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マリアの魔術書の棚

悠騎

「ねぇパティ〜なんか面白いことないのぉ?」
「トリーシャ、アンタ流行の水先案内人なんでしょ?それくらい自分で見つけなさいよ」
 二人の少女がカウンター越しに話をしている。場所は、このエンフィールドでは誰もが知っているという『さくら亭』、そのカウンターだ。
 パティと呼ばれた片方の少女はカウンターの中から声を掛けてきていた。皿を拭きながらうだれているもう一人の少女に半眼でつぶやく。彼女、パティはこのさくら亭の看板娘でもあり、この街ではそこそこの有名人だ。
 トリーシャと呼ばれたもう片方。彼女は大きなリボンをしていたがカウンターに突っ伏しているためそのリボンが邪魔になり今は顔がよく見えない。彼女もこの街ではかなりの有名人で、情報収集や流行物に鋭く学校では『流行の水先案内人』などと呼ばれていた。
 さくら亭は宿兼食堂で、いつもは人がいるのだが今の時間帯は流石にいない。あと二時間もすれば昼食を食べに誰かがやってくるのだろうが……。
「だぁって今日はお休みだって言うのにシェリルや悠樹さんも用事で出かけてるんだもん…」
 そう言ってトリーシャはグラスについであったココナッツミルクを飲む。残り少なくなっていたためズズズ、と音を立た。
「だからってここに来ても誰も来ないって言ってるじゃないの。あと二時間もすればお昼を食べに誰か来るかもしれないけど…」
「う〜ん、二時間も待てないぃ〜」
 トリーシャは突っ伏したままうめいた。ふと入り口を見てみるが、ドアが揺れることはなかった。
「何か面白い―」
 パティは諦めて無視することにしたが、トリーシャがそこまで言いかけたとき、無視するわけにはいかない状況になった。
「むぎゅう」
「きゃー!」
 いきなりトリーシャが床に沈んだ。一瞬の出来事だった。視界からトリーシャの姿が消える。が、パティにはその状況を即座に判断できた。聞き慣れた声、カウンター越しに見える結った金髪。
「マリア、アンタいい加減空間転移の魔法使うのやめなさいって」
「う〜、マリアぁ〜どいてぇ〜」
 いきなり現れたのはトラブルメーカー……もとい!粗悪の根元……じゃない!ショート財閥ご令嬢、マリアだった。
 馴れない空間転移で……と言うか失敗続きの魔法でトリーシャの上に転移してきたという寸法だ。
「え?ここ……わぁ!ご、ゴメントリーシャ!」
 痛そうに腰をさすりながらきょろきょろしていたマリアもようやく状況を判断してトリーシャの上から飛び退いた。
「イテテ…鼻打っちゃったよ。マリア、今日は何事?」
 少し赤くなった鼻をさすりながら毎度のことのようにトリーシャが聞く。
 マリアの方はそんな言われ方が心外とばかりに言い返してくる。
「トリーシャ、それじゃあマリアがいつも失敗してるみたいに聞こえるじゃない!」
「いつも失敗してるのよ…」
 そんなつっこみを入れてきたパティに標的が変わった。
「そ、そんなことないもん!だいたいここに来るつもりじゃ……あ!」
 いきなり大声を上げるマリアに対して無論のことびっくりするトリーシャとパティ。
「ど、どうしたの?マリア」
「は、早くカイトのとこに……」
 もう空間転移は良いのかトリーシャの問いかけにも答えず、ドアを出て突き進んでいった。
 残された二人は唖然とそれを見送っていたが、我に返るとトリーシャの口からいきなり予想不能の言葉が出た。
「パティ、お勘定」
「へ?あ、アンタ行くつもり?またなにかに巻き込まれちゃうわよ」
 そんなパティの忠告もトリーシャは当たり前のように軽くあしらった。
「だって暇なのよりはマシでしょ?」
 トリーシャはあらっぽく勘定を置くとマリアの通っていった道をそのまま通ってマリアを追いかけていった。
 一人取り残されるパティ
「………何が起きても知らないからね〜」
 語尾の方が虚しそうに辺りに霧散した。

