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リレー小説外伝 『マーシャル武器店の魔人』

HAMSTAR

プロローグ

「と、いうわけでワタシの店の掃除を手伝って欲しいアル」
 こう切り出したのはマーシャルという男だった。
エンフィールドという町に『マーシャル武器店』という店がある。格闘マニアの店主、マーシャルが経営するこの店は時折掘り出し物があるようだ。ちなみに経営も順調らしい。
「報酬は払ってもらうぞ。手伝ってくれる者はいるか?」
 こう答えたのはケイン=T=クライナムという男だった。
その男はエンフィールドの住民ではない。流れ者の『何でも屋』である。くすんだ金髪に軽い近視用の眼鏡。長旅をしてきたせいかコートは少し汚れている。現在はセントウィンザー教会に居候をしている。
「店で働いてるエルも手伝うアル」
「3人では足りんな。こちらで用意してもいいか?」 
「問題ないアル」
 こうして、ケインは仕事を得た。マーシャルも店の大掃除が出来る。しかし――これがとある騒動の元とは、誰も知らない。当人たちすらも。
  
 当日。マーシャル武器店には5人の人影があった。ケイン、マーシャル、エル、そしてケインが頼んできてもらったトリーシャと、道で吹き飛ばして拉致してきた『ボランティア・マン』ハメットだ。
「それじゃあ始めるか」
「まずは店の中の物を外で手入れするために運び出すアル」
「半年にいっぺんの大掃除だから、気合入れないとね」
「うわ〜隅に埃が積もってる〜!」
「全く、いつもながら汚い場所でございます!さっさと終わらせてしまうでございます!」
「それじゃ、ワタシとエルで外に出した武器の手入れをするアル。ケインたちは荷物を外に出すアル」
「なんで僕も力仕事なの?!こういうのは男の仕事でしょ!」
 マーシャルの発言にくってかかるトリーシャ。まあ当然の反応かもしれない。
「仕方あるまい。俺たちは武器の手入れは詳しくない」
 ケインが冷静に指摘する。それに続いてハメットも、
「大体、あなたは下手したらわたくしよりも力があるじゃございませんか!」
 その言葉にトリーシャが、ゆっくりと、ハメットの方を向く。その顔には殺意に似た気配が浮んでいる。
「なんですって〜〜〜〜!トリーシャチョーーーップ!!!」
 どこからともなく取り出したチョップ棒がハメットを一撃で打ち倒す!ハメットはそのまま地面に沈んだ。それを眺めながらエルが呟く。
「ま、それだけ元気なら大丈夫だよ」
「うううううう……」
 こうして、役割分担も決まったのだった。

