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宿命の炎

第三話「約束」

毒宮

 エンフィールドの正午は、普段からうるさいくらいにぎやかなこの町が、通りを行き交う人々の交流で一段とにぎやかになる時間帯である。普通、エンフィールドのような辺境の田舎町(こういう言い方をするとエンフィールドを真に愛する者たちからかみそりレターや不幸の手紙がどっさり送られてきそうで気が気ではないが、これはあくまで事実であり、中傷などというような意味は一切含まれていないので、あえてこう書かせてもらうことにする。)というものは、朝と昼間は人通りも少なく静かで、街中で人とすれ違う回数も数えるほどしかなく、大した治安維持組織も存在していないのに、犯罪等はほとんどおきることもない。
 唯一このような町の中で賑わいのあるところといえば、一日働いた男たちが集う夜の酒場や家族を持つものたちの食事の時間くらいだろう。たとえば夜にこのような町を訪れてみると、夕飯時の家の煙突から立ち上る煙や窓からもれる光と楽しげな家族の雑談の声が、地味ながらも温かい家庭という幸せの形を如実に主張し、通りかかるものの心をなごませ、ほんの一瞬童心に返らせてくれる。
 このように、田舎町には都会の賑わいとは別の意味での人に活気を与えてくれるひとつの味をもっている。が、いくら田舎を持ち上げてみても、やはり都会の賑やかさが人に与える活気は、田舎町のそれの比ではなく、見所でもない限り、ほとんど人の訪れることが無い静かでさえない町。というのが、田舎町に対する大多数の固定したイメージだと思う。
 が、ここエンフィールドは違う。いったい何が違うのか。そしてその原因は?大概の田舎町と言うものについては、今しがた簡単な説明をしたばかりだが、エンフィールドは、その田舎町の条件(?)に当てはまる項がとにかく少なく、逆に、町をザっと見て回っただけでも、都会の条件として必要な項に一致する部分が驚くほど多いのに気づく。町の規模が小さいだけになおさら不可解だ。小さな都会という言葉がもっとも似合う町、それがエンフィールドなのである。そして、その原因であるが、実は、エンフィールドを田舎らしからぬ町にした一番の要因は、皮肉なことに、既に50年前に終結している戦争が大きく関与している。
 なぜか?その答えは単純明快である。
 戦争が終結した後、この町は、戦争の被害でめっきり人が減ってしまったために、戦火で半壊した町の復興とともに、産めよ増やせよの心理で次々と新しい命が紡がれ、若者の多くなった町は若いエネルギーに満ちていった。
 そして、その若いエネルギーは、エンフィールドがこれまで敷いてきた他の町との貿易制限(鎖国のようなもの)を取り払い、物の流通や他の町の人々との交流を多くし、町にたくさんの情報を取り入れ、コロシアムや劇場などのさまざまな娯楽施設を設け、なにより町の中からたくさんの優秀な人材を育むために広い範囲で、法学、医学、工学、魔術学、商業学、農業学、等々、色んな分野の知識を学ぶための教育機関を教化する、などということを行った。
 そのかいあって、戦後たったの50年で、このエンフィールドの町は、目覚しいまでの成長を遂げたのである。
 そしてさらにそのエンフィールドの良いところ。それは絶対的に平和な環境である。
 町が豊かになれば、当然良からぬ大志を抱くものがどこからともなく沸いて出てくるものである。
 しかし、それでもこの町が一般の田舎町級に平和なのは、間違いなくこの町にある自警団と、公安維持局の功績であると言いきれよう。そう、この町には2つの治安維持組織が存在するのである。
 だが、2つの組織は、非常に仲が悪い。まさに犬猿の仲である。と言っても、後からきた公安維持局が、何かにつけて、もともとこの町にある自警団にいちゃモンをつけているだけなのであるが、どちらにしても、守られる側としては少し困ったものなのであるが、それでもこの町が平和に夜明けを迎えることができるのは、個々の能力がそれだけ高いというなによりの証明である。
 そう、このエンフィールドの町は、都会の辟易するような賑やかさと活気、そして田舎町の平和と独特の和やかな空気、それらを同時に併せ持つ、良いとこ取りの町なのである。そんなわけでエンフィールドは今日も平和だ。

