよりも恐ろしい事が何かを教えて上げるよ」
 アーシィは静かに、其れでいて恐ろしく冷たい言葉を浴びせた。一部の人達の間で囁かれた“狂える悪夢”をもたらす狂気の怪人、『ルナティック・ナイトメア』が目の前の男である事は当人すらも知りはしない…。

「トリーシャちゃん。どうだ、落ち着いたか?」
「うん。ありがとうアルベルトさん」
 手渡された水を飲み干し気分を落ち着ける。それと同時にドッとした疲れが押し寄せて来た。だが、伝えなくてはいけない事がある。休息も兼ねてトリーシャは口を開いた。
「アルベルトさん。ボク見たんだ。この先に居る盗賊団がアーシィさんの銃らしき物を持っているのを。その所為で、追い掛けられていたんだ」
「なっ!」
 アルベルトは取り合えず驚いた。かなり無茶な事をやらかしたトリーシャに対してもだが、盗賊団が捜している物を持っていると言う情報に対する驚きもある。
「よし!すぐ隊長に連絡して、それから奴等を追い詰める!」
 そう言いながら気合を入れて立ち上がる。銃は違う物かもしれないが、盗賊団は壊滅させておくに越した事は無い。幸い自警団員は近くに居る。と、その時、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 凄まじい絶叫が辺りに響いた。そして、誰かが走って来る足音が聞こえて来た。
「トリーシャちゃんはここで待っているんだ」
「えっ!」
 言うが早いか、アルベルトは声のした方へと走り出してしまい、暗い森の中、一人残されたトリーシャは物凄く心細そうだった。が、すぐに自警団員が駆けつけて来たので、特に問題は無い。

「た、助けてくれ…」
「うおっ!」
 いくらか走った所で先程の声の主と思われる人相の悪い人間に出会った。あちこちに傷を負っているが、命に別状は無い様だ。が、尋常では無いほどの恐怖に駆られている。そして、その背後から紅い刃の大鎌を持った男が現れた。
(な、何だ、この威圧感は…。昼間とはまるで別人じゃないか)
 恐ろしく危険な光を宿したその瞳に、アルベルトは驚きを覚えた。もし、その殺気が自分に向けられたらと思うとゾッとする。そして、こちらに気付いたアーシィが口を開いた。
「君は自警団の…」
「アルベルトだ。こいつはお前がやったのか…?」
 怯えている男を顎で指し訪ねてみる。状況からいって間違い無いだろう。でも、訊ねずにはいられなかった。
「そうだよ。そいつは盗賊団の首領で、トリーシャちゃんに危害を加え様とした…」
「だからか…けど、もうここまでにしておけ。後はオレ達の仕事だ」
 その言葉にアーシィは納得がいかないのか、うつむきながら次の言葉を放つ。
「…そして、どういう処分が彼等に下る?場合によっては…」
「一生牢屋の中だ。追放したってろくな事にはならねえからな」
「そうか。だったら君に任せるよ」
 そう言った彼の表情は一転して穏やかなものになっていた。まるで憑き物が落ちたかのような変わり様である。
「アルベルトさん!ボクを置いて行くなんてひどいじゃない!」
「そうだぞアル。ん?そちらの青年は?」
「あっ、隊長。こいつは…」
 こうして事件は解決した。盗賊団には一人の死者もいなく、全員がお縄に付く事となった。なお、盗賊団の持っていた銃は全く関係無い物だった。そして…。

―翌朝、自警団団員寮―
「お兄様、おはようございます」
「おう。それにしても、昨日は飲み過ぎたかな」
「クスクス、でもお兄様、とても楽しそうでしたよ?」
 クレアにそう言われて、昨日の事を思い出す。盗賊団を全員牢屋にぶち込み、アーシィを伴って寮に戻って来た後の事を。
―部屋の中にはアルベルト、クレアは勿論、其れに加えアーシィの姿があった。ちょっとした気まぐれで誘っただけなのだが、話してみると意外と気が合うことが判明した。
 そして、色々話して行くうちにアルベルトはふとした疑問を覚え、何気なく口にする。
『なあ、アーシィ。なぜあそこまでむきになっていたんだ?』
酒の席での何気無い質問。むきと言う表現は適切じゃないかも知れないが、他の言葉が浮ばなかっただけだ。
『ん〜。そうだね…話せば永くなるんだけど…一言で言うなら、“大切な妹を傷付けられそうになった”からかな』
 そう言って彼は微笑んだ。余りにも短い一言だが、その気持ちは解る気がする。自分だってクレアに手を出そうとする奴は許せない。それに、トリーシャは尊敬する隊長の娘。妹のように思っている点では同じなのだ。
『じゃあ、永くなる方の話ってのは何なんだ?』
 この質問はまずかったのかも知れない。アーシィが少し寂しそうな表情になったから。だが、アーシィは自分の過去を話し始めた。少々大雑把だったが…。
 昔は復讐心の赴くままに賊連中を襲っていた様だが、今は不幸な目に会う人を一人でも減らす為だと言っている。やってる事は変わらないかも知れないが、自分に出来る範囲で人助けをすると言うその考えは理解が出来る。が、“吟遊詩人は人々に夢と希望を与える存在”と言うのが少し解らなかった。
 そして、トリーシャやローラの事を彼は『妹』と言った。ちなみに、これから会う事になるマリア達も彼にとっては『妹』や『弟』になるのだ。アーシィは表裏の激しい性格の様だが、信頼出来る奴だとアルベルトは思う。
『アーシィ。オレの事を“アル”って呼んでも良いぞ〜』
『ありがとう。アル』
 黙って話を聞いている間、飲み続けていた為か、いきなり酔いが回っているアルベルトにアーシィは苦笑しながらそう言った。
 そして、夜は更けていく・・・―。


あとがき

 とりあえず書き終わった。本当にとりあえずだ。バランス悪いし(弱気)。しかも銃が無くなった理由が不明なまま。何てこったい(笑)
 別に思い付かなかった訳じゃない、話の都合上カットしただけ。書いたらまとまらなくなってしまうとか、そう言う理由じゃないと思う。多分。きっと。もしかしたら。その可能性もちょっとある(更紗口調)
 だが、しかし!既にまとまってない気がするのは気のせいだと思いたい!(←ちょっと待て)
 ついでに言うと、この話はリレー小説第一話の一週間前の話かも知れない。確率70%。
 そーゆー訳です。(何が?)。ではでは。

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