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宿命の炎

第一話「別れと出会い」

毒宮

「くっ!」
 その男は、苦悶しながらもただ走りつづける。その手には紅き炎がともっている。
 後ろからは「ネスツ」という文字が書かれた重火器やアーマーで武装した男たちが彼を抹殺しようと追ってきている。
「畜生、カスタムグローブが直らないことにはオレはあんなやつらにさえ・・・。」
 彼は何度も手にともる炎を振り払おうと手を振うが、一向に炎はよわまらない。それどころか、炎は彼の腕を伝ってその体を燃やしつくさんとばかりに激しく燃え盛る。
 「このままじゃ、ある程度炎に対して耐性を持っているオレの体もいつまでもつか・・・いや、そんなことより・・・マキシマ・・・!」
 彼はそれ言うと足を止めた。
「あいつは、オレのせいで死んだんだ・・・オレの炎で・・・!」
 彼はそう言うと、後ろを振りかえる。目には涙が浮かんでいる。怒りのものとも、悲しみのものとも取れる自責の涙、誰のためでもない、ただ自分の無力さに、わずらわしさに対して止めど無くあふれ出る。
 まもなくして、彼を追跡していた男たちが彼に追いついてきた。
「観念しろK’(ケイ・ダッシュ)。組織を敵にまわしたお前に逃げ場はない。」
 K’は目に残る涙を拭い去る。
「ちっ、うざってぇハエどもが・・・」
 男たちを睨み付けるK’の目にはもう迷いはない。
「オレはお前らの開発した最新人体兵器、クリザリッドを超えるものだテメェらクソバエなどに殺られるか!!」
 そう言うとK’は男たちに向かって猛然と走り出す。
 男たちは、困惑することなく落ち着いてK’に銃口を向け、引き金を引く。
「パァン!」
 空で何かがはじけたような炸裂音とともに、彼の突進はその勢いを失う。
「ぐ…」
 K’はその場に仰向けに倒れる。鮮血に染められた彼の瞳はもはや何も映し出してはいなかった。
 「マキシマ、お前にすぐに会いに行くぜ…・・すまねえ。」
 彼はそう言うと、静かに瞳を閉じた。光を閉ざす寸前に、天井が自分に向かって降ってくるように見えた。いや、実際に降ってきていたのかも知れない。だが、もう痛みはない。おそらくもう目覚めることはないだろう。
 そう思いながら、K’は最後にもう一度仲間の顔を思い浮かべた。
「マキシマ_______」