  ここはそんなエンフィールドにある病院の一室。そこだけ時の流れが止まっているかのような、なんとも言えない張り詰めた空気。カエルや犬猫などの小動物がそこに存在していたのなら、一分ともたず潰れて根性になってもおかしくないような重圧に包まれた空間。
 そこに2人の男が飾り気なんて物は一切省いて、その役目のみを果たすべくして作られたような簡素なデザインの机を間に挟み、椅子に腰掛けお互いの様子をうかがうように見入っている。
 二人のうち一方の男は、年齢は20代くらい、見るからに堅物そうなその男の相貌には知的な光が宿っている。身に纏う白衣から、この病院の医師である事が窺い知れる。名を「トーヤ・クラウド」という。
 そして机を挟んだ先のもう一方の男は、年齢は10代中期から後半くらい。ピッタリとした黒光りする革の上下、そしてそれらと似たような生地から作られたであろう黒革のチャップスを革のズボンの上から重ね履きするという、少し暑苦しい格好の若者である。こちらの男の名は「K´(ケイ・ダッシュ)」。ケイがファーストネームでダッシュがファミリーネームなのか、ということは一切謎である。しかし、聞きなれない名前と言う事で、名前自体はその容姿同様
非常に覚えやすい。
 この一切動を感じられないような空間で、トーヤ・クラウドがこの印象的な若者に向かって口を開いた。
「良し、腹部の損傷、右手首から上腕にかけての火傷、股関節の脱臼、全てほとんど完治した。退院だ、K´。」
「そうか、ありがとよドクター。ほとんど後も残らねーとは、さすがだな。」
 K´は今までずっと待ち望んでいた言葉を言われて、嬉々とした様子で、自分の体を隅々まで見やる。そんなK´の様子を見ながら、トーヤの顔にほんの一瞬、やさしい笑みを浮かんだように見えたが、すぐに本来の医者の顔に戻った。
「誉めても治療代は減らんぞ。今はいいが、いずれ払ってもらうからな。」
「わかってるよ。今のはお世辞じゃなくて、俺の正直な感想だ。あんたが天才って言われてるわけが良くわかったぜ。火傷までこんなきれいに治るなんてな。」
「まあ、おまえの回復力にも驚かされたがな。しかし、いったい何をしてたらそんな傷を負うんだ?まだ何も思い出せないか?」
「ああ、この右手がうずくたびに、チラチラと断片的な映像が頭に浮かんでくるんだが、それが何なのかを理解する前に泡みたいに消えちまうし、消えた後には何が見えたか覚えてねーんだ。」
「ふむ。それはフラッシュバック現象と言う奴だな。」
「フラッシュバック?」
 聞きなれない言葉を耳にして、K´首をひねる。
「フラッシュバックというのは、強く印象に残った映像が、忘れた頃になって自分の頭の中にチラチラと浮かんでくる現象だ。おまえがここにくる前に、深層心理に刻み込まれるほどに強く印象に残ることがあったんだろう。まあ、他にも、薬物の乱用によっても引き起こされる場合があるが、おまえの体からは、そういった物の反応は一切摘出されていない。だからおまえのは前者だろう。」
「それはオレの記憶を取り戻すための糸口になってくれるのか?」
「恐らくは無理だろう。フラッシュバック現象というのは言わば夢のようなものだ。見てる瞬間は現実以上に実感が沸いていても、終わってしまえばほとんど記憶には残らず、たとえ残ったとしても、それをどんなに記憶にとどめようとしても、いつのまにか記憶の中で薄らいで消えていってしまう。そして、そうなてしまったら、自分が今何を考えていたのかすら思い出せなくなる。
 だから、おそらくいくらフラッシュバックの瞬間の映像から自分の記憶を探ろうとしても、
次の瞬間には何も覚えてはいない、ということになるだろう。こればっかりはしかたない。なに、地道にやればいいだけだ。そんなに急ぐ必要もなさそうだしな。」
「そう・・だな。時間がかかったって、別に良いよな。」
 がっくりとうなだれるK´を見て、トーヤは珍しく気を使ってやさしい言葉をかける。それに励まされたからなのか、それとも単に強がってるだけか、K´が少しの笑みを浮かべて言う。普段のほとんど笑いもしないK´を知っている者から見れば、その笑みはとても魅力的に映った。
「悪いな、ドクター。変に気を回してもらって。」
「・・・2、3日は外出を避けたほうがよさそうだな。台風が来るかもしれん。」
「やっぱあんた、そういうところは相変わらずだ。」
 トーヤを軽く睨み付けて言うK´の口元には、彼自身が不思議に思うほどごく自然に、笑みが浮かんでいた。