第一章

 掃除開始から小一時間がたった。既に店内にはほとんど武器が残っていない。
「これで……最後っと!」
 剣や刀が入った壺を表に置いてきたケインが店内に戻ってくる。トリーシャやハメットは床掃除を始めていた。
「お疲れ様〜それにしてもほんと汚れてるね〜この店」
「先ほどエルさんが半年に一度の大掃除といってたでございますからねぇ。当然でございましょう。全く、清潔とは程遠いでございます!」
「同感だな」
 言いながら掃除を続ける。ケインはモップで床を拭いていた。
「あ。ねえねえ知ってる?最近マーシャルってばよく図書館に行ってるみたいだよ」
「ああ、俺も聞いた事がある。なんでもゴーレム生成や操作の魔法とかが記されている本を特に熱心に読んでるそうだ」
「な〜んか意外だよね〜。そういうのには興味ないと思ってたけど」
「ま、人の向上心を批判しても意味は無い。むしろ誉めるべきだろう」
 その時ハメットがかなりビクビクしたようだったが、ケイン達は知る由も無い。そして掃除を続行していた時、
 コト……
「ん?」
 カウンター付近の掃除をしていると、ケインの足元で違う音がした。
「どうしたの?」
「いや……なんかこの下に地下室があるみたいなんだが……」
「地下室?」
「ああ……」
 そこにハメットが割り込んでくる。なぜか焦っている様子で。
「そ、そんな物があるはず無いじゃございませんか!さあ、早く割り当ての掃除を終わらせてしまうでございます!」
「怪しい……」
「な、何を……!」
 と、そこにマーシャルとエルが入ってくる。
「武器の手入れは終わったアル。店内の掃除はどうアルか?」
「あらかたな。ところでマーシャル、この店には地下室とかあるのか?」
 と、ケインが尋ねたその瞬間――
「マーシャル・ダイビングキーーーック!!」
 マーシャルが飛び掛ってくる。ケインが避けると、その先にはハメットがいた。
「ほひ〜〜〜〜〜〜!」
 飛び蹴りを喰らってハメットが床に倒れる。呆然としている3人をまるっきり無視してマーシャルはまくしたてた。
「地、地下室なんてそんなもの無いアル!無いったら無いアル!だから気にせずに掃除に専念するヨロシ!!!」
「だがマーシャル。契約書にはこうある。『店内全てを掃除範囲とする』とな」
 ケインは近くに掛けていたコートから契約書を取り出す。
「なら、地下室があるならそこも見てみるべきだと思うが?」
「そ……それは!」
 うろたえるマーシャルに追い討ちを掛けるようにエルも加わってくる。
「地下室ねぇ……あたしも知らなかったね。興味が湧いたよ」
「ダメったらダメアルーーー!」
 飛び掛ってくるマーシャル。その動きを見切り、ケインはわき腹に拳を打ち込む。
「ぐはあぁっ!!」
 そのまま崩れ落ちるマーシャルを尻目にケインは地下室への扉を探し始めた。
「あった」
 それは敷物の下に見つかった。大気圧の差をかぎ代わりにした特殊なかたちだった。
「開くの?」
「ああ。取っ手をある一定の角度にしないと中に空気が流れ込まずに開かない仕組みだな」
 言いつつ、扉を開く。空気が流れ込む音がして、扉が大きく開く。その中は光一つ無い暗闇。
「ま、行ってみますか」
 気楽に言ってケインは穴に飛び込む。トリーシャとエルも彼に続いた。

