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ハメット=ヴァロリー

HAMSTAR

 午後一時。眠る時間を除けば、1日のなかでも意味がない方に分類される時間。昼食と、午後の仕事にはさまれた、意味の無い、しかし、ゆったりとすごすことの出来る時間。
 ある者は昼寝をし、またある者は読書にふける。そして、陽気な太陽の光を浴びようと、公園や道路を散歩する者もいる。普段であれば、そんな時間。
 しかし、今日は違った。
「陽のあたる公園」。普段であれば、散歩をしたり、木陰でのんびりと過ごすことになんの障害もないこの場所も、いまは張り詰めた気配に支配されている。
 公園の周りを、多くの人々が取り巻いている。自警団。エンフィールドの治安維持に貢献する組織。いま、この公園は時ならぬ大事件の舞台となっていた。

第二章『仮面の下のディアブロ』

「あいつか・・・・・・」
 静かにつぶやく。多少その声にいらだちと焦りが混じる。彼にしては珍しいことだった。
 自警団団長リカルド=フォスター。今回の事件の被害者のひとりでもある。
「どういうことだ?公園のど真ん中に姿をみせるなんて、正気の沙汰じゃねぇ。なに考えてんだ、あの野郎!」
 長い槍を携えた青年がうめく。アルベルト=コーレイン――アルは妹をさらわれた。公園の中央にたたずむ、あの男に。
 その問いに答えられる者はいない。実際彼らにはわからないことがいくつもあった。例えば――
「ああ、マリア、ロープで縛られてもいないのに、なぜ逃げないんだい?」
 一人つぶやく白い髭の男。愛娘を誘拐されたモーリス=ショート。
「もしかして・・・・・・犯人は魔法使いじゃないんでしょうか?」
 ジョートショップの女主人、アリサ=アスティアが意見をいう。
「おそらくは。だからあんなに堂々としているのかもしれませんな。とはいえ――」
 アリサの意見に答えるリカルド。もっとも、彼にもわからないことが多すぎる。なぜ、4人――正確には、3人と一匹――を誘拐したのか?なぜ真昼の公園を受け渡し場所に指定したのか?そして――
「なぜ、受け渡し人にハメットを指名したんだ?」
 彼の疑問に答える者、それは公園の中にいる犯人しかいないのだが。

「なんで、動けないのよ!?」
「束縛系の魔法を使わせてもらった。もっとも、本来は肌に刃物で刻み込むべきものを油性ペンで書いたから、あと数時間でとけるだろうが」
 茶色い髪の少女、トリーシャの疑問にあっさりと答える犯人。彼いわく、さすがに、女の肌にやたらと多くの紋章をかきこむのは気が引ける、とのことだが。
「じゃあ、なんで私たちをさらったりしたのですか?ええと、パ、パニ――」
「パニッシャー。まだ答えるつもりは無い」
 再び、あっさりとかえす。彼、パニッシャーは公園の真ん中で悠然と構えていた。まだ暖かいこの季節に、灰色のマントをはおっている。
「やっぱり、あなた魔法使いね!どうりでそんなカッコするわけだわ。弱冷気の魔法でマントの中は涼しいってトコでしょ?」
 彼女はマリア。魔法がうまく使える人ほどえらい!と考えていて、魔法に関する知識は豊富だ。もっとも実力は伴っていないが。
「そのとおりだ。もっとも、魔法などただの技能だ。腕っ節が強いとか、足が速いのとさしてかわらないし、それ以上でも以下でもない。
 お前らと違い、俺は実戦本位で魔法を学んだ。だから、魔法万能の考えは自然に消えた。
 魔法の腕で人の価値が決まるわけじゃない」
 パニッシャーが言い放つ。実は、昨日誘拐したあと、魔法で水や火をおこしたりした時から、魔法の価値についての議論をしていたのだ。『魔法至上主義』のマリアと、『魔法は技能の一つ』というパニッシャー、当然、議論は平行線だった。
「あっハメットさんっす!ちゃんときたっす!」
 険悪な空気に水を差すこのセリフは、テディのものだ。見ると、確かにこちらに、仮面をつけた男が歩いてくる。
 ハメット。この町の、憎めない(?)小悪党。
「来たか・・・・・・」
 パニッシャーの言葉は風に乗って、公園に消えていった。