「えーっとマリアはカイトさんのところに行くって言ってたから……」
 そう独りごちながらトリーシャは走る足をジョードショップに向けた。
 彼女の足はハッキリ言って速い。その華奢にみえる身体とは裏腹に、学校の体育系の大会でも代表選手としてよく出場する。
 さくら亭からジョードショップまでの距離はそんな彼女の足でものの五分もかからなかった。
 カランカラン
「こんにちわー」
 トリーシャはあまり差の開いていなかったマリアに追いついていないことを訝りつつも飛び込むように店のドアを開けた。
「………」
 ふと訪れる数秒間の沈黙。トリーシャの目にはその光景が地獄絵図でも見ているかのような錯覚に刈られた。
 状況としては、椅子に座っているカイト(何故か下半身が馬)テーブルの上に箱を置いてその上にいるテディ(というか魚の顔だけテディ)奥から出てきたアリサ(背中から羽根がはえているうえに口がくちばし)テーブルに二つの手のひらを打ち付けているマリア(この状況で唯一無傷)。
 トリーシャはその状況を見渡してからいったん外に出た。ぱたぱたぱたと店の前の階段を下りて数メートル店から離れる。一定距離離れると振り返り店を凝視した。
「一応はジョードショップよね……」
 確認してから元来た道を戻りトリーシャは店の中に戻った。
「どういうこと!?」
 店の中に戻って現場をもう一度確認したとき、先刻と全く同じで微動だにしていない光景が伺えた。
「どうもこうもないよ……」
 ようやく呪縛から解き放たれたその場の人間(?)の中から、カイトが(半分馬)深々とため息を付きながらうめいてきた。
「マリアがまた魔法失敗したんだって」
「ま、またぁ?」
「だからこの状況はマリアのせいじゃないって言ってるでしょ!」
 カイトの説明に一路振り下ろしていたであろう腕をもう一度上げ、再び振り下ろしながらマリアは講義した。半身馬人に。
「何でも良いから直して欲しいッス〜」
「ぴぃ♪〜」
 その状況下でトリーシャは半眼でうめいた。
「アリサおばさんあんまり喋らない方がイイと思うよ。……それとテディ、お願いだから箱の上でばたつくのやめて……」
「ぴいぴいっぴぃ」
「ご主人様が今お茶を煎れますっていってるッス」
 鳥語なのか何なのか解らないが、テディには解っているらしくアリサは言ったとおり奥に戻っていった。
 とりあえずテーブルに腰掛けるトリーシャ。
「で?何でこんな事になったの?」
 少し嬉しそうに、トリーシャが問いかける。
「だからそれはコイツが―」
「違うって言ってるでしょ!」
 カイトが指を突きつけようとしたのをマリアが制して続ける。
「これはタナトルの魔術書のせいなの!」
「ねぇ、マリアそれって『タナトス』じゃないの?」
「違うの、タナトルの魔術書!」
 思いっきり腕を振りかぶり、三度腕を打ち付ける。
「『タナトス』じゃなくて『タナトル』なの!」
 タナトル……トリーシャはその聞き慣れない魔術書の単語に変な違和感を覚えた。
「そ、そのタナトルっていったい何?」
 そう言ったところで奥に行っていたアリサがひょっこりと顔を出す。手には紅茶の並んだトレイがある。
「ぴぃぴぴぃ」
「どうぞって言ってるッス」
「だ、だからねアリサさん、声が綺麗なのは解るから……」
「まぁそれはそれでおいといて、本題に戻そう……で、そのタナトルってのがオレ達をこんなにした訳か?」
「そうだよ」
 多少怒りながらもマリアが返してきた。カイトが怪訝な顔をしながらあとを続ける。
「もしかしてそのタナトルって言うのはピンクのパッケージで真ん中に、スをまるで囲んだ模様があって『私はタナトスなのだぁぁぁぁコワイだろぉぉぉ』とか叫ぶ本の事じゃないのか?」
 トリーシャはそんなことをすらすらと言ったカイトと無言で聞き入っているマリアを見比べた。遠巻きにアリサがくちばしで無理矢理お茶をすすっているのが見えたがあえて見ないことにしておいた。
 マリアが本当に不思議そうな声であとを続ける。
「何で知ってるの?」
「ここに来たからに決まってるだろ!」
 カイトは半眼でうめいた。馬の下半身をばたつかせて。
「何でその時捕まえなかったのよ!」
「できるかそんなこと!今でさえ座っているのがやっとなんだぞ!」
 カイトが馬の……以下略!
 そんな光景を目の当たりにして、嫌な予感ビンビンでなおかつ冷や汗などをたらしながら自分の前に置かれたお茶をすすった。遠巻きにアリサが……まだ頑張っている。
 ふと気が付くとさっきまでぎゃあぎゃあ騒いでいた二人が、もの凄い形相でこちらを見ている。
 ふぅ、と一つ深く深く……ため息とは違った息をトリーシャは吐いた。
「で、ボクにどうしろって言うの?」
『関わった以上手伝ってもらうよ!』
 二人の声がそろった。テディが箱の上で暴れる。アリサは……まだ頑張っている。
(やっぱりパティの言ったとおりさくら亭で待ってたほうが良かったかも)
 トリーシャは胸中で独りごちた。これが後悔なんだろうなと皮肉混じりに付け足しながら。
「わかったよ、だからどうしてこういう状況になったかくらい説明してよ」
「そ、それは……」
 何故か躊躇するマリア。その事に二人は思い当たる節が幾つもあったがあえて口には出さなかった。が……。
「マリア…」
 口を開いたのはカイトだった。トリーシャには、遠巻きにアリサが店の奥に行くのが見えたがなるたけ気にしないようにしていた。
 カイトの声に怯えるように返すマリア。
「な、なぁに?」
「躊躇するようなことなのか?」
「……」
「……」
「……」
 三人を襲った沈黙。いつの間にか忘れ去られているテディは暴れ疲れて寝ていた。なんかこれから三枚におろされそうに。
「実は……」
 ようやくマリアが口を開いた。
 奥から出てきたアリサは手にストローを持っていた。これで解決!とばかりにティーカップにストローをさす。ただくちばしではストローがくわえられなかったというのは余談である。