第二章

 入り口から差し込む光を除けば、地下室は真っ暗だった。少しかび臭いが気にならないわけではないがたいしたことでもない。トリーシャがうめく。
「うわ〜真っ暗。何も見えないよ」
ケインの左手の手甲から二つの振り子が飛び出し、手に収まる。魔力を込めるとそれは純粋な光を放ち始めた。
「ホーリーペンデュラム」
 二つの光は前方に進むと空中に静止する。
「なんだこれ……?変わった部屋だね……」
 そこは確かに地下室だった。だが、普通の地下室とは違う感じの部屋だった。奥に細長いその部屋は奥行き6メートルほど、横幅は3メートルほどか。そして一番奥には――
「鎧?」
 トリーシャが呟く。それは確かに鎧だった。金持ちの応接室に飾られているような全身鎧。しかもそれにさらにゴテゴテと装甲板やらなにやらをくっつけている。
少し近づいてみるとその全容がはっきりしてくる。
「なんだありゃ?超重級のフルプレート・メイルじゃないか」
「超重級?」
 トリーシャが聞いてくる。それに答えながらケインが説明する。
「ああ。昔の戦争で使われたという鎧の一種だ。総重量100キロ以上。あれを着て歩こうと思っただけで笑いものになりかねないような代物だよ」
「それじゃあどうやって戦場に出るんだい?」
これはエル。確かにすぐに疑問に思う事だろう。
「馬数頭に引かせる戦車に乗って行動するんだ。だから戦場で転んだりするとそれだけで行動不能に陥るってんで普及はしなかったらしい」
「なにそれ……」
「ま、全身を守るんで剣や槍は通さなかったそうだが」
 呆れるトリーシャに一応鎧の弁護をしておく。
「でもマーシャルのヤツもなんでこんなものを置いてるんだろ?しかも地下に」
「確かに変だな。持ち運びやなんかを考えれば表に置くのが普通だが……」
「案外呪いがかかってたりして♪ほら、マーシャルってそういうの見つけるの得意だし」
「得意なのか?危なっかしい……」
「もしそうだとしても魔術師組合や私たちに相談するだろ?」
「う〜ん……」
 3人揃って考え込む。が、答えが見つかるわけでもない。本人に聞くしかなさそうだ。とりあえず調べてみようと近寄る。壁の両側には武器がかかっている。鎧の右手側、つまり3人から見れば左側には槍や斧、大剣などが、反対側には盾がかかっている。
「なんか……鎧を始めとして戦場装備一式揃ってるな……」
「全く、マーシャルのヤツも何だってこんなのを隠してるんだ?」
「ねえこれ見て!なんか書いてあるよ!」
 トリーシャがなにか発見したらしい。鎧の足元になにか書かれているようだ。
「ええっとね……『仮面魔人一号試作型』だって。最後に『M&H』って書いてある」
「仮面魔人?」 
 エルが尋ねたその瞬間、ガチャリと音を立てて、鎧が動き出す。それはトリーシャに腕を向ける。腕には小型ボウガンが――
「トリーシャ、危ない!」
 エルが叫び、ケインは魔法を発動させる。屋内なので多少は加減したが。
「ルーンバレット!」
 魔法の直撃を受けて《鎧》が体制を崩す。それと同時に放たれた矢はトリーシャを掠め、石造りの床に突き立った!
「きゃああああああ!」
「なんなんだ、あれは?!」
「知らないよ!まさか、リヴィングメイル?!」
 エルが構えを取りながら答える。トリーシャも慌てながら入り口近くまで駆け戻ってくる。位置的には部屋の奥から《鎧》、ケインとエル、トリーシャの順だ。
「いや……リヴィングメイルじゃないな……むしろゴーレムに近い」
 緩慢だが確実に起き上がる鎧を睨みながらケインが反論する。リヴィングメイルはゴーレムと違い自律的意識が強い。ゴーレムは命令を遂行するだけだ。
「じゃあ、誤作動したってこと?」
「ああ。理由は知らんがな。――ちぃ、超重級だけあってかなり硬いな……」
 全員の顔にわずかに恐怖が浮ぶ。《鎧》は起き上がると両側の壁から武器を取り出そうとしているようだった。――盾と、大剣を。
「やらせん!『アイスペンデュラム・フリーズ!』」
右手の振り子の1つが飛び出し、手の平に収まる。魔力を得て白く輝く水晶は一直線に《鎧》に突き立ち、完全に氷に閉じ込める!
「やったぁ!」
しかし、ほんの数瞬の後、《鎧》は氷を砕いて再び動き出した。
「一度外に逃げるぞ!エル、トリーシャと先にいけ!俺が出たらすぐにふたを閉めろ!」
「……OK。わかったよ。トリーシャ、逃げるよ!」
「う……うん!」
 二人が縄梯子を上がっていくのを音で確かめ、ケインは鎧に集中した。もう左手の振り子は手甲に戻している。
 この細長い空間では、リーチが長い武器を持っている方が圧倒的に有利だ。つまり、《鎧》の方が。
(まともに戦ってもやられるだけか……なら!)
「ルーンバレット!」
 解き放たれた魔法が鎧を打ち倒す。先程とは違う手加減無しの一撃。
「ルーンバレット!ルーンバレット!ルーンバレット!」
 さらに連発する。炸裂した威力の余波が地下室の温度を上げる。その間に右手の振り子の1つに風の魔力を込めて、自分に鋼線を巻きつける。
「ヴァニシング――」
 最大威力の魔法の発動準備をする。そして魔力を込めた水晶を上の店内の天井に突き立てる。
「――ノヴァ!!!」
 魔法の発動と同時、床をける。重力を中和したために一気に店内に舞い戻る事が出来る。と同時、エルが地下への隠し扉を閉じる。その一瞬の後、振動と轟音が店を揺らした。