「あなたが、犯人でございますね?」
 ハメットの言葉に、パニッシャーはなにも答えない。かまわず、ハメットは続ける。傍らのトランクを開けて、
「ごらんの通り、たしかに100万ゴールドございます。ただちに人質を――」
「ルーンバレット」
 パニッシャーの放った魔法は、あっさりと打ち抜いた。身代金のはいったトランクを。

『?』
 その場の全員が目を疑った。公園の外にいるリカリド達も。
「なんだと?」
「どういうこった!?金が目当てじゃねえのか?!」
「・・・・・・なんなんだ、いったい・・・・・・」
 リカルドの呟きは、かすれていた。

「お前が、ハメット=ヴァロリーだな?」
「そうでございますが」
 静かな、二人の会話。だが、人質はまさに混乱していた。
「どうなってるの!金が目当てじゃなかったの?」
 マリアが叫ぶ。だが、パニッシャーには聞こえていない様だった。二人とも無視して続ける。
「やっと会えたな。うれしいぜ、ハメット。いや、『ヴァロル・ザ・デスウインド』と呼んだほうがいいか?かつて最強の名を欲しいままにした、魔法技能暗殺者よ」
「!!なぜ、その二つ名を・・・・・・」
「知っているさ。俺の父親は、12年前、お前の最後の獲物だったからな」

 沈黙が、時間の中に消えていく。二人は、何も口にしない。その沈黙を破るのは、
「うそ・・・・・・」
「ハメットが・・・・・・」
「暗殺者・・・・・・?」
「なっなにかの間違いっすよ・・・・・・ね?」
 マリア、トリーシャ、クレア、テディのもらす、うめき声。その声の中に、信じられない、という口調だった。あの、間抜けなハメットが、暗殺者?
 だが、続くハメットの言葉が、それが現実だと告げる。
「では、復讐というわけでございますか」
 その声は、あまりにも落ち着いていた。当然のこととでもいうように。
「いや。まぁそういう意味が無いわけでもない。事実、5年前まではそうだった」
 こたえる声も静かだった。それがかえって、嘘偽りがないことの証のようでもあった。
「俺は、この12年、お前のことを追っていた。お前が『死の風』の名を持つフリーの暗殺者で、親父を殺したのも、親父が裏で、あくどい事をやっていたから、と知ったのは五年前だ」
 独白は続く。その間に、二人はそれぞれ動いている。――パニッシャーは、マントの下からボウガンを取り出し、腕をぶらりとたらす。ハメットは、左足を前にした、半身の構えをとる。
「そのときから、俺の目的は変わった。――最強をうたわれたお前を倒してみたい。それが、俺がこうしている理由だ」
「では、人質をとった理由は?私に直接、果たし状でも送ればよかったでございませんか」
「おまえを殺したあと、殺人罪でつかまったら親父に報告できない。そのための保険だ。自警団のやつらの推理も、営利誘拐に傾くだろうしな。あの魔法生物は――まぁ、ついで、だな。
 もうひとつ言うなら、お前と真夜中に全力戦闘したら、パニックになる。そうなったら、勝っても逃げ切れんかも知れん。なら、昼間のほうがいいかなぁとおもった。それだけだ」
「そ・・・・・・それだけの理由なわけ?それじゃ、私たち無関係じゃない!?」
 マリアが会話に割り込む。だが、両者とも反応を見せない。
「なら、いますぐ人質を解放、とは参りませんね・・・・・・ひとつ約束してくださいませんか?あなたが町から逃げられたら、人質は無事に開放すると」
 ハメットの提案は、つまりは自分の敗北を意識していた。
「弱気だな。最初から死ぬつもりか?残念だが、そんな約束はできんな」

「なんでっすか〜!僕たちも殺す気っすか〜!!!」
 テディの絶叫が響く。公園の外まで。だが、誰も突入はできない。
 公園の中央にいるのでは、どこから侵入しても、最短距離はない。しかも、公園は広い。突入しても、気づかれてしまうのがオチだ。営利誘拐ではない。だからこそ、妙な条件がついていたのだ。 
 リカルドは舌打ちした。娘をさらわれた事が、判断を狂わせたのか。
 アリサは、不安そうに公園の中を見つめていた。あのなかで、幾人もの知り合いが命の危機に陥っていると思うと、不安でつぶれそうだった。
「テディ・・・・・・マリアちゃん・・・・・・クレアさん・・・・・・トリーシャちゃん・・・・・・ハメットさん」
 彼女はじっと見つめる。公園のなかを。見えない瞳でも、彼女は肌で感じていた。冷たく凍った公園のなかの、風の流れを。