二時間前〜
「ねぇねぇねぇ、新しい魔術書って何処?」
 朝早く、とはいえ八時前だろう、まぁ美術館が開くには多少早い時間ではあった。そんな美術館の受付で、彼女は身を乗り出して聞いていた。
「えっとですね、タナトルの魔術書は二階の魔術書展示室の真ん中辺りにありますよ。でも今は―」
「ありがと!」
 マリアはそう言い切ると受付の話も聞かずに階段をダッシュしていた。
「あ、あの……」
 見慣れた階段を駆け上がり、目的地へ向かう。彼女にとってはいつものことだった。いつものように目的地に向かって全力疾走……。が、いつもと違うのはそこからだった。
 見慣れた廊下に見慣れぬ看板、それには『魔術書タナトル関係者以外立入禁止』……。
 遠巻きに見えるショーケースの中にある魔術書、あれがそのタナトルなんだろう。しきりの周りからでも見れるな、そう思った彼女は先に先に進もうとする自分の足を制止しようとした。が―。
 ツルッ
「へ?」
 突然足の自由が無くなったことに彼女は違和感を覚えた、無理矢理足に注意を向ける、そこには雑巾があった。……ようは雑巾踏んづけてスッ転んだのだ。
「えぇ〜!?いったいこれ何年前のギャグ???」
 そんな情けない声を上げるマリアに重力は味方してくれない。
 どっかぁぁぁぁ〜〜ん
 ハイお約束。マリアはタナトルのショーケースに突っ込んだ。

