次の日、アティスの病室は面会謝絶になっていた。
次の日も、次の日も。
そして、ある日、病室のネームプレートから、『アティス・アーシィラ』の名前は無くなった。
「…アルベルトさん?珍しい……」
王立図書館に入って早々、カウンターからそう言われた。
「俺だって本くらい読むんだぞ、イヴ」
「でもまだ朝よ?自警団のお仕事は?」
「仕事の前に寄ってるんだよ」
「……」
彼女は怪訝な表情のまま、沈黙の最後に「そう…」と付け足した。
何だか少し腹立たしかったが、ここで時間を費やして仕事に遅れる訳にもいかず、すぐに奥へと進む。
少し奥に行くと、腕一杯に本を抱えながらも、今だ本棚と睨み合っている少女がいた。
「シェリル、お前こんな朝早くから図書館に来てるのか?」
「あ、アルベルトさん。おはようございます」
少女はこっちに気付くと、笑顔で挨拶をくれた。
しかし、すぐに怪訝な表情に変わる。
「でも何でアルベルトさんが……」
「……シェリル、お前まで……」
少し肩を落とす。
同じ事を二度も言われると、自分の中でも否定し辛くなってくる。
しかし、こっちは少し違って、付け足しに笑って「アルベルトさんも本くらい読みますよね」と言ってくれた。
考え方によれば、笑って誤魔化してると取れるが、あえてそうは取らないでおく。
それ以前に、誉められてるのか貶されてるのか判らない付け足しだ、と言う事もこの際置いておこう。
「で、アルベルトさんはどんな本を探しに来たんですか?」
「え?あ、ああ……」
シェリルらしからぬ積極的な行動に、少しタジろってしまった。
どうやら、俺がどんな本を読むのか興味津々のようだ。
それがさっきの付け足しの負の意味を裏付けている事は、この際伏せておく。
「Good Nightって言う……」
本の題名を聞いて、更にシェリルの目が輝き出す。
「アルベルトさんもあの本読んだんですか!?」
「いや、まだ読んでないんだけど……」
…いつもは積極性に欠く彼女なのだが、ここまでになると逆に怖い気もする。
「あの本はやっぱり主人公が……」
「……」
こんな感じで、シェリルの本好きを、一時間、みっちりと思い知らされる事になった。
帰る時、イヴに「慣れない事はするものじゃないという事を教えてもらったわ」と言われてしまった。
これから隊長に謝りに行かなければならないと思うと、気が重くなる。
俺は片手にイヴに「慣れない事」と称された本を持って、自警団へと向かった。
空を見上げれば、雲一つ無い蒼い空が広がっている。
雲が無い分、いつもより深く、神秘的な蒼だ。
その蒼を遮るものは何も無い。
手を伸ばせば届くかもしれない。
空の向こうにある何かに届くかもしれない。
風はいつまでも、穏やかに吹き続けていた。