 パニッシャーはひとつ、ため息をついた。向き直り、語りかける。
「殺す気はない。だが、俺は用心深いほうだ。町からかなり離れて、追っ手が来ないのを確認してから、お前らは解放する」
 その言葉で、マリアたちが少し安心する。しかし、
「だが、そのあと町まで戻るのは、こいつらの足で、だ。その途中で野獣に食われようがどうしようが、俺の知ったことではない。
 だから、無事に帰す、というのは約束できない。
 話は終わりだ。始めるとしようか!」
 言い終わるが早いか、パニッシャーはボウガンを放つ!
「くっ!」
 身をかわすハメット。だが、それはフェイントだった。
「ヴォ―テックス!!」
 解き放たれた魔法は、莫大な威力の衝撃となってハメットを飲み込む。
 ハメットはかろうじて直撃をさける。だが、横っ飛びに吹き飛ばされた。しかし、ハメットは、そのまま駆け出す。人質のほうへ。
「むっ?人質を逃がすつもりだろうが、そうはいかん!ルーンバレット!」
 炎の弾が四つ、ハメットにあたる。衝撃で、ハメットは倒れこんだ。マリアたちまでは、あと数メートルだった。
「巻き込むかもしれんが・・・・・・悪く思うなよ!」
 いって、力を収束させる。大規模攻撃魔法で、一気にケリを付ける気だ。
「!?」
 ハメットは焦った。この位置では、余波がクレアたちにもあたる。もし、無茶苦茶な威力の魔法であれば、たとえ効果範囲が狭くても、余波で大ケガをしかねない。
 いや、ガレキのあたりどころが悪ければ命を落としかねない。
 離れようとして、ハメットが跳躍するために力をためたその瞬間、
「くらうがいい!デスウインド!!ヴァニシング・ノヴァ!!!」
 ヴァニシング・ノヴァ。広範囲殲滅用としては、最強の威力を持つ。人質まで巻き込むつもりだ。
 ハメットは、なにかがはじけとぶのを感じた。

 閃光。爆発。爆音。それらを感じて、リカルドたちは地面に伏せた。アリサも、アルにかばわれて、地面に伏せる。衝撃が、なにもかもを破壊していく。
 周囲に響く轟音。それだけで人質の命が奪われていることがわかる。
(くそ・・・・・・くそっ・・・・・・くそぉ!・・・・・・)
 リカルドの、いや、全員の心に、絶望があふれた。

 閃光。爆発。爆音。それらを感じながら、トリーシャは、マリアは、テディは、クレアは、衝撃を感じなかった。
(・・・・・・なんで??・・・・・・)
 目をあける。閃光が辺りを照らし出す、その中で、彼女たちはみた。
 スーツ姿の男が、左手を掲げて、身じろぎもせずに立っている様を。それは、未知の魔法だった。

 そして。閃光がおさまり、爆音が遠のいて。パニッシャーは見た。
 その男は、まだ立っていた。余裕をもって。
「ひとつ、言っておきますが」
 その声は、体温を1度は下げるほどに、冷たかった。
「私に施されていた『能力封印用拘束制御魔法』が、とける筈無いのに、解けてしまったのでございますから」
 ゆっくりと顔をあげる。
「覚悟は、決めてもらいましょうか」
 その、仮面の下に、パニッシャーは見た。
 眠りから覚めたディアブロの、『死を運ぶ風』といわれた、悪魔の目を。

次回予告

 ハメットの、封じられていたはずの力。それは、まさしく悪魔と呼ばれるにふさわしいものだった。
 砕け散っていく陽のあたる丘公園。そして、人々の心には恐怖が刻み込まれた。

 次回 第三章『魔法技能暗殺者(題名仮称)』――忌み嫌われるのは、けして慣れることはない。


あとがき

 う〜む。三章で終わらせる予定が、もうひとつ増えてしまいそうだなぁ。
 次回は、けっこう派手な内容になる予定です。
 でも、こうして実際書いてみると、文章力ないかも。精進するしかないよなぁ。小説は読んでるんだけどなぁ、「オーフェン」とか。
 続きは、夏休み以降になるかな。トホホ・・・・・・

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