「それで……」
「も、もぉいい、大体の事情は解ったから」
「う〜」
 頭を抱え、うめくマリアを下半身(以下略)のカイトがフォローする。
「ま、まぁたまにはな」
「そ、そおよね、たまにはね」
 マリアは何となく元気が出たのか両手を握って胸の前に持ってきている。
 そんなマリアにトリーシャはふと思った疑問をぶつけてみた。
「そのタナトルって今何処にいるの?」
 マリアは頬に一筋の冷や汗をたらす。
「分かんないの?おかしくない?」
「なんで分かんないとおかしいんだ?」
 疑問が飛び交う店の中、カイトの疑問に答えたのはトリーシャだった。
「学校で習ったんだけど、魔術書が意志を持つとその本に書いてある内容に関係あることをしようとするんだよ」
「そ、それはね、タナトルって言うのは実は魔術書じゃなくて小悪魔なの。タナトスにあこがれた小悪魔が封印された書。実はそれがタナトルだったの」
 答えたマリアに更に疑問を投げかけるカイト。
「もしかしてその小悪魔とこの不完全な魔法は関係あるのか?」
 カイトは自分の下半身を指しながら言った。
「うん。その小悪魔は物質変化の魔法を練習してるときに封印されたんだけどまだ未完全なままだったから半分しか変化させられないのかも」
 そこまで言うとマリアは立ち上がる。
「どうしたの?マリア」
 問いかけるトリーシャにまっすぐ顔を向けて答えるマリア。
「行くよ、カイトがこんなのだし今はトリーシャに来てもらわなきゃ、ここで無傷なのアンタだけなんだから。早くしないと街中こんなのだらけよ」
 思いっきりテディを指すマリア。指に力を込め過ぎて指がふるえている。
「好きでこんなになっている訳じゃないッス!」
「お願いだから暴れないでってテディ……。解ったよ手伝う、手伝うから」
「解ったら早く行くよトリーシャ!」
 トリーシャの手をひっつかみ駆け出すマリア。
「え!?ちょ、ちょっとマリア」
 無力にひっぱられていくトリーシャ。カイトとテディはそれを見送った。暴れながら。アリサはもちろん……まだ頑張っていた。

「ね、ねぇマリア、そのタナトルってヤツどうやって捕まえるつもり?」
 唐突にトリーシャをひっぱる力が止まった。マリアが唖然としているようだ。
「…………」
「じゃ、じゃあさ、そのタナトルに魔法で変身させられた人を、追っていけばそのうち見つかるんじゃない?」
「!!!」
 マリアの顔に希望の光が射したような気がした。それと同時に、ひっぱられる力も復活した。
「ちょ、ちょっとマリア、何処行くの?」
「役所の方!」
 程なく役所に着く、美術館とジョードショップの位置からして、そっちに向かうのが妥当だろう。
 役所の中は、ある程度予想していたが、なんかもー程良く凄いことになっていた。
「………」
「………」
 バタン
「見なかったことにしよう」
「そうはいかないでしょうが」
 マリアの提案を、とりあえずあしらったトリーシャは、腕を組んでうんうんうなっていた。
「でも、とりあえず、こっちには来たみたいだから……」
「ここから先が途切れ―」
 ふと役所の中から悲鳴のようなものが聞こえてきたような気がしたが、そんなことにはいっこうにかまわず、前を見ていると学園通りから走ってきた、半身猫半身犬に言葉を奪われた。
『あっちだ!』
 二人の声がそろった。