第三章

「なんだったのよ、あれ……」
 振動が収まったマーシャル武器店の中に座り込んでトリーシャがぼやく。殺されかかったのだから当然だろう。
「さあね……まあ、このバカが関わってるのは間違いなさそうだね」
 未だに気を失っているマーシャル(とハメット)を恨めしそうに見ながらエルが呟く。
「気がついたら問い詰めよう。まあ、あれだけの魔法を喰らえば要塞の壁も穴があく」
 ケインは隠し扉の方を向きながらため息をついた。例の隠し扉は力技で開けることは出来ないだろう。3人は入り口近くに集まっていた。と――
 ドガン!!
 地下から唐突に剣が突き出されてきた。その主は、言うまでも無い。
「嘘だろ……壊れてないのか?」
「あれじゃ出てくるのも時間の問題だね……」
「僕、お父さんに知らせてくる!」
「……確か今日は魔物討伐の日だったよな……」
「そんなぁ……」
 そうこうする内に剣は幾度も飛び出し、床を破壊する。もうすぐ《鎧》が出てこれるほどの穴があくだろう。
「ここでどうにかするしかないね」
「でもエル、どうするの?あいつ無茶苦茶固いんだよ?」
「……俺の精霊召喚がうまく行けば一撃で破壊可能だ」
「ほんと?ケインさん?」
 トリーシャが期待を込めた瞳で聞いてくる。それに頷いてケインは続ける。
「ただし、店への被害を最小限に抑えるには――」
(『炎の魔人』『雷の龍』では店も余波で壊滅する。『大地の蛇』も床を砕いちまう。『風の獅子』は威力制御が困難だし、『水の女王』では威力不足……)
「――『氷の狼』しかない。だが、一度で成功する確率が低い。二回連続で唱えないと」
「わかった。エル、時間を稼ごう!」
「やれやれ……急ぐんだよ、ケイン!」
「済まない……頼む!」
 《鎧》が地下から這い出してくる。そして、戦いは始まった!

「使え!無いよりはマシだろ!」
 ケインが振り子を使って外にあった武器を回収、エルに手渡す。
「トリーシャ、精霊魔法を!私が切り込む!」
「解った!『シルフィード・フェザー』!」
 風の加護を受けたエルが剣を構えて突っ込む。トリーシャはまた別の魔法でいつでも援護できるようにする。一方、ケインも精霊召喚の詠唱を開始する。
「……我は汝と共に歩む者。汝は我の傍らに佇む者。――」
 カキィィィン!
 エルの振るった剣は《鎧》の構える盾に阻まれる。恐らく、直撃しても大したダメージにはならないだろう。そして、《鎧》は手の大剣を振りかぶり――
「ルーンバレット!」
 トリーシャが放つ魔法で動きを抑えられ、その隙にエルは大剣の間合いから離れる。
「ふぅ……こりゃヒットアンドアウェイしかないね……」
「『イシュタル・ブレス』!これですこしは安心でしょ?」
「サンキュ。トリーシャ」
「――来たれ、汝、『氷の狼』!」
 ケインが唱えると同時、彼の周囲が凍りつく。だが、それだけだ。しかし、これは『本命』のための布石に過ぎない。
「もう一度行くぞ、合図したらすぐに離脱しろ!……我は汝と共に歩む者。汝は我の傍らに佇む者――」
「OK!一気に決めるよ、トリーシャ!」
「うん!『イフリータ・キッス』!」
 一気に駆けより、エルは奥義を叩き込む!
「いけえぇぇぇ!ファイナル・ストライク!」
「僕もいくよ!『カーマイン・スプレッド』!」
 ドゴオォォォン!
 いかに《鎧》といえども衝撃の全てをキャンセルできるわけではない。大威力をまともに受けて、《鎧》が仰向けに倒れる。飛びのくエル。
「――汝、我が呼び声に応え、我が願いを叶えたまえ。汝、『氷の狼』!」
 そして、ケインの前に白き狼が現われる。狼の周囲は一挙に凍りついた。
「来た来た来た!」
 《鎧》はゆっくりと起き上がる。だが、もう遅い!
「吼えろ、『氷の狼』!かの者を砕け、汝の牙で!」
 氷の狼が跳躍する。《鎧》に喰らいつくと《鎧》は一気に凍りつく。更には表面にひびが入ったかと思うと、いきなり《鎧》ごと完全に砕け散る!
 絶対零度まで凍りつき、《鎧》を構成する分子が結合を維持できなくなったのだ。
 こうして、エル、トリーシャ、ケインの3人と《鎧》の激闘は終わった。