「もう、いきなり雨が降ってくるんだもの、ホント困っちゃうよな〜。」
 少女はそう言うと持っていた鞄を頭の上に乗せ、学校から家に向かい走り出す。10分弱程走ったところで、彼女は止まり荒い呼吸をする。
「はぁ、はぁ、と、とりあえず、いったんここで、休憩していこうっと。」
 彼女は知り合いの両親が営んでいる旅の宿、兼、料亭の前でそう言った。その店の立て看板には、「さくら亭」と書かれていた。
「カランカラン…」
 ドアに備え付けてあるカウベルが店内に訪問者の到来を告げる。
 それと同時に中から元気の良い女の子の声が聞こえてくる。
「いらっしゃーい!あ、トリーシャじゃない…うわぁ、ずぶぬれじゃない。ちょっと待っててね。今タオル持ってくるから。」
 時刻はちょうど3時頃。どんなに昼食が遅い客も2時半までには食事を済ませ、今はさくら亭にとって、一番暇な時間である。
 トリーシャは自分以外に客がいないことを確認してぬれたスカートの裾を絞りながら、この気が利く少女に返事をする。
「うん。ありがとうパティ。イキナリ雨が降ってきてさ、実際参ったよ〜。傘も何も持っていってなかったんだもん。」
 聞いて取れるように、トリーシャとパティとても仲が良く、結構幼いころからの付き合いであるのである。
 トリーシャは、パティから手渡されたタオルで濡れた体を拭いている。
「あ〜あ、スカート今日干しても、この天気じゃ明日までに乾かないだろうな。」
 彼女はそう言うと思いっきりスカートの丈をたぐりあげて水を絞る。
「ちょ、ちょっと、あんたパンツ丸見えよ!」
 とパティ。
「ええ、うそ!やだ〜、見ないでよう。」
 とトリーシャ。
「あんたね、ここでゆっくり着替えられて迷惑なのはあんたより私のほうなんだからね!とっとと、スカートも上着も脱いじゃいなさいよ!替えを貸してあげるから。」
 と、ちょっときつめにパティ。
「パティのえっち。」
 トリーシャがボソっとつぶやく。
「女同士でなにいってんのよ早くしないとほかのお客さんが来るわよ!それでもいいの?」
 と、ちょっと意地悪にパティ。
「それは困るぅ!」
 トリーシャはセーラーの上下を豪快に脱ぎ捨てると、それをパティに渡し、替わりに着替えをもらう。
「あ…」
「何よ、まだ何かあるの?」
「あのさ、できれば、パンツもかえたいんだけどな…」
「はあ、わかったわよ。今持ってくるから、ちょっと待ってて。」
「はーい。」
 そう言うとトリーシャは替えのスカートと淡い青色がきれいなTシャツを着て、スカートの下から、パンツを脱いで取り出し、鞄の内ポケットの中に押し込む。
「う〜、パティまだかな、下がスースーして気持ち悪い〜。」
 やがて、パティが階段を降りてくる。
「ごめ〜ん。
 模様がついてるのはなのはちょっと恥ずかしいから、無地のパンティーさがしてたら、ちょっと時間かかっちゃって・・」
「そんなのいいから、早くパンティー頂戴。」
 トリーシャはパティからパンツを受け取り、すぐにそれを履く。
「本当なら、ブラジャーもほしいけど、僕の方がオッパイ大きいしね。」
「うるっさいわね!さ、何か食べてくなら何か注文して!そうじゃないなら帰ってよね。傘貸してあげるから。」
 トリーシャの言葉に、パティはいささか不機嫌そうになる。
 ボーイッシュな外見の反面、そういうことは結構気にするらしい。
「あは、ごめんごめん。じゃあ、今日はホントにありがとね。」
 トリーシャはそう言うと、パティから傘を受け取り、店を出ていった。
 パティは、トリーシャが出っていって、急にシンと静まり返った店内を見回しながら、
「やれやれ」
 といったような顔をして、また忙しくなる夕方のための仕込みをはじめた。