 K´は見るもの全てが新鮮だった。町を行き交う人々、それにともなう雑談の楽しげな声。どこか都会の喧騒と似たようなものを感じさせる活気のある大通り。彼は少し辟易しながらも、目的地へと進んでいた。
 病院を出るときに、修理されたカスタムグローブを渡されるのと同時に、ディアーナには会って行かないのか?とトーヤに言われたが、彼は「また来るから。」と一言言い残し、病院を後にした。
 本当のところを言うと、色々とやかましいディアーナに、必要以上に別れを惜しまれても、もともとがそういうシチュエーションが苦手なK´にはあまり面白くない。なので、あえて今は会わずに、少し落ち着いてから改めて礼をしにいこうと決めたという訳なのであった。
 そういった事を考えつつ、彼は目的地の自警団団員寮に到着した。
「今日から、ここがオレの寝床か・・・・なんか汗臭いところだな。」
 革と汗と鉄のにおいが中からかすかに漂ってくる建物の前で、K´は失礼な意見を率直に述べた。
 そう、今日をもって、病院を退院したK´は、以前から決められていたとおり、その身柄をとりあえず一時的に自警団に預ける事になったのである。そして、彼に与えられたプライベートルームが、この自警団団員寮の一室であった。
 部屋に入ると、一人で住むには十分な広さがあり、割と新しいベッドと机、それと簡単なキッチンがあった。清潔なユニットバスも備え付けてある。
「へぇー、いい部屋だな。病院の狭苦しい部屋とはとは大違いだぜ。」
 自分の命の恩人の営む病院の悪態をつきつつ、K´は安心したように荷物を下ろすと、冷蔵庫や戸棚の中に、寮の入り口の管理員から受け取った食料や缶詰、缶飲料を放り込む。そしてその缶飲料の中から美味しそうなのを一本とると、それを飲みながら落ち着いて一息つくと、すぐに部屋を出て、寮の出口へと向かった。その途中で出会った先ほどの管理員に一つたずねる。
「なあ、あんた、ここはやけに静かだけどよ、この寮に住んでるほかの奴らが今どうしてるか知らないか?」
「他の人?ああ、他の団員たちは今の時間は訓練所でがんばってるころだな。」
 すこし不精ひげを生やした壮年の管理員は、特に考える風もなく即答した。
「そうかありがとよ。」
 K´は簡単な礼を言うと、すぐに寮をでて、以前トリーシャに教えてもらった場所に歩き始める。
「たしか、リカルドって言ったな・・・・どれだけ強いのか。まあ、行けば分かるか・・。」
 K´は嬉しそうにつぶやいた。実際、彼の心は今までに無いほど躍っていた。