エピローグ

 夕日が町を照らしている。それは、いつもと何一つ変わらない風景。今日はなにか大きな事件が起きた訳でもない。
 だが、ここ、マーシャル武器店だけは違った。
 店内の一部は精霊の余波で凍りつき、溶けるにはまだ少し時間を要する。
「さて、どういうことか説明してもらおうか?」
 エルが凄む。あの後、マーシャルとハメットはようやっと眼を覚ました。
「あの《鎧》、下手をすればこの町に大被害をもたらすところだった……知らぬ存ぜぬでは、すまんぞ。なんとなればお前らを告発する事も出来る」
 ケインも腕組みをしながら問い詰める。トリーシャも半眼で聞いている。
「解ったアル……全てを話すアル……」
「とほほでございます……」
 そして、マーシャルは語り始めた。

「大武闘会は、知ってるアルね?ワタシはそこに毎年のように出場していたアル……」
「ま、毎年のように初戦敗退だけどね……」
「その通りアル、エル!ワタシはいつまでたっても勝てないアル!しかも大会にはリカルドが、『一撃の王者』までもがいるアル!このままでは優勝なんて夢のまた夢アル……」
「そんな折、図書館で偶然わたくしと遭遇しまして、意気投合したわけでございます」
「どういうわけだ?おい」
 ケインが口をはさむ。するとハメットは待ってましたとばかり饒舌になる。
「実はわたくしも武闘大会で優勝して町の人の尊敬を集めて、このボランティア生活から抜け出そうと考えていたのでございます。しかし、リカルドさんがいる以上は、わたくしのゴーレムちゃんでは役不足……」
「ほほおぉう……」
「で、お互いに武闘大会優勝という共通目標があると知り、ならば共同で作った新型ゴーレムの代理戦闘で優勝しようということになったのでございます」
「それが、あの《鎧》?」
「そうアル!あとは最終調整さえ済めば……」
「リカルドさえも圧倒し、優勝を楽々奪えるゴーレムの完成!だったんでございます!」
「じゃ、なんで急に動き出したのよ?」
「近寄ると自動で動き出すように設定されていたアル」
「元になったゴーレムが防犯用でございましたからねぇ……」
「そんな設定するんじゃないよ、全く!」
 エルがグーでツッコミを入れる。ハメットはあっさりと吹っ飛ばされた。
「うう……これでまた優勝は逃したアル……けど、出場することに意義があるという言葉もあるというアル!」
「まぁ……いいけどね……」
 トリーシャはツッコミを入れる気力もないようでガックリとうなだれる。
「どうでもいいんだが、それで優勝してもたいして尊敬も得られないし、自尊心も満たされないんじゃないか?」
 ケインがどうでもよさそうに呟いた。それと同時――
 ビシッ!!!
 二人は凍りついた。次の瞬間、
「そーアル!その通りアル!ゴーレムなんかに頼っても意味ないアル!ハメットなんかの口車にのったのは間違いだったアル!!」
「なに言ってるでございますか!あなただってノリノリだったじゃございませんか!というより売り物の鎧持ち出してきたのはあなたじゃございませんか!
「……!…………!…!!」
「…!………!………!」
 延々と続く不毛な言い争いを思いっきり外野の気分で眺めながら、3人は呆然としていたが、気がつけば辺りは薄闇に包まれていた。
「……じゃあエル、わたしそろそろ帰るね」
「ああ、ごくろうさん」
「報酬は?」
「店の中だよ。凍ってるかもしれないけど」
「魔法で溶かすさ。契約よりも水増ししてもらいたいんだが?」
「却下」
 肩をすくめてケインは報酬をどーにかこーにか探し出した。店を出ると、まだ二人は言い争っていた。
「じゃあな、エル。また仕事があったら依頼してくれ」
「じゃ、この二人を黙らせてくれないかい?」
「お安い御用だ。――ヴォーテックス!」
 小規模の竜巻が二人を悶絶させる。見届けるとケインは居候先の教会へと歩き出す。
 その日、町は平和だった。そういうことになっている。

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