 中途半端に変身させられた人々を追っていくと、いつしかなんだか分かんないが、とりあえず魔術書っぽいところに着いた。
「魔術書って言えばねぇ」
「っていうか本じゃん」
 着いた先は何故か、旧王立図書館だった。まぁ、お約束って言ったらお約束かもね、と胸中で付け足していたトリーシャだったが、とりあえず……見たくはないが入ってみようと足を踏み出した。
 図書館にはいると、そこには人がいなかった。
「あれ?今日休館日じゃないよね」
「たぶん違うと想うけど……」
「もしかしたら……」
「ありうるかも…」
 嫌な予感が的中しないことを二人は願ったが、それもあんまり期待できないと胸中で付け足していた。
「ねぇ、トリーシャ、タナトルの一番嫌なところって何処か解る?」
 唐突にそんなことをマリアが言ってきた。
「ううん」
 一筋の冷や汗をたらして、トリーシャが首を振った。少ししてマリアがあとを続ける。
「人とか動物とかを見つけるとね、だれかれかまわず『あの』魔法をかけちゃうの。しかもさっき言ったとおり……」
「未完成な魔法……」
 マリアは無言で肯いた。身をかがめて神経をとぎすます。こんなところに来て、しかもそんなふざけたヤツを追いかけて、こんなに緊張するなんて思っても見なかった。と独りごちるトリーシャ。
と―。
 ドサッ
 一冊の本が頭上から堕ちてきた。
 本自体は茶色い、大きさとしては一般的な魔術書の大きさだ。ただ、タイトルとおぼしき本の表紙にはスが○で囲んである。
 二人の少女の顔が蒼白になっていく。
「これ?」
「うん」
 指さして聞くトリーシャに、冷や汗をたらしながら答えるマリア。
 と、突然『それ』が浮かび上がり、哄笑した。
《わーはははは。私はタナトスの魔術書!死にたくなければ覚悟しろ!》
「ルーン・バレット!」
 手のひらから出た四つの炎が、それの中心に集まり爆発した。
「やったぁ成功!」
 いつの間にか間合いを取っていたトリーシャと、同じくらい離れてキャピキャピと歓声を上げるマリア。
《いきなりなにするんじゃ!》
「死にたくなければ、なんて言われて黙ってるバカが何処にいるって言うの!」
 マリアの横でトリーシャは魔法を放てる構えを取りながら言った。
《………》
 トリーシャが視界に(と言っても目はないが)入ったことにより、突然タナトルの動きが止まった。そして、何を思ったのかタナトルは、スーッとトリーシャに近寄ってきた。
「な、なになになに!?」
 混乱するトリーシャにピトッと、タナトルがくっついた、そして。
《お嬢ちゃん、お名前何てーの?》
「???」
「………」
 そんなタナトルの一言に、二人は硬直したまま混乱した。そして更に追加攻撃を……。
《うち嬢ちゃんに一目惚れしましたわ》
 次の瞬間トリーシャの、必殺右斜め四十五度トリーシャチョップがタナトルの側面に決まっていた。

一週間後〜
「もぉどぉにかしてよぉ悠樹さーん」
「どうにかしろっていわれてもなぁ」
《トリーシャはん、そんな冷たいこといわんとぉ、これから何処か行きましょうや》
 さくら亭の午前は、相変わらず暇だった。暇なところには暇な人しか来ない。と、言うことで、暇な人が数人ここにいる。
 相変わらずタナトルはトリーシャにくっついていた(何故か関西弁)。街の人達はトリーシャが、タナトルに頼んで何とか元に戻してもらった。マリアはと言うと、あのあと美術館の館長と悠樹、カイト、挙げ句の果てはテディにまで怒られて、今はさくら亭の端っこでいじけている。トリーシャと悠樹は何とかタナトルを押さえつけようとしていたが、なにぶん美術館の展示品なので手荒なことができず、困っていた。パティはと言うと、そんな暇な人達の暇な行動を楽しんでいた。
「そういえばさ、早くそいつ美術館に返して、って館長さんが来てたわよ」
 苦笑混じりにパティが言った。
「ひーん、助けてよぉ」
「このやろ離れろ」
《トリーシャは〜ん》
「そんなテディまで怒んなくても良いじゃない……」
 とりあえずさくら亭の午前は、暇ではあったが、平和でもあった。

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