────自警団訓練所────
「ここか、リカルドがいるのは・・・」
 そう言うとK´は訓練所の中に入っていこうとしたが、そこを一人の若者に呼び止められる。
「おい、おまえ、一般人の立ち入りは禁止されてる。団員に用があるなら事務所を通してくれ。」
 その言葉に思わず振り返ったK´の目に入ってきたのは、年はK´より少し上くらい、身長は200近くありそうな巨漢だったが、その男の若者独特の未熟な顔立ちとその男の身から漂う香水の匂いが、その巨漢を幾分か近寄りやすくしているようだった。
 K´はそんな彼の言葉を無視して逆に彼に尋ねる。
「おい、でけぇの、おまえ誰だよ。」
「おれはアルベルト・コーレインだ。おまえも名乗れよ。」
 しかし、K´はアルベルトの言葉をまたも無視してさらにたずねる。
「ちっ、あんたじゃねえのか・・・あんた、リカルドって男を知ってるか?」
 アルベルトは、自分を完全に見下したような態度を取るK´に(別にK´自身は、相手を見下すつもりはなく、目当ての男で無かったので単に関心が無いというだけなのだが、アルベルトはK´の態度がそう見えたのであろう。)心の中で憤りつつも、リカルドの客、ということである程度平静を装いつつ返答する。
「リカルド隊長ならこの中だが、いったい何のようだ?」
「知り合いから聞かされてな。リカルドは相当強いってな・・・そうか、隊長か・・楽しめそうだな。」
 そういうと、K´はアルベルトの横を通りぬけ、訓練所の中に入ろうとするが、またもアルベルトにさえぎられる。
「お、おい、何をいってるんだ?だいたい用は何だ?」
「率直に言うぜ。オレはリカルドと勝負してえんだ。わかったならそこどけよ。」
 ・・・・・・・・・・・・・ぷちっ。
 アルベルトの中で何かが切れるような音がした。
「おまえ、自警団をなめるなよ!」
 アルベルトが大声と共に繰り出した槍の柄をK´は咄嗟に後ろに飛びのいてかわす。
「オレはおまえには用は無いぜ。この町で強いと言って聞くのはリカルドだけだからな。」
 K´のその言葉がアルベルトの怒張した神経をさらに逆撫でした。
「そこまで言ったことを後悔するなよ!」
 気合一発、飛びのいて距離をあけたK´に再びアルベルトが猛然と突進する。周囲は、既に騒ぎの予感をかぎつけて集まってきたギャラリーがざわざわと群がっている。その様子を面白くも無いという目で見渡すK´が前を向くと、目の前までアルベルトが迫っていた。
 自分が原因とは言え、いきなり喧嘩を売られて、そのまま黙って殴られるほどK´は穏やかな神経をしていない。眼前にまで迫ったアルベルトをひときわきつく睨み付けると、突き出された左拳を左手で払いのけ、そのまま突進してきたアルベルトのみぞおちに痛烈な右肘を撃ちこむ。
「ぐっ・・・」
 目の前の、自分よりも一回り小さい痩せた男の攻撃で予想外のダメージを受けたアルベルトは小さくくぐもった声を漏らした。
 前のめりに倒れこもうとする上体を必死に起こすとK´の左足に向けて右ローキックを放つ。しかし、アルベルトの足はむなしく地面すれすれをかすっただけだった。アルベルトの目と右足の筋肉の動きから、アルベルトの右の蹴りを悟ったK´は、アルベルトが蹴りを放つよりも一瞬早くアルベルトの左側面に回り込んでいた。
 ローキックを空振りしたままの安定しない姿勢のアルベルトの横っ面にK´の右掌底が叩き込まれる。こめかみに重い一撃を食らったアルベルトの体はその衝撃で突き飛ばされて倒れこもうとするが、それを許さないとばかりにすばやく接近したK´がアルベルトの首に左腕を絡めヘッドロックのような体制で締め上げ、次の瞬間アルベルトのみぞおちに今度は鋭い左膝を叩き込む。二度、三度、アルベルトの抵抗をものともせずK´は左膝を連打する。
 そのたびに鈍い音と共にアルベルトのうめき声が辺りに響く。十数回目の膝を叩き込んだ時、ついにアルベルトがK´の膝を捕らえた。アルベルトはしゃがみこむと、そのまま力ずくでK´を引き倒そうとする。
 当然、純粋な力比べでは、細身のK´ではアルベルトには到底かなわない。しかも一度倒されてしまえば、体重差が10キロ以上ある上にパワーファイタータイプのアルベルトの拘束から逃れるのは難しい。
 しかし、K´はあえて抵抗をせずに、むしろ自分から前に倒れこんだ。そして、その瞬間勝負が決まった。倒れ際に、しゃがみこんでK´の足を抱えるようにがっしりとつかんでいるアルベルトの背中にK´の鋭い右肘が食い込んだ。技名「スポットパイル」という垂直落下式の肘落としである。体重と落下による勢いが加算されたその技にはすさまじいまでの威力があったのであろう。さすがにタフなアルベルトも一撃で意識を奪われた。
 すばやく起き上がり、アルベルトが失神した事を一瞬で理解したK´は、周りのハイエナのように群がる野次馬に目をやる。
「なんだ、もう終わりか!」
「おい、やられてるの自警団のアルベルトだぜ!」
「兄ちゃん強えーなー!」
 口々に好き勝手なことを言う野次馬たちの存在がK´の不機嫌さに拍車をかける。
 K´は肩膝を付き、未だ失神から目覚めないアルベルトの胸ぐらを左手で掴み、無造作に右の拳を叩き込もうとした。
 まさにK´の拳が振り下ろされたその瞬間、明らかに周囲の野次馬たちとは違う、威圧感のある静止の声が響き渡る。
「そこまでだ!」
 声に反応して咄嗟に手を止めたK´が振り向いた先にいたのは、年齢は50代位であろうという壮年の男であった。
「うわ、リカルドさんだぜ!あのガキころされるぞ!」
 その男を凝視していたK´の耳に一人の野次馬の声が入ってきた。
「リカルド・・・・あいつが!リカルド!!」
 アルベルトから手を離し、K´はリカルドに向けて脱兎のごとく走り出す。動きは一見無造作だが、そのスピードは驚くほど速い。K´の上着の背中にプリントされている「BEAST OF PREY」という文字の通り、まさに猛獣のごとき素早さで一瞬にしてリカルドとの距離を縮めた。
 自分に向かってすさまじい勢いで走ってくるK´を落ち着いて見据え、ゆっくりと身構えるリカルド。そんなリカルドを見ながら、唇の端をかすかに吊り上げたK´はリカルドの5メートルくらい手前で急停止する。K´の予想外の動きにリカルドは一瞬戸惑ったが、相手がファイティングポーズをといた事から、相手がまずは話し合いによる解決を求めていると解釈し、自分も構えをとき話を聞く体制に入る。
「お前がリカルドなんだろう?」
「ああ、そうだ。早速だが、自警団員相手に乱闘を起こした理由を話してもらえないか?」
 リカルドは、もともとの性格が温和で、正義を貫くためでも、極力闘いは避けて通ろうとする努力を惜しまない。このときも、せっかく話し合いになっているのだから、できればこのまま話し合いで解決しようと、できるだけK´を刺激しないように、穏やかでゆっくりとした口調で尋ねる。
「オレはあんたに会いに来たのさ。あんたは強いって人に聞いてな。あんたと一戦交えようと思ったわけさ。そしたらそこのアルベルトってのがイキナリ殴りかかってきたんだよ。オレは悪かねーぜ。」
 喧嘩というものは、売った方と買った方、その両方に責任が問われるのだが、K´はそれが少し理解できていないようだ。第一、自分に罪がないような事を言っていても、ついさっき、失神しているアルベルトにさらに攻撃を加えようとした点だけでも、過剰防衛と言う名の犯罪としてあげられる。
「とにかく、君の名前を聞かせてくれ。」
 K´の勝手な言い分と、その後方で倒れているアルベルトのやられようを見て、ふつふつと沸き起こる怒りを押さえて目の前の無法者の名前を尋ねる。
「オレか、オレの名はK´だ。」
 その名前を聞いたとたん、リカルドの目が驚きに見開く。
 そう、リカルドも、トリーシャから、半月ほど前に大怪我をして病院に運ばれた少年の話を聞いていた。そして「失われた大地」のことも・・・。
 しかし、今はそんな事より、トリーシャの、「生きていただけでも凄い」という言葉から察するに、決して半月やそこらで治るような怪我ではないだろうと考えた。
「君は、怪我のほうは大丈夫なのか?」
 その言葉に、K´もリカルドが思い浮かべたのと同じ少女の顔を頭に思い浮かべた。
「そうか、あんたトリーシャの親父さんなんだろう?とうぜん、オレの事は彼女から聞いてるわけか。・・・心配すんな。傷はもう治った。まだ少しは痛むがな。」
 治っていると言っても、まだ少し痛むという以上、手負いの状態であるには違いは無いだろう。リカルドはもう一度倒れているアルベルトを見やる。そんな状態で、アルの奴を・・・。そんな思いが、リカルドの頭を横切る。
 それと同時に、K´に対する怒りが、K´の強さに対する興味に変わっていった。と、そこに、リカルドとK´が共に聞き覚えのある声が二人の耳に入ってくる。
「あわわわ・・・いったい、何なんですか、これは〜!K´さん!」
「ディアーナ・・」
「ディアーナちゃん。」
「ああ、ひどい、なんでこんなことしたんですかぁ!」
 ディアーナがアルベルトの前にかがみこんでそのやられようを確認した後、K´に抗議する。
「ああ・・それはな、そいつが先に喧嘩を売ってきたからな。だからそれで・・・」
「でも、こんなになるまで痛めつける必要があったんですか!?」
「いや、それは・・・」
 さすがにK´も自分の手足のようになって助けてくれたディアーナには弱いようで、すっかり小さくなってしまった。
「とにかく、K´さんは治ったって言っても、まだ完治したわけじゃないんですよ!まだこれから、一月くらいはきつい運動を避けて、自分一人でリハビリを続けていかなきゃ行けないんですよ!」
 その一言を聞いて、リカルドは思い立ったようにディアーナに言った。
「ディアーナちゃん、うちのアルベルトがこういう事態の原因をつくってしまったらしい、本当に申し訳無い。それからK´君、今日のところは体に異常がないかどうかを調べてもらうために病院へ行きなさい。ディアーナちゃん、彼の同伴をお願いできるかな?」
「は、はい。任せてください。」
「私もアルベルトを自警団訓練所の医務室につれていかなければいけないからね。それではお願いするよ。」
 リカルドはそう言ってアルベルトを担ぎ上げると踵を返し訓練所に入っていった。そのときも、K´は勝手に話を進めるリカルドに一言二言文句を言いたかったのだが、隣でディアーナが目を光らせているのでおとなしくしていたのである。
 一方のリカルドも、半ば強引い話を進めた理由は、このまま話が長引いて、アルベルトが目を覚ませば、話がまたややこしくなると思ったのと同時に、K´とは、お互いが本調子の時に、きちんとした舞台で戦ってみたい、という思いからでもあった。
「さあ、私達も行きますよ。K´さん。」
「わかったよ。」
 観念したのか、K´は素直にディアーナの後に続いた。