「ふー、パティはすぐ怒るんだからな〜。あの性格を治さないと、お嫁に行けないぞ。」
 と、いささか失礼なことを考えながら、トリーシャは家に向かって歩いていた。
 そのとき、彼女の左側にある草むらの中から不意に何かのうめき声のようなものが聞こえたような気がして、その方向を凝視する。
 数秒間見つめた後、
「な〜んだ、気のせいか…」
 彼女は気を取り直し、再び歩き出そうとする。
「う・・ぐう…・」
「きゃっ!」
 さっきよりもはっきりと聞こえたうめき声に、彼女は短い悲鳴を上げてしまった。
「だ、誰、そこにいるの?」
 しかし返事はない。トリーシャは、無気味に思いながらも、持ち前の好奇心からその草むらを分けて中を除いてみてみた。
「あ…」
 彼女の目に入ってきたのは、ぴったりとした黒い皮の拘束具のような上着に、同じ黒色のチャップスを重ね履きした若い男だった。右手には特殊な形の手甲のようなものが装着されている。
 年のころなら彼女と同じくらい、だいたい16〜18歳くらいだろう。
 しかし、一般の人よりも、やや黒色のの強い素肌と、雨露に濡れるしなやかな銀髪、そして身を包む真っ黒の上下のせいか、実際の年齢よりも、ずいぶんと大人びてみえる。
 トリーシャは、草むらで倒れている男をしばしぼーっと見つめていたが、彼の腹部から、おびただしいほどの血が流れ出していることにはっと気がつき、
「た、大変、早く病院につれていってあげなくちゃ!」
 と言って、近くにある自警団の事務所に駆け込み、そのことを伝えていっしょに病院まで行った。
 数時間後
「がちゃ」
 ドアが開き、中から白衣をまとった男が出てくる。
「ドクター、さっきの人は、大丈夫なの!?」
 男の第一発見者のトリーシャは、簡単な問答を終え、今はその男のいる病室の前で
「ああ。心配ない。」
「よかった…」
「ただな、少しだけ気になることがある。」
「気になること?」
「そうだ。あの男の体の中から抽出された弾丸の破片だと思われる金属片なんだが…使用された凶器を正確に割り出すために、その金属片の鑑識をショート研究所に頼んだんだが、あの金属片から考えられる武器は、今までのデータに含まれていないらしい。」
「ふーん。」
「過去のデータは、このエンフィールドのものだけでなく、この大陸全土の地域にわたって検索することができる。だと言うのに、当てはまるデータどころか、類似しているデータすらもないのだ。」
「へ、それってどういうこと?」
「今、病室で寝ているあの男は、この大陸の外からやってきた可能性があるということだ。」
「ええ!?それって、あの失われた大地のこと!?」
 ここから、「失われた大地」について少し長い説明に入る。
 エンフィールドのあるこの大陸は、もとは、さらにいろんな国々へと地続きになっていたが、今から数千年前に魔法ですべてを支配しようとしたタナトスと、それに反発する者たちとの激突があり、その結果、勝利したタナトスは反発したものたちの一族に魔力を永遠に封ずる魔法をかけ、その者たちの住んでいた大地ごと虚空の中へと消し去ってしまったのだ。
 地図上から消え去ったその土地は「失われた大地」と呼ばれている。
 そして、その土地のの住民たちがどうなったのかは詳しくは公表されてはいないが、魔術師ギルド本部の時空を干渉する禁忌の呪法を用いた調査の最終報告によると、魔法を失った民は、蒸気機関という機械の文明を確立し、魔法を使わずにこの世界以上の繁栄を遂げているということらしい。
 そして、その最終報告からもう100年以上の年月がたっている。
 その間、先ほどの時空を干渉する禁忌の呪法や、さまざまな強力な魔法アイテムを用いて、失われた大地のことを知ろうと、さまざまな学者や錬金術師などが調査に乗り出しているが、あまり調査状況に進展はないらしい。
 唯一わかっていることは、その土地の大まかな地理と歴史だけである。
存在がはっきりとわかっている国は、「アメリカ・日本国・イギリス・ロシア」
の四ヶ国だけである。
 ちなみに、それぞれの国で使われている言語は、こちらの大陸で使われているものである。
 特に、「日本国」という所の言語は、ここエンフィールドをはじめとしてさまざまな国で使われている、もっとも普及範囲が広い言語である。
 歴史としては、今から50年ほど前に、こちらとあちら、両方の世界でも類を見ないほどの大規模な戦争が勃発していたらしい。
 機械の鳥が空を飛び交い、鉄の海龍が海を舞台に激しく激突し、こっちの世界のものとは、比べ物にならないほどの威力を持った「爆弾」が使われ、それによって、広範囲に渡りあらゆる生物・建造物が一挙に失われたということだ。
 その威力のすさまじさは、戦後まもなくの状況を視察してきた中央魔術師ギルドの長と他数名の判断により、現在エンフィールドに存在する最強の魔法兵器「ファランクス」のそれを軽く50倍は超えるものだ。
 と魔術師ギルドの最重要機密機関へ報告された。
 これらの失われた大地に住まうもの達についての報告は、一般大衆には公表されてはいない。かつて戦いに勝利し、この世界から追放した相手が、自分達とは比べ物にならない程の戦力を蓄え、報復の機会を狙っている、などといった酔狂な学説による混乱を防ぐためである。
 そのせいもあって、今から100年以上前の蒸気機関文明発覚という最終報告以来、一般大衆はなにも新しい情報を得ていない。
 トリーシャも父親のリカルドから蒸気機関を用いた文明の話を聞いたことがあり、少し興味がでて、図書館の本を調べたり、物知りな知人に聞いたりもしてみたが、リカルドに聞いたこと以上のことは少しもわからなかったので、トリーシャはすっかり興味を失い、その「失われた大地」のことを忘れてしまっていた。
 説明は終わり、話は物語へと戻る。
「そのとおり。この男が、失われた大地について詳しく知るための良いサンプルになるかもしれない、ということだ。」
 トリーシャは、ほけーっとした顔で、自分の頭の中で、今の会話から得られた情報を一生懸命に整理する。
「ってことは、もしかしたら、あの話の続きが聞けるかもしれないってことかなあ?」
「…あの話?」
「いや、なんでもないんだ。僕の独り言だと思って聞き流して。」
「そうか。」
「がちゃ」
 不意にドアが開き、その中からさっきの男がめがねをかけた少女にまとわり着かれながら出てくる。
「まだ、傷はふさがってないんですから、起き上がったらダメですよぅ。」
「ディアーナちゃん。」
「あ、トリーシャちゃん、こんにちは。って、のんきに挨拶してる場合じゃないんです。トーヤ先生、この人が、ベッドに戻ってくれないんですぅ。」
 ディアーナは、にっこり挨拶したかと思うと、いきなりあわただしくなって、トーヤに今にも泣きそうな顔でそう言った。
「あんたか、オレを助けてくれたのは。」
「あ・・はい。」
トリーシャが男の質問にたいし、戸惑いつつ答える。
「オレの名はK’。あの状況からどうやってオレを助けたのかは知らねーが、感謝してるぜ。」
トリーシャは、困惑しつつも、赤くなりうつむく。
「K’君っていうんだ、珍しい名前だね。僕はトリーシャって言うんだ。それと、僕は大した事はしてないよ。お礼なら、そこのドクターに言ってよ。」
「そうか、ありがとうな。ドクター。」
「…僕も、ちょこっとだけ、K’君を助けるために救援を呼ぼうと頑張ったんだけどね。」
 K’は、改めてトリーシャの服に目をやると、ビショビショに濡れている。
 外からは雨音が聞こえてくるが、おそらくは、この雨の中を傘もささずに走り回っていたのだろう。
「なんで、身も知らねえオレの為なんかに」
「き、気にしないでよ!・・困ったときは、お互い様だよ。」
 赤くなってうつむいたトリーシャと、そんなトリーシャを見つめるK’との間に、しばしの沈黙が流れる。
 そしてその沈黙を破ったのはトーヤだった。
「おい。面会時間はもう終わりだ。K’とか言ったか、お前の体はまだ起き上がるには早すぎる。早くベッドに戻るんだ。」
「ああ。」
 簡単な返事をして、K’はディアーナについて病室に戻っていった。
「ばたん」
 元気そうで良かった・・、トリーシャはそう思いながら、K’の病室のドアを見つめる。
「トリーシャ、お前も早く帰って暖かい格好をしなければ風をひくぞ。」
「あ、うん。じゃあね、ドクター。あ、それと、また明日来たら、K’さんと面会させてくれる?」
 トーヤは一瞬考え込んだが、すぐに返事をする。
「本人さえ拒否しなければな。」
「うん、わかった。じゃあね。」
「気をつけて帰れよ。」
「とたたたた…がちゃ、ばたん。」
「まったく、騒がしい奴だ。」
 トーヤは病院を出ていったトリーシャを見送りながら、そう言った。

