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raindrop(仮)

浅桐静人

 今まで、悠久1・2のメインキャラの中でヴァネッサとシェリルだけが、SSに出したことがない。そのため、一気に二人とも出してしまおうという計画で書き始めたもの。
 が、やはり設定に無理があったか、序盤を書いたのみで行き詰まった。以下は、その全文。

 エンフィールドにしては珍しく、三日連続の雨。風はなく、たくさんの雨粒たちが垂直に落ちてくる。
 公安維持局、通称「公安」の役員ヴァネッサ・ウォーレン(二二歳♀)は湿った髪を掻き上げながら、拳銃をさらに固く握った。いつも身につけている護身用の銃とは別の、ほぼ最新式のものだ。
「なんでこんなことになっちゃったのかしらね」
 実戦経験の乏しいヴァネッサは、早くも不安に駆られていた。その隣には、無口なままで銃の弾を込める、無愛想で無職のルー・シモンズ(一八歳♂)の姿があった。
「ひとつ聞くけど、なんであなたがここにいるわけ? それに銃なんて使えるの?」
 自分だって銃の扱いは不安材料でしかないのだが、ここは役員と一般市民の差というものがある。
「照準を合わせて引き金を引けばいいだけだろう、それくらい俺にだってできる。そうでなくともその昔、模擬戦に凝っていたことがある」
 瞬時かつ冷静に言いくるめられ、ヴァネッサは口をつぐんだ。一般市民の銃の保持が禁止されているわけではないので、これ以上追求しても無駄だ。口論でイヴ、ルー、リカルド、トーヤの四名に勝てないのは先刻承知だった。
「それに、今日はこの戦いに参加するのが吉と出た」
 銃の予備弾丸が入っていたはずの紙箱から、なぜかタロットカードがでてきた。
 あんたは手品師か、と言いたいところを堪えて、
「どーせそんなことだろうとは思ってたんだけどね」
 ヴァネッサはため息混じりで言った。
 激しく降りそそぐ雨の音に掻き消されて、返事代わりのタロットを切る音は誰の耳にも届かなかった。
 銃を構えつつカードを並べる無職の男性。見ようによっては図太い神経の持ち主にも見える。だが、ヴァネッサには理解不能な人物像であることは間違いなかった。
(緊張感のないヤツねえ)
 ルーにも聞こえる声量で独り言つヴァネッサは正反対に、緊張でガチガチに固まっている。この状況、いきなり攻撃されたらどちらも対処できずにあっけなく敗北するのは目に見えている。
 幸運にも、今のところ動く様子はなさそうだ。
「どうしてこんなことやってるんだろう」
 一言しゃべるたびに舌を噛みそうになる。
 それはともかくヴァネッサの疑問は、実は答えが解っている。敵をあなどって、ひとりで大丈夫と高をくくり、単身で戦地に赴いたからだ。
 与えられた任務は、たったひとりの魔物退治である。以前読んだ資料によると、固くて衝撃には強いが、魔法や銃にはとことん弱いとのことだった。本来なら、ひとりでも十分対処可能だと断言できる。
 がしかし、魔法攻撃を一切受け付けない上、人間に憑依するという反則的な強者に変貌していた。
 シェリル・クリスティア(十七歳♀)が積み上げていた本から、何らかの原因で飛び出したとき、他の本にかけられていた魔法が次々と連鎖的に発動したと推測される。最も間近で見ていたはずのシェリルは、現在その魔物に乗り移られているという有り様だ。
 ともかく魔法が効かないので、遠距離攻撃可能かつ威力絶大な拳銃が最も適した武器ということになる。念のために銃を持ってきたのはよかったが、憑依されていては撃つにも撃てない。
「シェリルさんを傷つけないようにやっつけるのは、ちょっと無理よね」
「方法はあるかもしれない」
 いつでもトリガーを引けるように銃を構えたルーが立ち上がった。
「魔物が封印されていたという本を調べれば何か分かるだろう。二十分以内に戻るから、とりあえずこの場は任せた」
 呆気に取られるヴァネッサを残し、ルーは器用に足音を消して水晶の館を去っていった。
「え、ちょ、ちょっと」
 状況を把握し、狼狽した頃には、後ろ姿はもうなかった。もっとも、行き先はすぐ近くの旧王立図書館だと分かっているのだが、持ち場を離れるわけにはいかない。
 図書館のすぐ近くにある水晶の館での、奇妙な事件。
 魔物憑きのシェリルと、それに対して積極的な行動のとれないヴァネッサとの静かな戦いは、これからはじまる。……たぶん。

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