──3時間後──
「まったく、何を考えてるんだお前は。」
冷めた声でドクターからの叱咤を受けたK´は、とくに反発するでもなく、静かに反省するふりをしていた。
その理由は、ディアーナとK´がクラウド医院に帰り着いた30分くらい後にやってきた自警団員の持ってきた手紙にあった。
 内容は、アルベルトの一件についての詫びの文と、G-1グランプリという異種格闘技大会の参加要項。
 ほとんど読み流す感じで文を読むK´の目が不意に止まった。それは一番最後の方にかかれている一文だった。そこには、次のような事がかかれていた。
「私は、自警団隊長と言う自分の立場を考慮し、今回は大会に参加する若い団員たちの指導に回るつもりでいたが、私も君と闘ってみたくなった。もちろん、それはアルベルトの敵討ちなどではなく、一人の挌闘家として、だ。
 そこで、このG-1に君が参加するのなら、私も参加することにした。きちんとした舞台で君との決着をつけたい。
 先に書いたとおり、大会は一ヶ月後、参加資格は特にない。君の意志一つだ。だが、私から一つ条件をださせてもらう。それは、これから一ヶ月、なにも問題を起こさず、クラウド医師から言いつけられたリハビリをきちんとこなし、その証拠としてクラウドさんから大会に参加することについての承諾書を書いてもらう事。これを守れれば一ヶ月後、最高の舞台で君と闘う事を約束しよう。がんばってくれ。」
 手紙を読み終えたK´はその内容を胸に刻み込んだ。そして決意した。一ヶ月、何があってもリハビリを続け、G-1に参加する事を。そのため、今はドクターには反発せずに、とにかく言うとおりにがんばろうと心に決めたのである。
 一通り話を終えたトーヤが、珍しくおとなしくしているK´に、どうしたのか尋ねてみても、彼はその整った唇の端を少し吊り上げ、「なんでもない」とうれしそうに答えるだけだった。