 トリーシャとK’。この二人の数奇な出会いが二人の運命を大きく変えていくとは、今は本人達はもちろん、それを見守る第三者たちさえ知る由もなかった…・


あとがき

 なんか、内容がかなりK’とトリーシャをひいきしたものになってしまいましたが、第二話からはもっとたくさんの悠久キャラを物語に絡めていきたいと思っています。
あと、かってに作った設定などもありますが、そこはこの先物語を面白展開していくために必要なもの。
 ということで大目に見てください。すいません。
 それでは次回予告をどうぞ。

<次回予告>

 トーヤが往診で留守の間にディアーナが止めるのを聞かず、町に出たK’、たまたま通りかかった自警団の訓練所でアルベルトとリカルドに出会う。
 リカルドの強さを娘のトリーシャから聞いてたK’は早速リカルドに戦いを挑む。
 しかしアルベルトにさえぎられ、アルベルトと喧嘩。一瞬にしてアルベルトを沈めるK’。
 新第三部隊隊長についで自分の右腕にあたるアルベルトを軽々と倒したK’にリカルドは驚きを隠せない。
 そのときディアーナがK’を連れ戻しに訓練所に乱入してくる。
 そして、リカルドはK’が手負いの状態であったという事実を知りさらにK’の実力に興味が沸く。
 リカルドはG−1などの闘技大会などは、自分のほかの人間とはかけ離れた戦闘力を考慮して、ゲストとして招かれたとき以外の出場は自粛していた。
 が、今回はK’の力を知るため、K’に近々開催されるG−1への出場をすすめ、自分も出ることを決意するのだった。

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