ア「チクショー!あの男、今度見かけたらただじゃおかねーぞ!」
ク「お兄様、落ち着いてください!」
ア「うるさいぞクレア!これが落ち着いてられるか!がー!!」
リ「アル、うるさいのはお前だ。他の人が迷惑しているし、クレアちゃんをそれ以上困らせるな。少ししずかにしておけ。」
ア「はい!リカルド隊長がそう言うなら!」
ク「・・・・お兄様・・・・・」
                エンフィールドは今日も平和だ・・・・

後書き

 なんだか、第二話に語られるべき話が、第三話になってしまいました。申し訳ありません。
 自分の計画性の無さに反省。ただ、K´の入院生活を書いておきたかったんですよ。
 ついでにその中で、K´がディアーナに心を開いていく過程も。
 どちらにしても、うまくまとまりませんでしたが、ちょっと自分の実力の無さにがっくり来てます。
 あと、これからは(前回からだけど)次回予告を書きません。書いても、その内容道理になる可能性がきわめて低いからです。すみません。
 そして、前回と今回の間にかなりの時間が空いてしまったことにも反省しています。
 こんな僕の作品ですが、時間があれば第四話、第五話と読んでいってください。でわ。

History

 書き始めた日・・・2月5日
 書き終わった日・・・5月1日
 何もしていなかった期間・・・2月6日〜4月25日
 作成日数・・・6日

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